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第7章
第315話 無慈悲な授業②(ちょい※)
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(どうしよ、魔力の水が破裂しちゃう! もうダメだ)
波打ちながら巨大化し続けるそれが恐ろしくて目を瞑りかけたその時、後ろから誰かが僕の震える右手に手を添え、静かな声で囁いた。
「魔力の流れを感じて、その流れをゆっくり細くしていくのです。力が分散しないように水の球の表面から中心に向けて魔力を集めて、できるだけ丸い形にしていきます。そう、ゆっくり……上手です」
とにかく言われた通り魔力を調整する。もう決壊して今にも弾けそうになっていた水の球は波打つのをやめ滑らかな表面になっていく。魔力をうまいこと球の中心に集中させると、それはやがて、つるりとしたボールのようになった。
「それを、正面にある的に向かって、投げてみてください。力まず、ふわりと放つだけで大丈夫です。目はしっかり的の中央を見据えて……」
指示に従って球を投げる。すると、それはふよふよと飛び、ぽちゃんと的の右端に当たって弾けた。
「あ……で…できた……」
振り返って右後ろにいた声の主を見上げると。それは柔和な笑みを浮かべたリオンだった。
「ありがと! リオンのおかげだよ」
「いえ、うまくできたのはキルナ様のお力ですよ」
リオンは颯爽と踵を返し、上級者コースへと戻っていった。あんなにさらっと人を助けることができるなんて、格好良すぎる。
そういえば、彼も攻略対象者なんだよね。もうユジンに出会ったかしら。(彼とユジンの出会いは覚えてない。優斗は熱心にクライスルートばかり話していたし)
彼の後ろ姿を見送り、もう一度的に向き直った。今の感覚を忘れないためにもう一度練習しておこう。
僕は何度も何度も球を作っては、的に向けて投げた。慣れると早く作れるようになり、だんだん真っ直ぐ飛ばせるようになった。的にも何度か掠っているし、もう少しで中心に当たりそうな気がする。自在に魔法が扱える感覚が面白くてやみつきになる。しかし、異変は急に起きた。
(ん、あれ? コントロールが効かない……やばい。魔力を止められない!)
「うぁああああ!!!」
ボールがバッシャァー、と手元で勢いよく弾けて、自分も床も隣の人たちもびしょびしょになってしまった。ぺこぺこと謝りながら隣の子にハンカチを差し出す。
「これ使って?」
しかし隣にいた子(カイズって名前だったかな? あまり話したことない男の子)は一歩下がって僕から遠ざかる。
「いえ、大丈夫です!! 自分でなんとかしますので、キルナ様がお使いください」
「だけど、いっぱい水がかかっちゃったから……」
「大丈夫です。お気になさらず!」
なぜか頑なに断られてしまった。その後周囲にいた何人かに声をかけたけれど、誰もハンカチを受け取ってくれない。眼鏡をしていないから怖がられてるのかも。仕方がないのでハンカチで濡れた自分の顔や髪の毛を拭いていく。
頭がぼぉっとする。体が熱い。
(あ、これ久しぶりの感覚……。魔力酔い……かな?)
