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第7章
第332話 悪役活動の続き②
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「ユジンの部屋綺麗だね」
「いつキル兄様が遊びにきてもいいように、清潔にしています」
「ふふ、ユジンったら、まるで僕のためみたいに。冗談が上手」
「冗談ではありません」
「ふぇ?」
「キルナ、いいからソファに座れ」
「はぁーい」
立ったままキョロキョロしてるとクライスに怒られた。ここに座れと膝の上を指し示されたけどそれはさすがに無理、と断って隣に座る。(ユジンの前でそんな恥ずかしいことできない)
お茶を待ってる間やっぱり暇だから、僕は人のお部屋をじろじろ観察するという悪役めいた行動をとることにした。
最初に目についたのは大量の回復魔法に関する本と、僕とお揃いのメフメフのぬいぐるみ(小サイズ)だった。そして、整頓された棚に、見覚えのあるものを発見する。
(光飴と、ジーンの花束!?)
昔僕がユジンにプレゼントしたものだ。懐かしい。その横には金平糖に似た水の花が、美しいガラス瓶に入れて飾られている。
(あれってもしかして、この前ユジンの上靴の中に仕込んだもの?)
嫌がらせに使った水の花を、なんであんなところに飾ってるのかと疑問に思っていると、いきなり膝の上に何かが飛び乗った。
「にゃあっ」
「うひゃあああ!! なにっ!?」
びっくりして声を上げてしまったけど、僕の膝の上でおとなしくしているそれは黒くて小さくて可愛らしい。
「黒い…猫……? じゃなくって……ム…なんだっけ」
「ムベルだ」
紅茶を優雅に飲みながら、クライスが答えを教えてくれる。お茶の用意を終えたユジンが向かいに座って補足した。
「そうです。同室のクーマが飼ってる子で、名前はムーと言います。こっちのテガミドリはテテ。クーマは魔法生物が好きで、あまり大きくならない魔法生物を色々と部屋で飼ってるんです」
ムベルだからムー、テガミドリだからテテ。……なんとなくクーマって子の性格がわかるような。
膝の上で丸くなっているムーを撫でていると、灰色の子うさぎに似た生物が近寄ってきて、自分も撫でて欲しそうに頭を下げた。よしよしよし、とそのふわふわの頭を優しく撫でると「きゅうっ」と可愛らしく鳴いた。
「この子はメフメフ?」
「そうです。その子だけは僕ので…その、飼ったばかりなのですが、まだ名前がありません。よかったら、兄様がつけてやってくれませんか」
「いいの? そんなことをしたら僕を飼い主と間違わない?」
「契約は契約者の血を与えながら名前を唱えることで成立するので、兄様のつけた名を僕が呼んで契約します。なので問題ありません」
ああ、そんなことを魔法生物学の授業で習ったような……。まぁそれはいいとして。名前は何がいいかな? こういうのは見た目とかで決めるべき? でもどこを探しても特徴的な模様はないみたい。ん~どうしよ。
メフメフは子うさぎに似てる。うさぎ、といえば月。満月ってポポの実に似てるよね……。なら、
「ポポ、ってどうかな」
「いいですね! 兄様の好きなポポの実からとったんですか? その名前なら呼ぶたびに兄様のことを思い出せて最高です。それにします! 指先からほんの少し血を出すので、キル兄様怖ければ少し目を瞑っていてくださいね」
「ありがと、ちょっとならだいじょぶ」
ユジンは僕が血が苦手なのを知っていて気遣ってくれている。優しい。
「ポポ」と名を呼びながらユジンが血をあたえると、メフメフとユジンの体が一瞬白く光った。
「へぇ! こうやって契約するんだぁ」
ユジンの指からペロペロと魔力の光を舐めているポポを見ていると羨ましくなってくる。
いいなぁ、僕もいつか魔法生物と契約したい。どんな子がいいかな~。思いを巡らせていると、ユジンが「あ。そういえば」、と何かを思い出したように言った。
「もうすぐ新入生歓迎の催しがありますね」
「ああ、俺たちの頃にはなかったが、一昨年からそういうイベントをするようになったらしいな」
「んぇ!? 新入生歓迎イベント!?」
そういうものが、ゲームにもあった。1年生と6年生がくじびきでペアになるこのイベント。悪役令息の僕は、クライスとユジンがペアになるのを邪魔するのだった。
邪魔をして、でも結局それはうまくいかず、クライスとユジンはペアになる。二人で仲良くイベントをこなし、そこから徐々に親密な関係になっていく。
「それってなんだか楽しそうだね」
言いながら、自分がうまく笑えているのか不安になった。なんだろう。お腹がちくちくする。
「でも大丈夫ですか? キル兄様はこういうの苦手じゃなかったですか?」
(苦手? イベントって何するのだっけ? 僕が苦手でペアでやるといえば、ダンスかな?)
