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派遣勇者の進む道
164.塩問題
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■南方州の州境
~第16次派遣1日目~
タケル達がスタートスで初飛行を楽しんでいるころに、ドリーミアでは歴史上初となる騒乱、内戦が発生していた。西方州のオズボーン司教が送り込んだ教会武術士とロードが率いる州境の守備隊が対峙したのだ。
「我らはオズボーン司教の命により、フィリップ司教の元へ赴くものだ。速やかにここを通されたい」
ブラックモアは背後に大勢の仲間を連れて高らかに宣告した。だが、ブラックモアは街道が土壁で封鎖されていて、横には黒焦げになった小屋があるのが気になっていた
-小屋は聞いていたが、この土壁はいつの間に・・・
「ここはフィリップ司教の命により、何人も通すことはまかりならん。お戻りになってオズボーン司教にそうお伝え願おう」
ロードは冷たく言い放って、鋭い眼でブラックモアを睨んだ。
「それは、オズボーン司教の意向を無視されると言う事であるな? ならば、我らもフィリップ司教の意向を無視させていただくことになるが良いのか?」
「力づくと言う事かな?」
ロードはニヤリと口元を歪めて笑みを作った。ロードの後ろには10人ほどの教会武術士しかいない。圧倒的に人数では南方州側が不利に見えるが、おびえた様子は一切なかった。
「どうしてもと言う事ならば・・・、止むをえまい!」
ブラックモアは腰の剣を抜き放ち、剣に炎を纏わせて目の前のロードに斬りかかった。後ろからも一斉に南方州の武術士に向かって襲い掛かる。ブラックモアの剣をロードが踏み込んで、抜いた剣で受けたと同時に、草むらに隠れていた伏兵たちから矢が立て続けに射られた。
-グッゥ! チィッ
剣で防ぎきれなかった矢が西方州の武術士に刺さって行く。それでも、戦力に勝る西方州側は怯むことなく斬りかかり、伏兵の弓隊に向けては風の魔法剣で刃を飛ばし始めた。お互いの司教を正しいと信じている不毛な戦いで多くの血が流されて行った・・・。
■獣人の村
ブラックモアとロード達が生死を掛けた戦いに挑んでいるころ、タケルは塩の作り方を考えていた。ネットで塩田について調べてきたが、この村で実際にやるには海水をためて濃度を濃くする田んぼのような区画をいくつか作る必要があった。
既に従来のやり方で、米袋ぐらいの塩が二袋出来ていたが、これからは何倍もの量を作ることを期待していた。獣人達にとってタケルから依頼された塩づくりは村の最優先事項になっていて、大勢の獣人が広い砂浜に出て桶から海水を撒き続けているが、どうも効率がかなり悪い。
「ダイスケは塩田ってわかるよね?」
「教科書で習った程度の知識ですけどね」
「うん、どんな風に作ると効率が良いのかな?」
「基本的には海水を蒸発させてどんどん濃くしていくってことですよね?」
その通りだから、やはり少しずつ高低差をつけた水を溜める区画を作る必要があるのだろうが、思ったような区画を作るのは結構大変・・・、いや、ここはガイン様にお願いだな。
タケルは砂浜が終わり硬い地面になっている場所まで移動して、あたりを見まわした。木も生えてなくテニスコートなら10面ぐらいは作れそうな広さがある。ここなら・・・。
地面に土の聖教石を置いて両手をかざして、祈りを捧げた。
-ガイン様、この場所を水が貯められる土壌に変えてください。
「グランドチェンジ!」
新しく名前を付けて祈りを捧げると足元の土が揺れ始めて、固まって行くのが伝わった。イメージ通りに、田んぼのように回りが土手で高くなり、水をためることが出来るようになった。