なんとか回復しようとじっと俯いていると、上級者向けの的当てをしていたクライスが戻ってきた。
「キルナ、医務室へ行こう。いきなり無理しすぎだ」
「しばらく休めば大丈夫だよ……」
と思ったのは気のせいだったみたい。言った側から体の力が抜けて、横で練習していたカイズの胸に倒れ込んでしまう。身長は普通だけどわりとガッチリした体格の彼は難なく受け止めてくれた。でもなぜか僕を腕に抱いたまま固まっている。
「あ、ごめ……」
「す、すみません! お、俺なんかがキルナ様に触れ、触れてしまい……」
「ああ、キルナを支えてくれて感謝する。いくぞ」
焦っている彼の腕から奪うように僕の体を抱き上げたクライスは、そのままメビス先生に状況報告に向かった。
その間にちょっとでも安定した体勢をとって彼の負担を減らそうと試みたのだけど、あれ? 手が変。彼の首にうまく手を回すことができない。医務室へ、と見せかけてクライスは今回も寮の自室へと飛んだ。
「ごめん…手が動かないの。なんだか痺れてるみたい……」
「見せてくれ」
僕の体をベッドに寝かせると、彼はすぐに腕を曲げたり伸ばしたりして観察をはじめた。お医者さんモードのクライスは知的で格好いいな、と思いながら僕はぼんやりそれを眺める。
「いつもより重症だな。魔力を使いすぎだ。体に負荷がかかりすぎて麻痺症状が出ている。チョーカーの中にいくらでも魔力は入っているとはいえ、それを一気に使うのは危険だ。体に魔力を流しすぎるとこうして魔力酔いを起こしてしまうし、体に負担がかかる。制御できるだけの量と体力の範囲内で少しずつ調整して使え」
たしかに、今日は今まで使ったことないくらい大量の魔力を使った。魔力20で生活するのが基本の体があんな魔力の連続使用をして平気なはずがなかった……。
「ん、わかった。リオンのおかげでちょっとうまくできて……調子に乗っちゃった。次から気を付ける」
「ああ、見ていた。うまくできていたな。リオンは魔術師団長の息子だけあって魔術の扱いがうまい。教え方も的確だからまた教えてもらえばいい」
「うん。そうする……」と僕は頷いた。ゲームでは裏表のあるキャラで怖いイメージがあったけれど、すごく優しかったしまた教えてもらいたい。
「じゃあキルナ、今からじっくり余分な魔力を出してやる」
「ん、おねがい……んぁ」
実は体の熱が辛くて、クライスがそう言ってくれるのを今か今かと待っていた。
キスで魔力を取り出すのかな、と口を開けて待っていたのだけど……キスは降りてこない。あれ?
(なんで、ズボンを下ろすの? ふぇ? パンツ……も? もしかして……)
波打ちながら巨大化し続けるそれが恐ろしくて目を瞑りかけたその時、後ろから誰かが僕の震える右手に手を添え、静かな声で囁いた。
「魔力の流れを感じて、その流れをゆっくり細くしていくのです。力が分散しないように水の球の表面から中心に向けて魔力を集めて、できるだけ丸い形にしていきます。そう、ゆっくり……上手です」
とにかく言われた通り魔力を調整する。もう決壊して今にも弾けそうになっていた水の球は波打つのをやめ滑らかな表面になっていく。魔力をうまいこと球の中心に集中させると、それはやがて、つるりとしたボールのようになった。
「それを、正面にある的に向かって、投げてみてください。力まず、ふわりと放つだけで大丈夫です。目はしっかり的の中央を見据えて……」
指示に従って球を投げる。すると、それはふよふよと飛び、ぽちゃんと的の右端に当たって弾けた。
「あ……で…できた……」
振り返って右後ろにいた声の主を見上げると。それは柔和な笑みを浮かべたリオンだった。
「ありがと! リオンのおかげだよ」
「いえ、うまくできたのはキルナ様のお力ですよ」
リオンは颯爽と踵を返し、上級者コースへと戻っていった。あんなにさらっと人を助けることができるなんて、格好良すぎる。
そういえば、彼も攻略対象者なんだよね。もうユジンに出会ったかしら。(彼とユジンの出会いは覚えてない。優斗は熱心にクライスルートばかり話していたし)
彼の後ろ姿を見送り、もう一度的に向き直った。今の感覚を忘れないためにもう一度練習しておこう。
僕は何度も何度も球を作っては、的に向けて投げた。慣れると早く作れるようになり、だんだん真っ直ぐ飛ばせるようになった。的にも何度か掠っているし、もう少しで中心に当たりそうな気がする。自在に魔法が扱える感覚が面白くてやみつきになる。しかし、異変は急に起きた。
(ん、あれ? コントロールが効かない……やばい。魔力を止められない!)
