いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色

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第8章

第440話 不摂生な王子様

 その後は夢の延長のような感じでランチタイムが始まった。
 まだふわふわしてる僕に服を着せながら、クライスは「なんとか昼ごはんまでに間に合ったな」と呟いている。

(そうか、さっき見るだけで終了しそうだったのは、お昼ごはんのためだったのか)

 なんであんなに急いでたのか、謎が解けてふふっと笑ってしまう。
 ほんと、この王子様は僕の生活リズムを気にしすぎだと思うんだよね。
 僕が起きる時間も、寝る時間も、ご飯の時間も。彼にとっては超重要事項らしい。

「ねえ、クライス」

 僕はこんなにも自分のことを大事に思ってくれるクライスのことがーー

「なんだ?」
「大好き」

 ーー好きで好きで堪らない。

 きゅうっと彼の服を掴んで、もう一度「大好き」だと伝えてみる。

「……はー、まったく」

 クライスは呆れたように僕を見て、盛大にため息をついた。

「あのな、キルナ」
「なぁに?」
「今はご飯の時間だからスルーするが。食べたら、覚悟しとけよ」

 むすっとした口調だけど、耳が赤い。僕は「うん」と頷いて、大人しく彼に抱かれてダイニングへと向かった。


 ダイニングテーブルには当たり前だけど、二人分の食事が並んでいた。

 オムライスの大と小、クライスの分のフレッシュサラダ(僕は食べられないのでサラダはなし)、お豆のポタージュスープに、季節のフルーツ。
 シフォンケーキはまだないけれど、いつも通りなら食べ終わる頃に食後の飲み物と一緒に出てくるはずだ。



(今日は一人じゃないんだ……)

 部屋いっぱいに広がっているバターの香りに、ここしばらく忘れていた空腹感を感じた。
 クライスのお膝の上で、大きなお口を開けて待つ。

「あーん」

 昔、妖精の家で、カーナ達と一緒に食べた時にやってもらった時みたいに、お口に入れてもらいたくてやってみた。

 すると、僕の思惑に気づいたクライスが、フーフーと冷ましたオムライスを口に運んでくれた。

 ぱくり。もぐもぐもぐ。

「おいしっ!」
「よかったな。たくさん食え」
「クライスも、ね」
「ああ、わかってる」

 僕と、クライス、交互に口に運ばれていくスプーンを目で追いかけながら、あの時と同じように……妖精の家にいた時と同じように、穴が開くほど彼を見てしまっていた。
 好き、好き。どうしよう。

 好きすぎてハートのエフェクト撒き散らすだけじゃなくて、目だってハートになってるんじゃないかな、と本気で不安になってくる。

「クライスも、あーん」

 熱々だから、フーフーしてから彼の口に持っていく。
 出来立てのオムライスは冷ましても熱かったのか、はふっとしながら食べるクライスに、僕は急いでお水を差し出した。

「大丈夫? 熱すぎた?」
「いや。ちょうどいい。最近はこうした温かい料理を食べていなかったから、こうしてほかほかのご飯が食べられるのはうれしい」
「そう……?」

 えーと、熱いご飯が食べられなかったって、じゃあ何を食べているのだろう。

 クライスは僕といるときは大抵ベンスの作ったご飯を食べているけれど、それ以外の時にどんなものを食べているのかはあまり聞いたことがない。最近よく行くという禁書庫は王宮の中にあるわけだし、てっきり王宮料理を食べているのだと思ってたけど違うのかな?

「僕と食べてない時は普段何を食べてるの?」

 熱くない食べ物といえばサンドイッチとかかなと考えながら訊いてみると、思ってもない答えが返ってきた。

「朝と昼は食べないことが多いが……夜は大体携帯食だな」

(携帯食?)

 携帯食といえば、僕のイメージでは、登山とかキャンプとかに持ってくもので、硬いビスケットとかゼリーとかなんだけど。まさかね。
 この世界では王宮料理が携帯できるようになっているのかもしれない。動物園一つとっても前世とは全然違うし、すんごい携帯食があったっておかしくはない。
 先入観はよくないよくない。こう言う時はちゃんと訊くべし。

「携帯食って、たとえば?」
「そうだな。硬いビスケットとか、干し肉とか、栄養ゼリーとかだな」
「う……ん?」

 あれ? まさかの、前世のイメージどおりのものだった! しかも朝と昼は食べないって、さらにやばい。
 確かに数時間の断食とかは前世でも流行っていたからそれはそれでありかもしれないけれど……それならそれでバランスのいい食事をどこかで摂らないとダメだよね。

