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第5章
第189話 クライスSIDE 婚約者の休日
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理事長との訓練が長引いてしまった。外は結構強い雨が降っている。防水魔法を使い急いで薬草園に行ったがキルナの姿はなく、部屋に戻ると手紙と薬草と菓子が机の上に置かれていた。バターとバニラの香りが漂う部屋はさっきまで彼がいたことを感じさせる。まだ温かいマドレーヌは甘く優しい味で、もったいないと思いながらも全部食べてしまった。
リリーとベルトの部屋から戻った彼と大浴場に行きいつものようにマッサージをしていると、手の平の肉刺が潰れて痛々しいことに気付く。素振りをしていた時に潰れてしまったようだ。あまりにも酷いので、痛みが和らぐように鎮痛魔法をかけた。
「キルナ、痛いか?」
「ん、もうだいじょぶ…ありがと」
「そうか……」
頑張るのは良いことだが、こんな手になるまで続けるなんて、無茶しすぎではないかと思う。それとも白く柔らかな彼の手はたった50回の素振りでもこんな風になるのだろうか。
キルナに「少し治すか」と聞くと、「治してもどうせまた潰れるからそのままでいいよ」と言う。皮が分厚く強くなるまでは魔法で治さず自己治癒の方が良いのだが、剣術の授業は毎日ある。このままでは痛くて木剣を振れないだろう。明日の朝、また痛み止めの魔法を施し綺麗にテーピングしてやろうと決めた。
「あのね、今週の週末、リリーと王都の繁華街にお買い物に行きたいの」
「学園の外で買い物か。それは楽しそうだが今週末…か」
「お父様に手紙を書いて許可をいただけたら、なのだけど」
俺の膝の上でうきうきしながら王都の地図を見るキルナ。風呂から上がり、うさぎのルームウェアを着ておいしそうにミルクを飲む姿は、見ているだけで癒される。白いうなじが可愛くて何度もそこにキスを繰り返していると、もうやめてよ! と怒られた。
「すまないが、今週末、王宮にどうしても帰ってこいと言われている。詳しく聞いていないが何かイベントの打ち合わせがあるらしい。買い物は来週ではダメか?」
そう尋ねると、地図から目を離さないまま、彼は頷いた。
「どうしても今週じゃなきゃダメなの。お買い物はリリーと行ってくるからクライスが来なくても大丈夫だよ。そうだ。なんか欲しいものある?」
「まさかリリーと二人だけで行くつもりか?」
「うん。ベルトも用事があって無理なのだって。ふふっ、そう心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ。そんなに遠くまでは行かないって言ってたし、学園の近くにある繁華街に行くだけ。この学園の生徒はよく行くところなんでしょ? 買い物が終わったらすぐ帰ってくるよ」
リリー=プラムは性格はあれだが、見た目は完全に小動物系の男だ。キルナとリリー、小動物二人で街をうろつくなど、攫ってくださいと言っているようなもの……。なんとか止めたいが、本人はもう行く気満々で気になる店に赤丸をつけ、準備をしている。
青いフードの人間がまたキルナを狙ってくる可能性だってある。
誰かに付き添いを頼みたいが、ロイル、ギア、リオン、ノエルは同じくそれぞれの実家に呼ばれているから今回は頼めない。
「ね~クライス、欲しいものとかないの?」
「あ、ああ。今は特にない。俺の分はいらないから自分の好きなものを買ってこい」
不安だがフェルライト公爵が良いと返事をしたら、行くなとは言えない。彼の自由を奪うことはしたくない。
「んじゃあさ、好きな色は?」
「黒と、金」
「えと、じゃあ好きなお菓子は?」
「キルナの手作りならなんでも好きだ」
「好きなアクセサリーは?」
「あまりアクセサリーはつけないが、シンプルなデザインで動く時に邪魔にならないものが好みだな」
もちろんキルナとお揃いならどんなに酷いデザインで邪魔になるようなものでも毎日つけるが。
なぜか俺の好きなものをやたらと質問してきてはいそいそとメモを取る可愛い婚約者を見ながら、俺はどうすべきか考えを巡らせていた。
リリーとベルトの部屋から戻った彼と大浴場に行きいつものようにマッサージをしていると、手の平の肉刺が潰れて痛々しいことに気付く。素振りをしていた時に潰れてしまったようだ。あまりにも酷いので、痛みが和らぐように鎮痛魔法をかけた。
「キルナ、痛いか?」
「ん、もうだいじょぶ…ありがと」
「そうか……」
頑張るのは良いことだが、こんな手になるまで続けるなんて、無茶しすぎではないかと思う。それとも白く柔らかな彼の手はたった50回の素振りでもこんな風になるのだろうか。
キルナに「少し治すか」と聞くと、「治してもどうせまた潰れるからそのままでいいよ」と言う。皮が分厚く強くなるまでは魔法で治さず自己治癒の方が良いのだが、剣術の授業は毎日ある。このままでは痛くて木剣を振れないだろう。明日の朝、また痛み止めの魔法を施し綺麗にテーピングしてやろうと決めた。
「あのね、今週の週末、リリーと王都の繁華街にお買い物に行きたいの」
「学園の外で買い物か。それは楽しそうだが今週末…か」
「お父様に手紙を書いて許可をいただけたら、なのだけど」
俺の膝の上でうきうきしながら王都の地図を見るキルナ。風呂から上がり、うさぎのルームウェアを着ておいしそうにミルクを飲む姿は、見ているだけで癒される。白いうなじが可愛くて何度もそこにキスを繰り返していると、もうやめてよ! と怒られた。
「すまないが、今週末、王宮にどうしても帰ってこいと言われている。詳しく聞いていないが何かイベントの打ち合わせがあるらしい。買い物は来週ではダメか?」
そう尋ねると、地図から目を離さないまま、彼は頷いた。
「どうしても今週じゃなきゃダメなの。お買い物はリリーと行ってくるからクライスが来なくても大丈夫だよ。そうだ。なんか欲しいものある?」
「まさかリリーと二人だけで行くつもりか?」
「うん。ベルトも用事があって無理なのだって。ふふっ、そう心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ。そんなに遠くまでは行かないって言ってたし、学園の近くにある繁華街に行くだけ。この学園の生徒はよく行くところなんでしょ? 買い物が終わったらすぐ帰ってくるよ」
リリー=プラムは性格はあれだが、見た目は完全に小動物系の男だ。キルナとリリー、小動物二人で街をうろつくなど、攫ってくださいと言っているようなもの……。なんとか止めたいが、本人はもう行く気満々で気になる店に赤丸をつけ、準備をしている。
青いフードの人間がまたキルナを狙ってくる可能性だってある。
誰かに付き添いを頼みたいが、ロイル、ギア、リオン、ノエルは同じくそれぞれの実家に呼ばれているから今回は頼めない。
「ね~クライス、欲しいものとかないの?」
「あ、ああ。今は特にない。俺の分はいらないから自分の好きなものを買ってこい」
不安だがフェルライト公爵が良いと返事をしたら、行くなとは言えない。彼の自由を奪うことはしたくない。
「んじゃあさ、好きな色は?」
「黒と、金」
「えと、じゃあ好きなお菓子は?」
「キルナの手作りならなんでも好きだ」
「好きなアクセサリーは?」
「あまりアクセサリーはつけないが、シンプルなデザインで動く時に邪魔にならないものが好みだな」
もちろんキルナとお揃いならどんなに酷いデザインで邪魔になるようなものでも毎日つけるが。
なぜか俺の好きなものをやたらと質問してきてはいそいそとメモを取る可愛い婚約者を見ながら、俺はどうすべきか考えを巡らせていた。
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