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12. 山、川、炎
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「しゃべるお札って怖いですね」
「でも、まだ所有権が移ってないからお札も困っているんじゃないですか。手に取ってこのお札は自分のモノだと意思表示をすれば済むことでしょう」
いつの間にか側に来ていた店員Aが笑顔で高校生に所有権の意思表示を促した。高校生は戸惑った顔で笑顔の店員Aを見ている。
「そんな風に言われても困りますよね。せっかく紹介されていらしたんですからちょっと、見てみましょう」
マスターの翼がそのお札を指さすと、お札は宙に浮いて小箱からゆらゆらと出て来た。お札は表面にそれぞれ、『山』『川』『炎』と書かれているが、お札を包んでいる白い紙は古いせいか表面が黄ばんでいる。
「山と川と炎ですか」
「投げると、山が出たり、川が出たり、炎が出たりするのかな、ほら、確か三枚のお札、って言う昔話があった」
「このお札の持ち主、元はお祖父さんだったんですよね。お仕事は何をされていましたか」
「祖父は山の管理をしていて、若い頃は木こりで年、取ってからはシイタケとか栽培していました」
「その山にお社とかはありませんでしたか?」
「お社、ですか……」
高校生はしばらく考え込んでいたが、
「そういえば、小さい頃、連れて行ってもらった事があったような。わしが死んだらこのお社を頼む、とか言われて「うん。任して」と言った、あれ、そういえば任して、と言ったような気がする。まさか、その小さい時の言葉でこの『お札』が送られてきた?! そんな事、大きくなってからは何も言われた事はないのに」
「お札の他に手紙とかはなかったのですか?」
「はい。何もなかったです。母は相続放棄をしたので特に財産分与とかは無くて、」
「でも、その小箱と通帳が送られてきた、と。通帳の名義はどなたですか?」
「通帳は俺の名前になっていました。ずっと積み立ててくれていたみたいです」
「山の名義はどなたに?」
「母の兄にあたる伯父です」
「では、今はそのお社の管理は伯父さんがされているんですね」
「そうだと思います」
カランとドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
反射的にリナが声をかけると入って来たのはナキンだった。
「なんだ。何だか面白そうな事をしているな?」
「ああ、このお札がしゃべるそうです」
「しゃべるお札か」
そう言いながらナキンは翼が浮かべているお札をシゲシゲと眺めると、ニヤリと笑った。ナキンがニヤリと笑うと悪だくみをしているように見える、とその場にいた皆は思ったが口には出さなかった。高校生はナキンを見て明らかに怯えていた。
「あっ、フン。これは使い捨てのお札だったのが年月を経て札に意志が宿ったようだな。ある意味、付喪神のようなものになっている」
ナキンは高校生の事情を聞くと、
「手に持って、これは私の所有物と宣言しろ。それで山と川と炎、つまり、土と水と火の妖力が使えるようになる。多分だが、何か封印していたのが解ける頃合いなんじゃないか。潜在的に受け入れられる能力を持った者にそれを渡して、何とかしろって言う事だな」
「えっ、でも何も言われてないですし、手紙とかもないし」
「手紙は書いたんじゃないですか? 何もなしにポンと渡すなんて考えられないし、その伯父さんとやらに確かめてみたらどうでしょう」
「母と伯父さんはあまり仲は良くないんです。養女にきた伯母さんがいて、その伯母さんがかなり強気な人で伯父さんはその伯母さんの言いなりで、お祖父さんの家は居心地が悪くなってしまったので、母はもう、ずっと実家に行ってなかったんです」
高校生の話によるとその養女の伯母さんは、親戚から無理やり押し付けられた素行の悪い人で40を超えてから養女として祖父の家にきた。
家族は皆、養女にするのを反対したし、祖父も養女にはしない、と言っていたのに気がつくと養女にする書類にサインをしていたという。
本人にはおぼろげな記憶しかないが、呼び出された弁護士事務所でボーッとしたまま言われるがままにサインをした記憶があるらしい。その後、何とか養子縁組を解消しようとしたができなくてそのままになってしまった。
それから、その養女の伯母さんは時々我が物顔で家に来ては色々なモノを持っていくし、勝手な事ばかり言っていたが、お祖父さんが弱ってくると祖父の家に引っ越してきてしまった。そして、居ついた伯母さんは伯父さんを顎で使って勝手気ままに暮らし始めた。
お祖父さんが亡くなってからは相続財産を請求し、今も実家に居座っている。
「伯父さんはご結婚は?」
「していません。だので、伯父と伯母は二人暮らしです」
「その養子縁組は怪しいな」
「どうして、そんな妙な事をしたんでしょうね」
「どうしたらいいんでしょう?」
「うん。君はいわゆる先祖返りという奴だと思うよ。だから、さっさと所有者になったほうが良いと思う。何かあった時には闘う術があったほうが良いから」
「闘う!?」
「そう、闘うというか、襲われる可能性もあるから」
「あの、誰にですか?」
「その伯母さんか、もしくは封印していたモノに。大丈夫、これは君を守りたいと思っている、であってますよね」
「ああ」
高校生がゴクリと唾を飲み込み浮かんでいるお札に向かって手を差し出した。すると、お札は高校生の手にピタリと張り付いたので
「お札を俺のモノにします」
と宣言したと同時にお札がクルクルと渦を巻いて回り、そのまま高校生の身体の中に吸い込まれていった。
「よし、手のひらを出して、「手の平に水」と言え」
ナキンの言葉通りに高校生がすると手のひらに水が現れ、そのままテーブルにこぼれてしまった。
そのまま手の平に土と炎も出して、高校生は呆けた顔をした。