「タ、タケルさん、それが土魔法ですか!?」
「うん、土が思うように動く魔法だから。土壌もお願い通りになったはずだ」
手のひらで触ると、密度の濃い粘土状の土に変わっていた。
「相変わらず、無茶苦茶ですよね・・・」
「確かに、空も飛べるし、何でもできる気がしてきたな」
タケルは海岸線に沿って4つの区画に水を溜められるようにして、少しずつ高さを調整した。それぞれが30㎝ぐらいの高低差で下がって行くように作ることが出来たようだ。
ハンザを呼んで使い方を説明しておく。今までは浜に海水を巻いて乾かした後に浜の砂ごと鍋で焚いて塩を作っていたが、この塩田を使えば天日で蒸発した海水が徐々に濃くなっていくから、効率が良くなるはずだ。ネットの知識だからあまり自信が無かったが、理屈ではそういう事になっている。
「ハンザ、一番高いところにある場所に海水を入れてくれ。1日経ったら下の場所に水を移して、最初の場所にまた海水を入れる。次の日は更に下に水を移して、4日経ったら、一番下の水を鍋で焚いてくれ。そうすると濃くなった海水を鍋で焚くことが出来る」
「毎日、下に水を動かしていけば良いんですね」
「その通り!」
獣人のハンザは族長達に頼りにされているだけあって、物分かりが良くて助かる。これで塩づくり問題はかなり前進したはずだ。マリンダ裁縫教室も開催中だし、コーヘイとアキラさんは密林の開墾でかなりの広さを畑に変えてくれていた。
作物が取れやすい土壌にする土魔法もあると聞いているから、南方州に行ったときには、フィリップ司教へ忘れずに聞くことにしよう。この村の生活もタケル達の支援で順調に改善してきている。そろそろ結界を解いた時の準備が出来ただろうか? ・・・まだ無理かもしれない。ドリーミア側の準備が全く整っていない。そっちは教皇に頼む話だが、南の問題も放置しているし、あの教皇が何を考えているのかがタケルにはさっぱり判らなかった。
国のトップなんだからもう少し頑張ってもらわないと・・・、タケルはリーダーシップの無い日本の政治家の顔を思い浮かべながら塩田を後にした。
~第16次派遣1日目~
タケル達がスタートスで初飛行を楽しんでいるころに、ドリーミアでは歴史上初となる騒乱、内戦が発生していた。西方州のオズボーン司教が送り込んだ教会武術士とロードが率いる州境の守備隊が対峙したのだ。
「我らはオズボーン司教の命により、フィリップ司教の元へ赴くものだ。速やかにここを通されたい」
ブラックモアは背後に大勢の仲間を連れて高らかに宣告した。だが、ブラックモアは街道が土壁で封鎖されていて、横には黒焦げになった小屋があるのが気になっていた
-小屋は聞いていたが、この土壁はいつの間に・・・
「ここはフィリップ司教の命により、何人も通すことはまかりならん。お戻りになってオズボーン司教にそうお伝え願おう」
ロードは冷たく言い放って、鋭い眼でブラックモアを睨んだ。
「それは、オズボーン司教の意向を無視されると言う事であるな? ならば、我らもフィリップ司教の意向を無視させていただくことになるが良いのか?」
「力づくと言う事かな?」
ロードはニヤリと口元を歪めて笑みを作った。ロードの後ろには10人ほどの教会武術士しかいない。圧倒的に人数では南方州側が不利に見えるが、おびえた様子は一切なかった。
「どうしてもと言う事ならば・・・、止むをえまい!」
ブラックモアは腰の剣を抜き放ち、剣に炎を纏わせて目の前のロードに斬りかかった。後ろからも一斉に南方州の武術士に向かって襲い掛かる。ブラックモアの剣をロードが踏み込んで、抜いた剣で受けたと同時に、草むらに隠れていた伏兵たちから矢が立て続けに射られた。
-グッゥ! チィッ
