赤い靴から始まるAYAKASHI殺人事件

サラ

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11. 三枚のお札

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 カランとドアベルが鳴った。

「いらっしゃいませ」

 リナが声をかけると制服を着た高校生が恐る恐る、といった感じで入って来た。この喫茶店には珍しいお客様である。
(普通の高校生に見えるけど、この子も妖怪なのかしら。耳は人間みたいだけどシッポはないわ)

「あ、あの……」
「お好きな席にどうぞ」

 にっこり笑ったリナに高校生は顔を赤くした。今時、純情な子である。ただ、まだ幼さが残る顔つきなので高校1年生かもしれない。
 制服はこの近所にある高校のモノであるが、喫茶『AYASHI』は普段から人目に触れる事があまりないので高校生が入ってくることは無い。
 高校生は窓際の席に座るとメニュー表を手に取った。そのメニュー表には金額が載ってない。

「あ、あの……」
「本日はスペシャルデーですので、全品、200円になっております」
「えっ、本当ですか? カレーセットとかフルーツポンチとかも?」
「ええ、定食もセットで200円です。良い日に来られましたね」
「あっ、じゃぁ、カレーセットにフルーツポンチと後、アイスコーヒーで」
「畏まりました。お飲み物はセットに含まれておりますのでカレーセットとフルーツポンチでございますね」
「はい。お願いします」

 高校生はワクワクとした顔でオーダーをすると、嬉しそうにスマホを取り出した。そして、ハッとした顔をして、それからユルユルと首を振った。
 見ていると、しかめっ面をしたり口を尖らせたり、真面目な顔をしたりと一人で百面相をしているので店員Aが柱の陰から覗いて声を殺して笑っていた。
 やがて、カレーセットが運ばれてくると、高校生は一口食べ

「うーまい! なにこれ! 美味い」

 と一声叫び、その後は凄い勢いで食べ始めた。サラダとスープを食べた時も「信じられない」と呟きながらお皿に残ったドレッシングもカレーもスプーンでこそげ取るようにして食べていた。

「フルーツポンチでございます」

 運ばれたフルーツポンチはフルーツがぎっしりと乗っていて、バニラアイスとフルフルと揺れているゼリーが可愛い。

「うわー、こんなにフルーツが、メロンが大きい。このゼリー、トロンとして美味い。凄い、美味しい」

 高校生はすっかり笑顔になり本当に美味しそうにフルーツポンチを完食した。そして、食べ終わった器を名残惜しそうに見ている。

「アイスコーヒーでございます。まずは何も入れずにお召し上がりください」
「あっ、ハイ」

 そう言いながらアイスコーヒーを飲んだ高校生は「うわっ!」といいながら目を見開いた。

「何、これ! これがアイスコーヒー、こんな美味しいの、初めてだ!」
「気に入っていただけて良かったです」

 喫茶『AYASHI』で出す飲み物と食べ物はとても美味しい。しかし、いつもは常連ばかりなので特に何も言われる事はない。美味しい事が当たり前になっているから。
 この高校生のように手放しで褒められると、流石にマスターの翼も嬉しかったようでアップルパイを持ってきた。

「良かったらどうぞ。先ほど焼きあがったアップルパイです」
「ええ! いいんですか。有り難うございます」

 高校生はアップルパイにサクリとフォークをいれると大き目に切り取りパクッと食べた。途端に美味しいっという顔になり、幸せそうにあっという間に平らげてしまった。

「ああ、美味しかった。こんなに美味しいモノ、初めて食べました。ご馳走様でした」
「どういたしまして。そんなに美味しそうに食べていただくと、こちらも嬉しいです。ただ、何かこの店に用事があったのではないですか?」
「あ、あのどうしてわかるんですか?」
「それは、前もって連絡があったからですよ。高校生が困っているから相談に乗ってやってくれって」
「あっ、そうなんです。実は……困っているのはこのお札なんです」

 そう言いながら、高校生はカバンから小さな小箱を取り出した。

「この中にお札が入っているんですが、そのお札がしゃべるんです」
「お札がしゃべる?」
「ええ、信じられないかもしれないですけど、その声が聞こえるのが俺、だけなんです」

 高校生の言う事にはその小箱は2か月前に亡くなられた母方の祖父から名指しで形見として送られてきたもので、小箱とセットで付いてきた銀行の通帳には300万円が入っていた。
 ビックリして家族と共にその小箱を開けてみると中には古いお札が3枚、入っていてそのお札から「手に取って所有の意志を明確にせよ」という声が聞こえたそうだ。

 お札から声が聞こえたことに驚いたが、他の家族にはその声は聞こえてないそうで、所有の意志とか、しゃべるお札とか怖くて、でも遺言でそのお札は常に持ち歩くように、さもないと不幸が降りかかると言われたので持ち歩いている。
 しかし、寝る前には又、「手に取って所有の意志を明確にせよ」という声が聞こえてくるので「どうしよう」と思いながら過ごしていた。
 街角で占いのお爺さんが目について、手招きするのでフラフラと近寄って、相談してみるとこの喫茶店を紹介されたとの事。それで、今日、思い切って訪ねて来たそうだ。

「このお札なんですけど、どうしたらいいんでしょう」

 悩める高校生は美味しい食事と飲み物で元気になっていたのに、また、難しい顔に戻ってしまった。
 そして、小箱のなかのお札は立ち上がり何かを主張するかの如く揺れていた。
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