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7. 護送中。
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ガタガタと揺れる馬車。その中に私が一人でポツンと座っている。
途中までは若いメイドさんが一緒に乗っていたんだけど、彼女はしばらくすると御者台に移って御者と馬で並走する兵士とおしゃべりを始めた。
一応、年配のメイドさんから「移送する間にこの世界の常識を教えといてください」と言われていたのに私と話をする気なんてまるでないみたい。移送、ですって。むしろ護送って言いたいのかもしれない。
若いメイドさんに話しかけようとしたら、
「あんたが話していいのは「はい」だけだから。私は準男爵家とは言え貴族の娘なの。平民が気軽に話していい身分じゃない!」
と偉そうに胸を張った。身を守る手段もないし、この世界の常識もないし何だか私、詰んでない? 食べ物だけは無限にあるけど。
トイレ休憩は貰えるみたいで、ちょっとした広場みたいなところで停まって『ボットントイレ』に入れてもらえた。街道沿いには所どころトイレが設置してある不思議。メイドさんが得意そうに自慢した。
「凄いでしょ。街道沿いだったらトイレがあるのよ。もっとも中にスライムが居るから通りかかったらトイレに行くのは義務なんだけどね。これ、常識だから」
「はい」
トイレの常識は教えてもらったけど、それ以外は何も教えてもらえない。トイレ、スライム入りなのか、まさにこの世界はファンタジーの世界。スライムがいるって事は他の魔物とか魔獣とかもいるのかもしれない。
魔物でなくても野生の獣もいるとしたらどうしよう。獣は火を怖がるとしても私の魔力は持つかしら。何だか不安材料しかない。私、召喚された聖女なのに、死んだら化けて出ようかな。
「これから昼食にするからあんたは馬車の中で待ってなさい」
「はい?」
「早く! さっさと戻って」
えーと、異世界人は食事を取らなくてもいいと思っているのだろうか。兵士に追い立てられるように馬車に入れられて、鍵を閉められた。そう、この馬車も外から鍵が閉まる。
仕方なくこっそりと冷蔵庫からいつものサンドイッチを取り出して食べる。この世界のまともな食事がどんなものかわからないけど、多分、私のサンドイッチのほうが美味しい。ザマァ見ろ! なんてね。
ついでに冷蔵庫の横からマドレーヌを取って食べていると、馬車の窓から白い小鳥が顔を出した。
「チチチ、チチ」
いつもより控えめな声だったが、確かに白い小鳥さんだった。
「付いて来ていたの?」
「チチチ」
「嬉しいわ。何だか疎外されて寂しいなって思っていたの」
「チチチ」
小鳥さんにマドレーヌをあげて、冷たいお水を手の平に出した。私の手に止まってついばむようにお水を飲む姿に癒される。浄化でアチコチ綺麗にしていると、小鳥さんは私の隣にチョコンと止まった。
馬車の窓、今は開いているけど、そんなに大きくないし木枠がついていて鍵も掛かるようになっていた。この窓、ずっと開けていてくれるといいんだけど締められたら息苦しいし小鳥さんが出入りできなくて不便だと思う。
お昼休憩の後、ガタゴトと馬車は進み、夕方には木製の杭に囲われた農村に着いた。
「今夜はここで泊まるけど、あんたは宿代を持ってないからこのまま馬車の中で寝て! 食事は村の中でパンでも買えばいいわ」
「おい! 勝手な行動をさせるとダメだろう!」
「そうね。仕方ないわ。何か買ってきてあげるから、お金を頂戴!」
メイドさんが手をだすので1000トルを渡した。この世界のお金は円をトルに呼び変えただけみたいな、殆ど同じ価値になるようだった。つまり日本円にして1000円を渡したわけだけど、ちゃんと買ってきてくれるかどうかは分からない。
果たして、彼女が買ってきたのはパンが二つだけだった。パン一つが500円なんて高すぎる。それも監禁室で出て来たような固いパンだった。