剣で防ぎきれなかった矢が西方州の武術士に刺さって行く。それでも、戦力に勝る西方州側は怯むことなく斬りかかり、伏兵の弓隊に向けては風の魔法剣で刃を飛ばし始めた。お互いの司教を正しいと信じている不毛な戦いで多くの血が流されて行った・・・。
■獣人の村
ブラックモアとロード達が生死を掛けた戦いに挑んでいるころ、タケルは塩の作り方を考えていた。ネットで塩田について調べてきたが、この村で実際にやるには海水をためて濃度を濃くする田んぼのような区画をいくつか作る必要があった。
既に従来のやり方で、米袋ぐらいの塩が二袋出来ていたが、これからは何倍もの量を作ることを期待していた。獣人達にとってタケルから依頼された塩づくりは村の最優先事項になっていて、大勢の獣人が広い砂浜に出て桶から海水を撒き続けているが、どうも効率がかなり悪い。
「ダイスケは塩田ってわかるよね?」
「教科書で習った程度の知識ですけどね」
「うん、どんな風に作ると効率が良いのかな?」
「基本的には海水を蒸発させてどんどん濃くしていくってことですよね?」
その通りだから、やはり少しずつ高低差をつけた水を溜める区画を作る必要があるのだろうが、思ったような区画を作るのは結構大変・・・、いや、ここはガイン様にお願いだな。
タケルは砂浜が終わり硬い地面になっている場所まで移動して、あたりを見まわした。木も生えてなくテニスコートなら10面ぐらいは作れそうな広さがある。ここなら・・・。
地面に土の聖教石を置いて両手をかざして、祈りを捧げた。
-ガイン様、この場所を水が貯められる土壌に変えてください。
「グランドチェンジ!」
新しく名前を付けて祈りを捧げると足元の土が揺れ始めて、固まって行くのが伝わった。イメージ通りに、田んぼのように回りが土手で高くなり、水をためることが出来るようになった。
「タ、タケルさん、それが土魔法ですか!?」
「うん、土が思うように動く魔法だから。土壌もお願い通りになったはずだ」
手のひらで触ると、密度の濃い粘土状の土に変わっていた。
「相変わらず、無茶苦茶ですよね・・・」
「確かに、空も飛べるし、何でもできる気がしてきたな」
タケルは海岸線に沿って4つの区画に水を溜められるようにして、少しずつ高さを調整した。それぞれが30㎝ぐらいの高低差で下がって行くように作ることが出来たようだ。
ハンザを呼んで使い方を説明しておく。今までは浜に海水を巻いて乾かした後に浜の砂ごと鍋で焚いて塩を作っていたが、この塩田を使えば天日で蒸発した海水が徐々に濃くなっていくから、効率が良くなるはずだ。ネットの知識だからあまり自信が無かったが、理屈ではそういう事になっている。
「ハンザ、一番高いところにある場所に海水を入れてくれ。1日経ったら下の場所に水を移して、最初の場所にまた海水を入れる。次の日は更に下に水を移して、4日経ったら、一番下の水を鍋で焚いてくれ。そうすると濃くなった海水を鍋で焚くことが出来る」
「毎日、下に水を動かしていけば良いんですね」
「その通り!」
獣人のハンザは族長達に頼りにされているだけあって、物分かりが良くて助かる。これで塩づくり問題はかなり前進したはずだ。マリンダ裁縫教室も開催中だし、コーヘイとアキラさんは密林の開墾でかなりの広さを畑に変えてくれていた。
作物が取れやすい土壌にする土魔法もあると聞いているから、南方州に行ったときには、フィリップ司教へ忘れずに聞くことにしよう。この村の生活もタケル達の支援で順調に改善してきている。そろそろ結界を解いた時の準備が出来ただろうか? ・・・まだ無理かもしれない。ドリーミア側の準備が全く整っていない。そっちは教皇に頼む話だが、南の問題も放置しているし、あの教皇が何を考えているのかがタケルにはさっぱり判らなかった。
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