「おめでとう、人間脱却」
しかし、店員Aの声かけに高校生はギョっとした顔をしたので、リナは自分が初めてこの喫茶店に来た時の事を思い出して、気の毒に思った。
「でも、まだ所有権が移ってないからお札も困っているんじゃないですか。手に取ってこのお札は自分のモノだと意思表示をすれば済むことでしょう」
いつの間にか側に来ていた店員Aが笑顔で高校生に所有権の意思表示を促した。高校生は戸惑った顔で笑顔の店員Aを見ている。
「そんな風に言われても困りますよね。せっかく紹介されていらしたんですからちょっと、見てみましょう」
マスターの翼がそのお札を指さすと、お札は宙に浮いて小箱からゆらゆらと出て来た。お札は表面にそれぞれ、『山』『川』『炎』と書かれているが、お札を包んでいる白い紙は古いせいか表面が黄ばんでいる。
「山と川と炎ですか」
「投げると、山が出たり、川が出たり、炎が出たりするのかな、ほら、確か三枚のお札、って言う昔話があった」
「このお札の持ち主、元はお祖父さんだったんですよね。お仕事は何をされていましたか」
「祖父は山の管理をしていて、若い頃は木こりで年、取ってからはシイタケとか栽培していました」
「その山にお社とかはありませんでしたか?」
「お社、ですか……」
高校生はしばらく考え込んでいたが、
「そういえば、小さい頃、連れて行ってもらった事があったような。わしが死んだらこのお社を頼む、とか言われて「うん。任して」と言った、あれ、そういえば任して、と言ったような気がする。まさか、その小さい時の言葉でこの『お札』が送られてきた?! そんな事、大きくなってからは何も言われた事はないのに」
「お札の他に手紙とかはなかったのですか?」
「はい。何もなかったです。母は相続放棄をしたので特に財産分与とかは無くて、」
「でも、その小箱と通帳が送られてきた、と。通帳の名義はどなたですか?」
「通帳は俺の名前になっていました。ずっと積み立ててくれていたみたいです」
「山の名義はどなたに?」
「母の兄にあたる伯父です」
「では、今はそのお社の管理は伯父さんがされているんですね」
「そうだと思います」
カランとドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
反射的にリナが声をかけると入って来たのはナキンだった。
「なんだ。何だか面白そうな事をしているな?」
「ああ、このお札がしゃべるそうです」
「しゃべるお札か」
そう言いながらナキンは翼が浮かべているお札をシゲシゲと眺めると、ニヤリと笑った。ナキンがニヤリと笑うと悪だくみをしているように見える、とその場にいた皆は思ったが口には出さなかった。高校生はナキンを見て明らかに怯えていた。
「あっ、フン。これは使い捨てのお札だったのが年月を経て札に意志が宿ったようだな。ある意味、付喪神のようなものになっている」
ナキンは高校生の事情を聞くと、
「手に持って、これは私の所有物と宣言しろ。それで山と川と炎、つまり、土と水と火の妖力が使えるようになる。多分だが、何か封印していたのが解ける頃合いなんじゃないか。潜在的に受け入れられる能力を持った者にそれを渡して、何とかしろって言う事だな」
「えっ、でも何も言われてないですし、手紙とかもないし」
「手紙は書いたんじゃないですか? 何もなしにポンと渡すなんて考えられないし、その伯父さんとやらに確かめてみたらどうでしょう」
「母と伯父さんはあまり仲は良くないんです。養女にきた伯母さんがいて、その伯母さんがかなり強気な人で伯父さんはその伯母さんの言いなりで、お祖父さんの家は居心地が悪くなってしまったので、母はもう、ずっと実家に行ってなかったんです」
高校生の話によるとその養女の伯母さんは、親戚から無理やり押し付けられた素行の悪い人で40を超えてから養女として祖父の家にきた。
家族は皆、養女にするのを反対したし、祖父も養女にはしない、と言っていたのに気がつくと養女にする書類にサインをしていたという。
本人にはおぼろげな記憶しかないが、呼び出された弁護士事務所でボーッとしたまま言われるがままにサインをした記憶があるらしい。その後、何とか養子縁組を解消しようとしたができなくてそのままになってしまった。
それから、その養女の伯母さんは時々我が物顔で家に来ては色々なモノを持っていくし、勝手な事ばかり言っていたが、お祖父さんが弱ってくると祖父の家に引っ越してきてしまった。そして、居ついた伯母さんは伯父さんを顎で使って勝手気ままに暮らし始めた。
お祖父さんが亡くなってからは相続財産を請求し、今も実家に居座っている。
「伯父さんはご結婚は?」
「していません。だので、伯父と伯母は二人暮らしです」
「その養子縁組は怪しいな」
「どうして、そんな妙な事をしたんでしょうね」
「どうしたらいいんでしょう?」
「うん。君はいわゆる先祖返りという奴だと思うよ。だから、さっさと所有者になったほうが良いと思う。何かあった時には闘う術があったほうが良いから」
「闘う!?」
「そう、闘うというか、襲われる可能性もあるから」
「あの、誰にですか?」
「その伯母さんか、もしくは封印していたモノに。大丈夫、これは君を守りたいと思っている、であってますよね」
「ああ」
高校生がゴクリと唾を飲み込み浮かんでいるお札に向かって手を差し出した。すると、お札は高校生の手にピタリと張り付いたので
「お札を俺のモノにします」
と宣言したと同時にお札がクルクルと渦を巻いて回り、そのまま高校生の身体の中に吸い込まれていった。
「よし、手のひらを出して、「手の平に水」と言え」
ナキンの言葉通りに高校生がすると手のひらに水が現れ、そのままテーブルにこぼれてしまった。
そのまま手の平に土と炎も出して、高校生は呆けた顔をした。
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