いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色

文字の大きさ
79 / 304
第5章

第215話 甘えん坊の王子様③

しおりを挟む
僕の剣術は全体的に勢いがあったのはよかったけど、無理な力が入っていて体力の消耗が激しすぎる点が良くなかったと教えてもらった。攻撃の向きとかフェイントとか自分なりに色々工夫もしてみたけれど、そういうの以前に、まずはうまく力が伝わる姿勢を覚えることが大切なのだって。(僕は体力が少ないからとくに、効率よく力を使う練習が必要らしい。)

そこで基本姿勢から見直すことになった。

「キルナ、握り方が違う。もっと左手は後ろに下げて」
「こ、こぅ?」
「そうだ。足はもう少し開いて」
「ん、これくらい…かな?」
「ああ。腰は……」

(って、ちょっとクライス近過ぎっ)

腰も手も触れ合うたびにドキドキしちゃって全然集中出来ない! でも教えてもらっているのだから文句は言えない……。僕が意識しすぎなのだろうか?

「肩の力を抜け」
「ふぁ……」

耳元でささやかれ、ふにゃっと力が抜けると、「よし、上手だ」と彼が笑った。うっ、イケメンスマイル……まぶしっ。

そんな感じでまさしく手取り足取り教えてもらっていると、

「っ!? (何この視線!?)」

斜め後ろの方から強い視線を感じる。なんだろ? とその方向を見ると、誰かが鬼のような形相で僕を睨みつけていた。あれは、(怖すぎてわかりにくいけど)水の妖精テア=リメットだ。

「えと、何か?」

一応尋ねてみると、テアは「フンッ、別に~!」と言ってそっぽを向いた。そして、クライスが僕に教え始めるとまたジーッとこちらを見てくる。うぅ、こんなに見られているとなんかやりにくい。クライスも彼の視線には気づいているみたいだけど、完全に無視している。

「大体わかったよ。ありがと。あとは自分で練習するから、ちょっとクライス離れてくれる?」

くっつき過ぎなのがいけないのかもとそれとなく彼を離そうとしたら、肩をぐいっと引き寄せられ後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「嫌だ。離れたくない」
「ふぇ……?」

(う~ん。どうやら王子様は甘えん坊モードになっている模様……。)

誘拐事件のせいで、心配性な一面が前面に出てしまったらしい。困ったな。周囲からはテア以外からも突き刺すような視線を感じるし…テアの顔はますます怖くなって般若みたいになっている。きっと、なんであんなど素人が王子とペアになって剣の練習をしてるの? 何様のつもり!? って思われてるんだろうな。

そういえばゲームの中でキルナ=フェルライトは、ペアと名のつくものには全部王子と自分がならなきゃ気が済まなくて、ユジンとクライスがくじ引きで一緒になった時も邪魔をしていたのだった。(ん~あれってなんのイベントだったかしら? 「うっわ~またキルナに邪魔された。うざ~!」という優斗の悲痛な叫び声にびっくりして、「何を邪魔されたの?」と少しだけ話を聞いたはずなのだけど、ん~残念、内容は忘れた……。)

まぁとにかく、この視線の量から推測するに、僕は今ゲーム通り悪役キルナとしてバッチリ親衛隊(クライスのファンたち)の反感を買っているみたい。嬉しい状況とは言い難いけど、順調にストーリーが進んでいるという面では悪く無いのかもしれない。


ただ……。

「んぅ、ちょっと…そんなに強く抱きしめられると、苦しいのだけど……」
「キルナ、俺が絶対にお前を守るから、側にいさせてくれ」
「えと……ありがと。でもさ、こんなにくっついてたら素振りができないよ?」

(優斗から聞いたゲームの中のクライス王子ってこんなかんじじゃなかったような……。)

僕の腰を抱いたまま全然動こうとしない王子様をどうにもできず、途方に暮れながら、僕は青く澄んだ空を仰いだ。
しおりを挟む
感想 714

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。