「もしや、毎日そんななの!?」
「ああ、ここ最近はそんなかんじだ」

 平然と答えるクライスにクラっとする。
 そんなばかな。
 僕の体調管理にはうるさいくせに、自分のことになるとダメダメなんて。

 でもそこでふと思う。

 普段のクライスはこうじゃない、と。
 だって、これまでは、朝ランニングに行って体を動かして、学園が終わったら魔法訓練所で魔法の練習して、終わったら僕とお風呂行って夜ご飯食べて、夜10時には寝るっていう規則正しい生活を送ってた人だもんね。

 それだけ、追い詰められてるんだ。
 それも、きっと僕のことで……

 そのことに気づくと、居た堪れなかった。

 よく見ると、クライスの目の下にはクマができている。人のことを全然言えないくらい、濃いクマが。
 そりゃそうだよね。朝早く出て帰ってくるのは深夜。彼の性格からして昼間にのんびりお昼寝しているとは考えにくいし、極端な寝不足状態が続いてるに違いない。

 それなのに僕は、今日一日彼といちゃいちゃしようだなんて考えて、浮かれて……バカすぎる!!


(これじゃだめだ。一刻も早くクライスを寝かせよう)

 シフォンケーキを食べ終えた僕は、食後いつものようにコーヒーを飲もうとしている彼のカップを奪い取ると、自分が頼んだホットミルクを彼に渡した。
 訳が分からず固まっているクライスに、早く飲むようにと促す。

「それ、蜂蜜が入ってるから甘くておいしいよ。クライスはそれ飲んで。クライスのコーヒーは僕がもらうね」
「それは別に構わないが。でも、本当にいいのか? キルナはコーヒーが苦手だろ?」

 首を傾げるクライスに、僕は「いいの。これが飲みたいの!」と主張する。コーヒーを大きな器に移して、冷たいミルクを注いで。出来上がったのは九割ミルクのカフェオレ。ほとんどミルクと言ってもいい。

 ならなんでホットミルクを飲まないんだ? という顔のクライスを無視して、僕は大量のミルクで薄めまくって作ったカフェオレを一気飲みした。僕はコーヒーの苦味は苦手だけれど、香りは好き。これはコーヒーの香りがするミルク、という感じでなかなかおいしい。

「ふぅ~おいしかった!」

 よし、全部飲んじゃったからもうクライスはホットミルクを飲むしかないはず。

「ほら、クライスもそれ早く飲んで」

「あ……ああ」

 戸惑いながらもごくごく飲み干していくクライスに、僕はほっと息をついた。これで寝る前にカフェイン摂取しちゃうことは防げた。

 次は……

 戸棚からラベンダーオイルと、アイマスクを出してきて、さらに“ののんのいらない枕”という秘密兵器を箱から取り出した。

 実はこれ、僕のクマに気づいたベルトがプレゼントしてくれたの。ののんの数を数えなくても寝れちゃう枕らしくて、流行りすぎてるせいでなかなか手に入らないのだって。
 もらった時、本当にありがたいと思ったものの、絶賛狸寝入り作戦中の僕が使うわけにはいかなくて、未使用のまましまっていた。それが今こそ活躍する時。

 どんなものかわくわくしながら触ってみると、おおお! シフォンケーキみたいにふわっふわだ!! これならすぐ寝れそう!

 その枕の端っこにラベンダーオイルを数滴つけてと。

「ほら、クライス、ここに寝転んで」
「うん? もう寝るのか?」
「そうだよ、これもつけてね」

 言われるがまま、ごろっとベッドに寝転んだクライスにアイマスクを装着して、これでよし。

「さ、寝よっか。あ……」

 掛け布団をかけてあげようとして、彼のズボンにテントが張ってあるのを発見した。

(そうだ。僕だけやってもらったんだから、クライスのもどうにかしてあげなくちゃ)

 ついさっき一刻も早く寝かせよう、と思ったところだけれど。そういえば食後一、二時間してから寝た方がいいって聞いたことがある。これをどうにかしてから寝たらちょうどいいかもしれない。

「クライスのコレ、僕が寝かせてあげるから」

 コレ、に手を当てながらそう言うと、「それはうれしいが、アイマスクは取っていいんだよな?」と、ちょっと焦ったようにクライスが確認してくる。

 僕はうーんと考えた後、「だめ」と答えた。

「え……なぜだ?」

 だって、さっき散々恥ずかしいとこ見られたから、これ以上見られるのは恥ずかしいし……眠くなったらそのまま寝てほしいから。
 お昼でまだ明るい中眠るには、アイマスクがあった方がいい。真っ暗な方が睡眠の質が高くなるはずだから。

「そんな……キルナのエロ可愛い姿が見れないとか拷問か?」と嘆いているクライスを無視して、僕は勝負パンツ一枚の姿になると、こっちを寝かせる作業に全力で取り組むことにした。
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