それなら前にいっぱい練習したからなんとか踊れると思うけど……。ステップも忘れてないはず。多分。だけどワン、ツー、ターンのところが難しくて、ルゥの足を何度も踏んづけたこともあったし、もう一度練習した方がいいかも。
「もう一回ステップの確認したら大丈夫だよ」
にへっと笑いながら言えば、クライスとユジンが「「ダンスじゃない(ですよ)」」と同時に答える。
「イベントの内容は、肝試しです」
「んな……(肝試しだって!!!?)」
それは嫌。怖いものは苦手なの!! というのが本音だけど、弟の前ではいい格好しぃなところが出てしまう。
「そんなの全然へっちゃらだよ。ユジンは怖いの? もしユジンと僕がペアになったら僕が守ってあげるよ」
なんて言ってみたりして。まぁ、ペアになるのはクライスとユジンなんだけど。
(じゃあ僕は誰とペアになるのかしら)
ユジンが淹れてくれたおいしいはずのお茶も、焼きたてのマドレーヌも、それきり味がしなくなってしまった。
「いつキル兄様が遊びにきてもいいように、清潔にしています」
「ふふ、ユジンったら、まるで僕のためみたいに。冗談が上手」
「冗談ではありません」
「ふぇ?」
「キルナ、いいからソファに座れ」
「はぁーい」
立ったままキョロキョロしてるとクライスに怒られた。ここに座れと膝の上を指し示されたけどそれはさすがに無理、と断って隣に座る。(ユジンの前でそんな恥ずかしいことできない)
お茶を待ってる間やっぱり暇だから、僕は人のお部屋をじろじろ観察するという悪役めいた行動をとることにした。
最初に目についたのは大量の回復魔法に関する本と、僕とお揃いのメフメフのぬいぐるみ(小サイズ)だった。そして、整頓された棚に、見覚えのあるものを発見する。
(光飴と、ジーンの花束!?)
昔僕がユジンにプレゼントしたものだ。懐かしい。その横には金平糖に似た水の花が、美しいガラス瓶に入れて飾られている。
(あれってもしかして、この前ユジンの上靴の中に仕込んだもの?)
