150 / 183
派遣勇者の進む道
148.空へ
しおりを挟む
■エルフの里
~第13次派遣2日目~
タケルは下からの風を受けながら前後左右に動かされて生きた心地がしなかった。地上からの高さは30メートル以上あるのだ、固い地面に落ちれば無事では済まない。
「ブーンさん! 一度降ろしてもらえませんか!?」
タケルは大声で必死に意思を伝えた。
-良いよ。
頭の中に返事が届くとゆっくり降下し始めた。緩やかに地面に足がついて、遅れて手のひらもつけることが出来た。
「ブーンさん、いきなりはダメですよ! 怖いじゃないですか!?」
-そうなのか? 君たちは飛ぶのが好きなんだと思っていた。
「嫌いと言うわけではありませんが、人間には“慣れる”と言う手順が必要なんですよ」
-ふーん、そうなんだね。じゃあ、どうすれば良いの?
「そうですねぇ、まずはもう少し低い高さで宙に浮くようにしたいです」
-じゃあ、それを想像して腕輪に伝えてごらん。
「想像ですか・・・」
タケルは頭の中で体が1メートルぐらい浮き上がる風をイメージして、左腕にはめた腕輪を右手で握りしめた。猛烈な風が下から吹きあがりタケルが前のめりになると体が持ち上がり始めた。うつ伏せになって両手を広げて風を受けると風の力が少し弱くなった気がする。吹き上がる風はタケルの姿勢が安定するように自動的にコントロールしてくれているのだ。
頭の中で体が少し前に動くイメージをすると、足先から風が吹き始めてそのまま前に進みだした。今度は横に、次は後ろに・・・、低い高さで移動を繰り返すと、タケルは風に包まれている安心感が広がってきた。
-落ちないように僕の風が守ってあげるから大丈夫だよ。
「わかりました。もう少し高いところに上がってみます」
タケルは高さを少しずつ上げて行き、渓谷を作っている断崖の上まで飛び上がった。ブーンの言った通り、飛ぶのが楽しくなってきた。断崖の上から見ると、風の谷は想像していた通りに起伏のある山をえぐるような形で森に向かって伸びていた。
断崖の上の山は北に向かって高くなっていて、はるか向こうには真っ白になっている山の峰がいくつも見えている。空中でうつ伏せになったまま回転して、エルフの里のある森を見てみる。かなり広い森が広がっているが、その左、方角で言うと東には、更に広大な森林が広がっていた。
そのまま何処まで上がれるのかを試してみたくなって、ゆっくりと高度を上げて行った。吹き付ける風の強さは一定だが、どんどん地面が遠ざかっていく。風に包まれている安心感はあるが、やはり怖くなってきて今度は少し速いスピードで降り始めた。どんどん地面が近づいて来たので、空中で急停止しようとするとイメージ通りに宙で停止した。
ブーンが言っていた通りに、タケルがイメージすれば必要な風が勝手に拭いてくれるのだ。風の強さや方向などを全く考えなくて良い。まさに風の精霊の加護なのだろう。一つだけ問題点があるのは、ずっと風が吹き続けているので、かなり寒くなってきたことだ。飛ぶときには重ね着をしておくことにしよう。
上昇、下降、急停止、横移動、旋回、回転等を色々試して体と腕輪に感覚をしみこませてから地上に戻った。
「ブーンさん、ありがとうございます。思うように飛ぶことが出来ました」
-ほらね。飛ぶのは楽しいはずなんだ。
「ええ、とても楽しかったです。ところで、この腕輪の使い方はこれで合ってるんでしょうか?」
-合ってる? 使い方は君次第だよ。
「他にも風の力でやりたいことがあれば、実現できると言う事ですかね?」
-うん。僕がその腕輪で君がやりたいことを叶えてあげるよ。
「わかりました。では、今日はこれで失礼します」
-あれ? もう帰っちゃうの?
「ええ、そうしようと思っています・・・、ブーンさんは私に付いてきたりしませんよね?」
-ついて行く? どうしてかな?
「水の精霊・・・、ヒメって名付けたんですけど。その精霊は私の傍にずっといますから」
-そうなんだね。僕はこの谷の清き風を守るのが役目だから動かない。
「風の精霊と水の精霊・・・、お二人? は知り合いだったりしないんですか?」
-僕たちに見えるのは神が決めた人たちだけだよ。精霊?何かが居るのは感じるけど・・・
「ヒメも同じなの? 他の精霊が見えたり話せたりはしないの?」
-そうです。私たちは神が認めたものとしか会話はできません。
何だか変な話だ、二人とも神の使いのはずなのに、当事者同士は話も出来なければ見ることも出来ないと言う。
「そうなんだ。いまは風の精霊ブーンさんの力を借りて空を飛ぶことが出来るようになったんだよ」
-ええ、見ていました。 楽しそうに飛んでいましたね。
「ブーンさん、今日のところは帰ります。風の使い方で教えてほしいことがあったらまた来ますから、よろしくお願いします」
-そう、いつでも遊びに来てね。エルフの長にも伝えてよ。
「わかりました。お伝えしておきます」
タケルはそう言うと、腕輪を触りながら宙へ舞い上がって、風の谷の中を森に向かって飛び始めた。
タケルはとうとう空まで飛べるようになったことに感動していた。時給バイトで派遣されているのに・・・、だけど、この世界に居る間は勇者として精一杯頑張ろう。
~第13次派遣2日目~
タケルは下からの風を受けながら前後左右に動かされて生きた心地がしなかった。地上からの高さは30メートル以上あるのだ、固い地面に落ちれば無事では済まない。
「ブーンさん! 一度降ろしてもらえませんか!?」
タケルは大声で必死に意思を伝えた。
-良いよ。
頭の中に返事が届くとゆっくり降下し始めた。緩やかに地面に足がついて、遅れて手のひらもつけることが出来た。
「ブーンさん、いきなりはダメですよ! 怖いじゃないですか!?」
-そうなのか? 君たちは飛ぶのが好きなんだと思っていた。
「嫌いと言うわけではありませんが、人間には“慣れる”と言う手順が必要なんですよ」
-ふーん、そうなんだね。じゃあ、どうすれば良いの?