「これ、ですか」
「何よ! 文句でもあるの!」
「いえ、こちらのパンは固いのですね」
「何、この国をバカにしてるの! こんなパン、私達は食べないわ。これは売れ残って、家畜のえさにするためにカチカチにしているパンなの! 普通の人はこんなもの食べないわよ」
「……」
「お釣りはないわよ。ワザワザ買いに行ってあげたんだから残りは手数料ね。私は高いの! フン!」
そうして、メイドさんはドアをバタンと締めると鍵をかけてバタバタと去って行った。そうか、家畜の餌用のパンだったのね。だからあんなに固かったのか。わざわざそんなパンを買ってこなくても普通のパンでもいいのに。
でも流石に水分を取らせないとマズイと思ったのか、水の入った壺も置いていった。壺に入った水なんて、これに口を付けて直接、飲めって事かしら。普通はコップくらい用意しない? あまり綺麗な水には見えないけど、せっかくだから浄化して身体を拭くのに使おう。
サラダとサンドイッチを食べながら、そういえばずっと温かい物を食べてないな、と悲しく思った。冷たいジュースや牛乳も美味しいけれど、熱いコーヒーも飲みたい。
火魔法で温めたら良いかもしれないけど、火事になったら困るし、解放されたら焚火をしてチキンを焼いてみよう。
もう一つの冷蔵庫には鍋ごとブイヤベースも入っているし、たき火の上に木の枝で支えを作って鍋を置けばいいわね。ん? でも木の棒で支えを作ったら燃えてしまわないかしら。
……残念ながら私、小学校の時に一度、キャンプをした経験しかない。
こんな事なら友達に誘われたキャンプについて行けば良かった。といっても、キャンプ用品無しでどうしたら良いんだろう? この世界ではどうするのか調べてみなくては。
サンドイッチも飽きて来たし、冷蔵庫のレベルもそろそろ上がってくれるといいのに。
とりあえず、明日の為に寝よう。馬車の中を色々探して見ると椅子の下に長めのクッションと毛布があった。椅子も移動できて簡易な寝台になったので浄化をかけて綺麗にしてから横になる。
それにしてもこの調子ではたして領都まで連れて行って貰えるのか不安しかない。
途中までは若いメイドさんが一緒に乗っていたんだけど、彼女はしばらくすると御者台に移って御者と馬で並走する兵士とおしゃべりを始めた。
一応、年配のメイドさんから「移送する間にこの世界の常識を教えといてください」と言われていたのに私と話をする気なんてまるでないみたい。移送、ですって。むしろ護送って言いたいのかもしれない。
若いメイドさんに話しかけようとしたら、
「あんたが話していいのは「はい」だけだから。私は準男爵家とは言え貴族の娘なの。平民が気軽に話していい身分じゃない!」
と偉そうに胸を張った。身を守る手段もないし、この世界の常識もないし何だか私、詰んでない? 食べ物だけは無限にあるけど。
トイレ休憩は貰えるみたいで、ちょっとした広場みたいなところで停まって『ボットントイレ』に入れてもらえた。街道沿いには所どころトイレが設置してある不思議。メイドさんが得意そうに自慢した。
「凄いでしょ。街道沿いだったらトイレがあるのよ。もっとも中にスライムが居るから通りかかったらトイレに行くのは義務なんだけどね。これ、常識だから」
「はい」
トイレの常識は教えてもらったけど、それ以外は何も教えてもらえない。トイレ、スライム入りなのか、まさにこの世界はファンタジーの世界。スライムがいるって事は他の魔物とか魔獣とかもいるのかもしれない。
魔物でなくても野生の獣もいるとしたらどうしよう。獣は火を怖がるとしても私の魔力は持つかしら。何だか不安材料しかない。私、召喚された聖女なのに、死んだら化けて出ようかな。
「これから昼食にするからあんたは馬車の中で待ってなさい」
「はい?」
「早く! さっさと戻って」
えーと、異世界人は食事を取らなくてもいいと思っているのだろうか。兵士に追い立てられるように馬車に入れられて、鍵を閉められた。そう、この馬車も外から鍵が閉まる。