嫌がらせに使った水の花を、なんであんなところに飾ってるのかと疑問に思っていると、いきなり膝の上に何かが飛び乗った。
「にゃあっ」
「うひゃあああ!! なにっ!?」
びっくりして声を上げてしまったけど、僕の膝の上でおとなしくしているそれは黒くて小さくて可愛らしい。
「黒い…猫……? じゃなくって……ム…なんだっけ」
「ムベルだ」
紅茶を優雅に飲みながら、クライスが答えを教えてくれる。お茶の用意を終えたユジンが向かいに座って補足した。
「そうです。同室のクーマが飼ってる子で、名前はムーと言います。こっちのテガミドリはテテ。クーマは魔法生物が好きで、あまり大きくならない魔法生物を色々と部屋で飼ってるんです」
ムベルだからムー、テガミドリだからテテ。……なんとなくクーマって子の性格がわかるような。
膝の上で丸くなっているムーを撫でていると、灰色の子うさぎに似た生物が近寄ってきて、自分も撫でて欲しそうに頭を下げた。よしよしよし、とそのふわふわの頭を優しく撫でると「きゅうっ」と可愛らしく鳴いた。
「この子はメフメフ?」
「そうです。その子だけは僕ので…その、飼ったばかりなのですが、まだ名前がありません。よかったら、兄様がつけてやってくれませんか」
「いいの? そんなことをしたら僕を飼い主と間違わない?」
「契約は契約者の血を与えながら名前を唱えることで成立するので、兄様のつけた名を僕が呼んで契約します。なので問題ありません」
ああ、そんなことを魔法生物学の授業で習ったような……。まぁそれはいいとして。名前は何がいいかな? こういうのは見た目とかで決めるべき? でもどこを探しても特徴的な模様はないみたい。ん~どうしよ。
メフメフは子うさぎに似てる。うさぎ、といえば月。満月ってポポの実に似てるよね……。なら、
「ポポ、ってどうかな」
「いいですね! 兄様の好きなポポの実からとったんですか? その名前なら呼ぶたびに兄様のことを思い出せて最高です。それにします! 指先からほんの少し血を出すので、キル兄様怖ければ少し目を瞑っていてくださいね」
「ありがと、ちょっとならだいじょぶ」
ユジンは僕が血が苦手なのを知っていて気遣ってくれている。優しい。
「ポポ」と名を呼びながらユジンが血をあたえると、メフメフとユジンの体が一瞬白く光った。
「へぇ! こうやって契約するんだぁ」
ユジンの指からペロペロと魔力の光を舐めているポポを見ていると羨ましくなってくる。
いいなぁ、僕もいつか魔法生物と契約したい。どんな子がいいかな~。思いを巡らせていると、ユジンが「あ。そういえば」、と何かを思い出したように言った。
「もうすぐ新入生歓迎の催しがありますね」
「ああ、俺たちの頃にはなかったが、一昨年からそういうイベントをするようになったらしいな」
「んぇ!? 新入生歓迎イベント!?」
そういうものが、ゲームにもあった。1年生と6年生がくじびきでペアになるこのイベント。悪役令息の僕は、クライスとユジンがペアになるのを邪魔するのだった。
邪魔をして、でも結局それはうまくいかず、クライスとユジンはペアになる。二人で仲良くイベントをこなし、そこから徐々に親密な関係になっていく。
「それってなんだか楽しそうだね」
言いながら、自分がうまく笑えているのか不安になった。なんだろう。お腹がちくちくする。
「でも大丈夫ですか? キル兄様はこういうの苦手じゃなかったですか?」
(苦手? イベントって何するのだっけ? 僕が苦手でペアでやるといえば、ダンスかな?)
それなら前にいっぱい練習したからなんとか踊れると思うけど……。ステップも忘れてないはず。多分。だけどワン、ツー、ターンのところが難しくて、ルゥの足を何度も踏んづけたこともあったし、もう一度練習した方がいいかも。
「もう一回ステップの確認したら大丈夫だよ」
にへっと笑いながら言えば、クライスとユジンが「「ダンスじゃない(ですよ)」」と同時に答える。
「イベントの内容は、肝試しです」
「んな……(肝試しだって!!!?)」
それは嫌。怖いものは苦手なの!! というのが本音だけど、弟の前ではいい格好しぃなところが出てしまう。
「そんなの全然へっちゃらだよ。ユジンは怖いの? もしユジンと僕がペアになったら僕が守ってあげるよ」
なんて言ってみたりして。まぁ、ペアになるのはクライスとユジンなんだけど。
(じゃあ僕は誰とペアになるのかしら)
ユジンが淹れてくれたおいしいはずのお茶も、焼きたてのマドレーヌも、それきり味がしなくなってしまった。
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