「うぁああああ!!!」
ボールがバッシャァー、と手元で勢いよく弾けて、自分も床も隣の人たちもびしょびしょになってしまった。ぺこぺこと謝りながら隣の子にハンカチを差し出す。
「これ使って?」
しかし隣にいた子(カイズって名前だったかな? あまり話したことない男の子)は一歩下がって僕から遠ざかる。
「いえ、大丈夫です!! 自分でなんとかしますので、キルナ様がお使いください」
「だけど、いっぱい水がかかっちゃったから……」
「大丈夫です。お気になさらず!」
なぜか頑なに断られてしまった。その後周囲にいた何人かに声をかけたけれど、誰もハンカチを受け取ってくれない。眼鏡をしていないから怖がられてるのかも。仕方がないのでハンカチで濡れた自分の顔や髪の毛を拭いていく。
頭がぼぉっとする。体が熱い。
(あ、これ久しぶりの感覚……。魔力酔い……かな?)
なんとか回復しようとじっと俯いていると、上級者向けの的当てをしていたクライスが戻ってきた。
「キルナ、医務室へ行こう。いきなり無理しすぎだ」
「しばらく休めば大丈夫だよ……」
と思ったのは気のせいだったみたい。言った側から体の力が抜けて、横で練習していたカイズの胸に倒れ込んでしまう。身長は普通だけどわりとガッチリした体格の彼は難なく受け止めてくれた。でもなぜか僕を腕に抱いたまま固まっている。
「あ、ごめ……」
「す、すみません! お、俺なんかがキルナ様に触れ、触れてしまい……」
「ああ、キルナを支えてくれて感謝する。いくぞ」
焦っている彼の腕から奪うように僕の体を抱き上げたクライスは、そのままメビス先生に状況報告に向かった。
その間にちょっとでも安定した体勢をとって彼の負担を減らそうと試みたのだけど、あれ? 手が変。彼の首にうまく手を回すことができない。医務室へ、と見せかけてクライスは今回も寮の自室へと飛んだ。
「ごめん…手が動かないの。なんだか痺れてるみたい……」
「見せてくれ」
僕の体をベッドに寝かせると、彼はすぐに腕を曲げたり伸ばしたりして観察をはじめた。お医者さんモードのクライスは知的で格好いいな、と思いながら僕はぼんやりそれを眺める。
「いつもより重症だな。魔力を使いすぎだ。体に負荷がかかりすぎて麻痺症状が出ている。チョーカーの中にいくらでも魔力は入っているとはいえ、それを一気に使うのは危険だ。体に魔力を流しすぎるとこうして魔力酔いを起こしてしまうし、体に負担がかかる。制御できるだけの量と体力の範囲内で少しずつ調整して使え」
たしかに、今日は今まで使ったことないくらい大量の魔力を使った。魔力20で生活するのが基本の体があんな魔力の連続使用をして平気なはずがなかった……。
「ん、わかった。リオンのおかげでちょっとうまくできて……調子に乗っちゃった。次から気を付ける」
「ああ、見ていた。うまくできていたな。リオンは魔術師団長の息子だけあって魔術の扱いがうまい。教え方も的確だからまた教えてもらえばいい」
「うん。そうする……」と僕は頷いた。ゲームでは裏表のあるキャラで怖いイメージがあったけれど、すごく優しかったしまた教えてもらいたい。
「じゃあキルナ、今からじっくり余分な魔力を出してやる」
「ん、おねがい……んぁ」
実は体の熱が辛くて、クライスがそう言ってくれるのを今か今かと待っていた。
キスで魔力を取り出すのかな、と口を開けて待っていたのだけど……キスは降りてこない。あれ?
(なんで、ズボンを下ろすの? ふぇ? パンツ……も? もしかして……)
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