仕方なくこっそりと冷蔵庫からいつものサンドイッチを取り出して食べる。この世界のまともな食事がどんなものかわからないけど、多分、私のサンドイッチのほうが美味しい。ザマァ見ろ! なんてね。
ついでに冷蔵庫の横からマドレーヌを取って食べていると、馬車の窓から白い小鳥が顔を出した。
「チチチ、チチ」
いつもより控えめな声だったが、確かに白い小鳥さんだった。
「付いて来ていたの?」
「チチチ」
「嬉しいわ。何だか疎外されて寂しいなって思っていたの」
「チチチ」
小鳥さんにマドレーヌをあげて、冷たいお水を手の平に出した。私の手に止まってついばむようにお水を飲む姿に癒される。浄化でアチコチ綺麗にしていると、小鳥さんは私の隣にチョコンと止まった。
馬車の窓、今は開いているけど、そんなに大きくないし木枠がついていて鍵も掛かるようになっていた。この窓、ずっと開けていてくれるといいんだけど締められたら息苦しいし小鳥さんが出入りできなくて不便だと思う。
お昼休憩の後、ガタゴトと馬車は進み、夕方には木製の杭に囲われた農村に着いた。
「今夜はここで泊まるけど、あんたは宿代を持ってないからこのまま馬車の中で寝て! 食事は村の中でパンでも買えばいいわ」
「おい! 勝手な行動をさせるとダメだろう!」
「そうね。仕方ないわ。何か買ってきてあげるから、お金を頂戴!」
メイドさんが手をだすので1000トルを渡した。この世界のお金は円をトルに呼び変えただけみたいな、殆ど同じ価値になるようだった。つまり日本円にして1000円を渡したわけだけど、ちゃんと買ってきてくれるかどうかは分からない。
果たして、彼女が買ってきたのはパンが二つだけだった。パン一つが500円なんて高すぎる。それも監禁室で出て来たような固いパンだった。
「これ、ですか」
「何よ! 文句でもあるの!」
「いえ、こちらのパンは固いのですね」
「何、この国をバカにしてるの! こんなパン、私達は食べないわ。これは売れ残って、家畜のえさにするためにカチカチにしているパンなの! 普通の人はこんなもの食べないわよ」
「……」
「お釣りはないわよ。ワザワザ買いに行ってあげたんだから残りは手数料ね。私は高いの! フン!」
そうして、メイドさんはドアをバタンと締めると鍵をかけてバタバタと去って行った。そうか、家畜の餌用のパンだったのね。だからあんなに固かったのか。わざわざそんなパンを買ってこなくても普通のパンでもいいのに。
でも流石に水分を取らせないとマズイと思ったのか、水の入った壺も置いていった。壺に入った水なんて、これに口を付けて直接、飲めって事かしら。普通はコップくらい用意しない? あまり綺麗な水には見えないけど、せっかくだから浄化して身体を拭くのに使おう。
サラダとサンドイッチを食べながら、そういえばずっと温かい物を食べてないな、と悲しく思った。冷たいジュースや牛乳も美味しいけれど、熱いコーヒーも飲みたい。
火魔法で温めたら良いかもしれないけど、火事になったら困るし、解放されたら焚火をしてチキンを焼いてみよう。
もう一つの冷蔵庫には鍋ごとブイヤベースも入っているし、たき火の上に木の枝で支えを作って鍋を置けばいいわね。ん? でも木の棒で支えを作ったら燃えてしまわないかしら。
……残念ながら私、小学校の時に一度、キャンプをした経験しかない。
こんな事なら友達に誘われたキャンプについて行けば良かった。といっても、キャンプ用品無しでどうしたら良いんだろう? この世界ではどうするのか調べてみなくては。
サンドイッチも飽きて来たし、冷蔵庫のレベルもそろそろ上がってくれるといいのに。
とりあえず、明日の為に寝よう。馬車の中を色々探して見ると椅子の下に長めのクッションと毛布があった。椅子も移動できて簡易な寝台になったので浄化をかけて綺麗にしてから横になる。
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