「そうですねぇ、まずはもう少し低い高さで宙に浮くようにしたいです」
-じゃあ、それを想像して腕輪に伝えてごらん。
「想像ですか・・・」
タケルは頭の中で体が1メートルぐらい浮き上がる風をイメージして、左腕にはめた腕輪を右手で握りしめた。猛烈な風が下から吹きあがりタケルが前のめりになると体が持ち上がり始めた。うつ伏せになって両手を広げて風を受けると風の力が少し弱くなった気がする。吹き上がる風はタケルの姿勢が安定するように自動的にコントロールしてくれているのだ。
頭の中で体が少し前に動くイメージをすると、足先から風が吹き始めてそのまま前に進みだした。今度は横に、次は後ろに・・・、低い高さで移動を繰り返すと、タケルは風に包まれている安心感が広がってきた。
-落ちないように僕の風が守ってあげるから大丈夫だよ。
「わかりました。もう少し高いところに上がってみます」
タケルは高さを少しずつ上げて行き、渓谷を作っている断崖の上まで飛び上がった。ブーンの言った通り、飛ぶのが楽しくなってきた。断崖の上から見ると、風の谷は想像していた通りに起伏のある山をえぐるような形で森に向かって伸びていた。
断崖の上の山は北に向かって高くなっていて、はるか向こうには真っ白になっている山の峰がいくつも見えている。空中でうつ伏せになったまま回転して、エルフの里のある森を見てみる。かなり広い森が広がっているが、その左、方角で言うと東には、更に広大な森林が広がっていた。
そのまま何処まで上がれるのかを試してみたくなって、ゆっくりと高度を上げて行った。吹き付ける風の強さは一定だが、どんどん地面が遠ざかっていく。風に包まれている安心感はあるが、やはり怖くなってきて今度は少し速いスピードで降り始めた。どんどん地面が近づいて来たので、空中で急停止しようとするとイメージ通りに宙で停止した。
ブーンが言っていた通りに、タケルがイメージすれば必要な風が勝手に拭いてくれるのだ。風の強さや方向などを全く考えなくて良い。まさに風の精霊の加護なのだろう。一つだけ問題点があるのは、ずっと風が吹き続けているので、かなり寒くなってきたことだ。飛ぶときには重ね着をしておくことにしよう。
上昇、下降、急停止、横移動、旋回、回転等を色々試して体と腕輪に感覚をしみこませてから地上に戻った。
「ブーンさん、ありがとうございます。思うように飛ぶことが出来ました」
-ほらね。飛ぶのは楽しいはずなんだ。
「ええ、とても楽しかったです。ところで、この腕輪の使い方はこれで合ってるんでしょうか?」
-合ってる? 使い方は君次第だよ。
「他にも風の力でやりたいことがあれば、実現できると言う事ですかね?」
-うん。僕がその腕輪で君がやりたいことを叶えてあげるよ。
「わかりました。では、今日はこれで失礼します」
-あれ? もう帰っちゃうの?
「ええ、そうしようと思っています・・・、ブーンさんは私に付いてきたりしませんよね?」
-ついて行く? どうしてかな?
「水の精霊・・・、ヒメって名付けたんですけど。その精霊は私の傍にずっといますから」
-そうなんだね。僕はこの谷の清き風を守るのが役目だから動かない。
「風の精霊と水の精霊・・・、お二人? は知り合いだったりしないんですか?」
-僕たちに見えるのは神が決めた人たちだけだよ。精霊?何かが居るのは感じるけど・・・
「ヒメも同じなの? 他の精霊が見えたり話せたりはしないの?」
-そうです。私たちは神が認めたものとしか会話はできません。
何だか変な話だ、二人とも神の使いのはずなのに、当事者同士は話も出来なければ見ることも出来ないと言う。
「そうなんだ。いまは風の精霊ブーンさんの力を借りて空を飛ぶことが出来るようになったんだよ」
-ええ、見ていました。 楽しそうに飛んでいましたね。
「ブーンさん、今日のところは帰ります。風の使い方で教えてほしいことがあったらまた来ますから、よろしくお願いします」
-そう、いつでも遊びに来てね。エルフの長にも伝えてよ。
「わかりました。お伝えしておきます」
タケルはそう言うと、腕輪を触りながら宙へ舞い上がって、風の谷の中を森に向かって飛び始めた。
タケルはとうとう空まで飛べるようになったことに感動していた。時給バイトで派遣されているのに・・・、だけど、この世界に居る間は勇者として精一杯頑張ろう。
0
あなたにおすすめの小説
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
きよらかなこころ
ファンタジー
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる