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魔竜とは
173.死闘
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■南方州と皇都州の州境
~第17次派遣前日~
タケルが札幌に戻ってドリーミアの未来について考えながら眠りについているときも、ドリーミアでは8倍の速さで時が流れている。現世の1日はドリーミアの8日で、タケル達の派遣は10時間勤務で現地の80時間(3日と8時間)に相当するのだが、札幌に居る14時間の間には112時間(4日と16時間)が現地では過ぎていることになる。
前回の派遣期間中に起こった西方州と南方州の争いは、さらに規模を拡大してタケルが不在の時にも起こった。西方州側は大幅に戦力を増強して50名を超える武術士とそれを支援する魔法士を30名連れて来ていた。しかも、街道から行く部隊と側面から偵察する部隊に分けて、最初から戦闘を行う体制になっている。もはや“諍い”という次元では無く、“内戦”と言っても良いだろう。
今回も西方州側の指揮はブラックモアが執っている。副司教のギレンは反対していたようだが、オズボーンは引き続きブラックモアを使うようにギレンへと命じていた。ブラックモアは前回の失敗を取り返すために、しっかりと作戦を練って挑むことにした。前回は土人形と伏兵の弓隊に痛手を負わされたが、両方とも事前に判っていれば対処は可能だと考えていた。
オズボーンからも土人形の魔法を見極めよ、そして魔法士を捕らえて来いと命じられており、その方向で作戦を立てていた。
-武術で勝つ必要など無いのだ。目的さえ果たせればそれで良い。
ブラックモア達西方州の主力部隊は、今回も真っすぐに街道を進みロード率いる南方州の守備隊が土人形を置いて街道を閉鎖している場所の手前で隊列を整えた。既に相手側にも戦闘態勢に入っていることが見える距離で、お互いの緊張感が一気に高まる中、今回の開戦は西方州側の矢によって行われた。
10名の弓を得意とする武術士が風の魔法を使いながら100メートルの距離から矢を放った。街道を守護する南方州の武術士に上空から立て続けに矢が降り注ぐ。だが、南方州のロードたちはあざ笑いながら剣で飛んでくる矢を弾き返した。100メートル距離が離れていればロードたちの技量であれば、矢は当たらないと言う事だ。それは逆もまた同じだった。南方州側からも反撃の矢がブラックモア達に襲い掛かったが、支援する魔法士の風魔法で南方州の矢は届く前に地面に落とされた。
だが、ブラックモア達は相手の反撃により弓兵が隠れている位置を掴むことが出来た。側面から偵察に出ていた部隊が草むらから忍び寄って行く。
ブラックモア達はそれに気づかせないように、ロード達との距離を詰めて行く。90、80、70メートル・・・、距離が近づくにつれ、矢の威力が強くなり容易にかわすことが出来なくなっていた。
ロード達は剣で矢を振り払うのが難しくなる前に土人形を動かして、楯となる土人形をブラックモア達に向かわせた。ブラックモアは前へ出るのをいったん止めて、土人形との距離を保った。
-動かしている魔法士は何処だ!?
周囲の草むらや焼け焦げた小屋の陰などを見まわしたが、土の魔法士を見つけることが出来なかった。しかし、側面に回り込んでいた部隊が守備側の弓兵に剣で襲い掛かることが出来た。ブラックモア達に矢を放っていた3人の弓兵は不意をつかれて反応できなかった。腰の剣で対抗しようとしたが、一歩目の遅れが致命的で3人ともその場で剣を胸に突き立てられて絶命した。
今度は攻撃側が側面からロードの守備隊に矢を浴びせ始めた。楯となる土人形の死角から矢が飛んできて、ロード達に襲い掛かる。
「よし、今だ! 前へ出るぞ!」
ブラックモアは部隊を引き連れて、一気に土人形の足元へと走って行った。後ろに続く武術士達は太い丈夫な荒縄を手にしている。守備側は側面からの矢に反応していてブラックモア達の意図に気付くのが遅れた。
ブラックモアは土人形が振り回す長い手をかいくぐり、背後にいたロードへ風の剣を飛ばした。空気を切り裂く刃がロードに襲い掛かったが、ロードは飛んできた刃をいなしながら前に踏み込んできて、ブラックモアに上段から斬りかかった。剣で受け止めるのが精いっぱいだったが、目的はロードを自分に引き付けることにあった。
続いて来た武術士達も他の守備隊に剣で挑んでいるが、剣を持たない5人の武術士が土人形をかわしながら、左右に分かれて荒縄で土人形の足を絡めとろうとしていた。周りをぐるぐると回って、荒縄を巻き付けて5人がかりで片足を強く引いた。土人形は抗って荒縄を振り払おうとしたが、バランスを崩してそのまま地面に横倒しになった。そこへ後ろで待っていた大きな金槌を持った武術士達が土人形を破壊するために飛びかかった。金槌は両手で持ち上げなければいけない重さだが、岩を砕くために先端が鋭くなっていた。金槌を叩きつけられた土人形の足は付け根のあたりで砕けた。
ロードはブラックモアと鍔迫り合いをしながら、話しかけて来た。
「ほお、今度は本気で準備を整えてきたのだな。それに、さっきの奇襲では命を奪ったようだが、お前達にその覚悟があったとはな」
「ふん、土人形など所詮は傀儡にすぎん。倒してしまえば造作もない。そろそろ、あきらめて剣を引いた方が良いのではないか?」
「そちらがその気なら、こちらも手加減が出来なくなるだけだ」
ロードはそう言い放つと剣でブラックモアを突き放して、腰に差していた短剣を左手に持って二刀の構えに変わった。直ぐにブラックモアへ左右から連続した攻撃仕掛けた。
-速い!
「グァ-!」
ブラックモアが加速したロードの剣を受けると、剣を持つ手に短剣が斬りかかり、左手首が切り落とされてしまった。ロードは力が入らなくなったブラックモアの剣を押し返して、短剣を首元に突き立てた。ブラックモアは喉から大量の血を流しながら地面に横たわった。
ロードはそのまま前に出て、土人形を破壊していた金槌を持つ武術士に襲い掛かり、走り抜けながら剣を振るった。重い金槌では身を守ることのできない武術士の首元から血しぶきが舞い上がる。荒縄を持っていた武術士達が縄を捨ててロードを取り囲もうとしたが、剣を抜く暇を与えずに一番近くに居た武術士の喉へ真っすぐに剣を突き立てた。
ロード達のいる南方州は他の州よりも圧倒的に魔獣の数が多い場所だった。そのため、武術の修練は型を学ぶ時間よりも、実戦で獣を殺している時間も圧倒的に長い。ロードは人を斬るのは、町で押し込み強盗を働く賊たちを殺して以来だが、人も獣も息の根を止める方法は同じだった。
-殺す気で来た以上は死んでもらうしかない。
一瞬も動きを止めることなく、囲みを切り開きながら近くにいる敵の急所を狙って攻撃する。ロードに気を取られている間に背後からも斬りかかられて、西方州の武術士は次々と倒されて行った。
「もう良い! すぐに馬車を回せ! 急いでこの場から離れるのだ!」
最後尾でブラックモア達が倒されるのを見ていた副司教のギレンは、御者に命じてその場から逃げ始めた。魔法士達も慌てて続き、最後に息のある武術士が仲間を連れて逃げようとしていた。だが・・・
「矢を放て!」
ロードは守備隊で残っている弓兵に命じて、逃げる西方州の武術士へ矢を射かけた。必死で逃げる男達の背中に次々と矢が刺さり倒れて行く。
この戦いで南方州側の守備隊は3人の武術士が命を失い、攻め入った西方州側の武術士は14名がその場で命を落とした。
-なぜこんなことに・・・
ロードは倒れている仲間の所に行って、既に冷たくなりつつある武術士の頬に手を当てた。
-お前達の死は無駄にしない。必ず魔竜を討伐するからな・・・
誰一人として喜ぶことの無い街道での死闘が終わった。
~第17次派遣前日~
タケルが札幌に戻ってドリーミアの未来について考えながら眠りについているときも、ドリーミアでは8倍の速さで時が流れている。現世の1日はドリーミアの8日で、タケル達の派遣は10時間勤務で現地の80時間(3日と8時間)に相当するのだが、札幌に居る14時間の間には112時間(4日と16時間)が現地では過ぎていることになる。
前回の派遣期間中に起こった西方州と南方州の争いは、さらに規模を拡大してタケルが不在の時にも起こった。西方州側は大幅に戦力を増強して50名を超える武術士とそれを支援する魔法士を30名連れて来ていた。しかも、街道から行く部隊と側面から偵察する部隊に分けて、最初から戦闘を行う体制になっている。もはや“諍い”という次元では無く、“内戦”と言っても良いだろう。
今回も西方州側の指揮はブラックモアが執っている。副司教のギレンは反対していたようだが、オズボーンは引き続きブラックモアを使うようにギレンへと命じていた。ブラックモアは前回の失敗を取り返すために、しっかりと作戦を練って挑むことにした。前回は土人形と伏兵の弓隊に痛手を負わされたが、両方とも事前に判っていれば対処は可能だと考えていた。
オズボーンからも土人形の魔法を見極めよ、そして魔法士を捕らえて来いと命じられており、その方向で作戦を立てていた。
-武術で勝つ必要など無いのだ。目的さえ果たせればそれで良い。
ブラックモア達西方州の主力部隊は、今回も真っすぐに街道を進みロード率いる南方州の守備隊が土人形を置いて街道を閉鎖している場所の手前で隊列を整えた。既に相手側にも戦闘態勢に入っていることが見える距離で、お互いの緊張感が一気に高まる中、今回の開戦は西方州側の矢によって行われた。
10名の弓を得意とする武術士が風の魔法を使いながら100メートルの距離から矢を放った。街道を守護する南方州の武術士に上空から立て続けに矢が降り注ぐ。だが、南方州のロードたちはあざ笑いながら剣で飛んでくる矢を弾き返した。100メートル距離が離れていればロードたちの技量であれば、矢は当たらないと言う事だ。それは逆もまた同じだった。南方州側からも反撃の矢がブラックモア達に襲い掛かったが、支援する魔法士の風魔法で南方州の矢は届く前に地面に落とされた。
だが、ブラックモア達は相手の反撃により弓兵が隠れている位置を掴むことが出来た。側面から偵察に出ていた部隊が草むらから忍び寄って行く。
ブラックモア達はそれに気づかせないように、ロード達との距離を詰めて行く。90、80、70メートル・・・、距離が近づくにつれ、矢の威力が強くなり容易にかわすことが出来なくなっていた。
ロード達は剣で矢を振り払うのが難しくなる前に土人形を動かして、楯となる土人形をブラックモア達に向かわせた。ブラックモアは前へ出るのをいったん止めて、土人形との距離を保った。
-動かしている魔法士は何処だ!?
周囲の草むらや焼け焦げた小屋の陰などを見まわしたが、土の魔法士を見つけることが出来なかった。しかし、側面に回り込んでいた部隊が守備側の弓兵に剣で襲い掛かることが出来た。ブラックモア達に矢を放っていた3人の弓兵は不意をつかれて反応できなかった。腰の剣で対抗しようとしたが、一歩目の遅れが致命的で3人ともその場で剣を胸に突き立てられて絶命した。
今度は攻撃側が側面からロードの守備隊に矢を浴びせ始めた。楯となる土人形の死角から矢が飛んできて、ロード達に襲い掛かる。
「よし、今だ! 前へ出るぞ!」
ブラックモアは部隊を引き連れて、一気に土人形の足元へと走って行った。後ろに続く武術士達は太い丈夫な荒縄を手にしている。守備側は側面からの矢に反応していてブラックモア達の意図に気付くのが遅れた。
ブラックモアは土人形が振り回す長い手をかいくぐり、背後にいたロードへ風の剣を飛ばした。空気を切り裂く刃がロードに襲い掛かったが、ロードは飛んできた刃をいなしながら前に踏み込んできて、ブラックモアに上段から斬りかかった。剣で受け止めるのが精いっぱいだったが、目的はロードを自分に引き付けることにあった。
続いて来た武術士達も他の守備隊に剣で挑んでいるが、剣を持たない5人の武術士が土人形をかわしながら、左右に分かれて荒縄で土人形の足を絡めとろうとしていた。周りをぐるぐると回って、荒縄を巻き付けて5人がかりで片足を強く引いた。土人形は抗って荒縄を振り払おうとしたが、バランスを崩してそのまま地面に横倒しになった。そこへ後ろで待っていた大きな金槌を持った武術士達が土人形を破壊するために飛びかかった。金槌は両手で持ち上げなければいけない重さだが、岩を砕くために先端が鋭くなっていた。金槌を叩きつけられた土人形の足は付け根のあたりで砕けた。
ロードはブラックモアと鍔迫り合いをしながら、話しかけて来た。
「ほお、今度は本気で準備を整えてきたのだな。それに、さっきの奇襲では命を奪ったようだが、お前達にその覚悟があったとはな」
「ふん、土人形など所詮は傀儡にすぎん。倒してしまえば造作もない。そろそろ、あきらめて剣を引いた方が良いのではないか?」
「そちらがその気なら、こちらも手加減が出来なくなるだけだ」
ロードはそう言い放つと剣でブラックモアを突き放して、腰に差していた短剣を左手に持って二刀の構えに変わった。直ぐにブラックモアへ左右から連続した攻撃仕掛けた。
-速い!
「グァ-!」
ブラックモアが加速したロードの剣を受けると、剣を持つ手に短剣が斬りかかり、左手首が切り落とされてしまった。ロードは力が入らなくなったブラックモアの剣を押し返して、短剣を首元に突き立てた。ブラックモアは喉から大量の血を流しながら地面に横たわった。
ロードはそのまま前に出て、土人形を破壊していた金槌を持つ武術士に襲い掛かり、走り抜けながら剣を振るった。重い金槌では身を守ることのできない武術士の首元から血しぶきが舞い上がる。荒縄を持っていた武術士達が縄を捨ててロードを取り囲もうとしたが、剣を抜く暇を与えずに一番近くに居た武術士の喉へ真っすぐに剣を突き立てた。
ロード達のいる南方州は他の州よりも圧倒的に魔獣の数が多い場所だった。そのため、武術の修練は型を学ぶ時間よりも、実戦で獣を殺している時間も圧倒的に長い。ロードは人を斬るのは、町で押し込み強盗を働く賊たちを殺して以来だが、人も獣も息の根を止める方法は同じだった。
-殺す気で来た以上は死んでもらうしかない。
一瞬も動きを止めることなく、囲みを切り開きながら近くにいる敵の急所を狙って攻撃する。ロードに気を取られている間に背後からも斬りかかられて、西方州の武術士は次々と倒されて行った。
「もう良い! すぐに馬車を回せ! 急いでこの場から離れるのだ!」
最後尾でブラックモア達が倒されるのを見ていた副司教のギレンは、御者に命じてその場から逃げ始めた。魔法士達も慌てて続き、最後に息のある武術士が仲間を連れて逃げようとしていた。だが・・・
「矢を放て!」
ロードは守備隊で残っている弓兵に命じて、逃げる西方州の武術士へ矢を射かけた。必死で逃げる男達の背中に次々と矢が刺さり倒れて行く。
この戦いで南方州側の守備隊は3人の武術士が命を失い、攻め入った西方州側の武術士は14名がその場で命を落とした。
-なぜこんなことに・・・
ロードは倒れている仲間の所に行って、既に冷たくなりつつある武術士の頬に手を当てた。
-お前達の死は無駄にしない。必ず魔竜を討伐するからな・・・
誰一人として喜ぶことの無い街道での死闘が終わった。
応援ありがとうございます!
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