いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色

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第8章

第370話 悪役令息の試験勉強

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一学期の間、学園はそのまま休みが続き、ひたすら課題をこなす日々が続いた。

長期休暇に入り、いつものように帰省しようとしたら、お父様から『家には帰ってこないように』と手紙が届いた。お父様は今仕事がものすごく忙しくてほとんど家に帰れていないらしく、屋敷の警備だけでは不安だから学園にいて欲しいのだって。

騎士団と魔術師団の働きで魔獣は王都やその周辺の領地から姿を消したものの、まだ警戒体制は続いていて落ち着かない様子だという。

ということで、僕は長期期間中寮に残った。テアとリリーも今年は遠出すると危ないから帰らないと言い、クライスとユジンも寮に残っていたから寂しくはなかった。


ガリガリガリ……

そして今、僕は人生で一番勉強している。『必勝』って書いたハチマキを巻いて、そこら中の壁に『闘魂』って書いた紙と暗記したいことを書いたメモを貼り付けて。まるで受験生のよう。

なぜか気になる? 勉強嫌いなくせに急に何やる気だしてんだこいつ? ってみんな思ってるに違いない。でも誰もそれを口に出しては言わなかった。

わからないところをテアやリリーに聞けば変な顔をしながらも教えてくれる。テアは得意な魔法鉱物学を、リリーは魔法応用学を中心に。

ユジンはなぜかまだ1年生なのに、どんな問題でも難なく解いてしまう。僕が問題につまずいていたら隣に来て一緒に解いてくれた。クライスの学友たちも長期休暇の間は生徒会の仕事がないからと、部屋に来ることが増え、丁寧に教えてくれた。クライスは……早く寝ろってうるさい。

「キルナ、まだやっているのか?」
「今忙しいから話しかけないで」
「もう寝る時間だぞ」
「僕まだ起きてるから先に寝てて」
「おい」
「んもう、なに。僕は今忙しいんだってばぁ!!!」

寝不足なせいかイライラする。もう放っておいて欲しい。

「頑張るのはいいが、寝不足になるまでやっても身につかないから早く寝ろ」
「だって……」
「だってなんだ?」

(だっていっぱい勉強しないと、クライスの手伝いができないから)

彼の言葉を無視し、鉛筆をぎゅっと握りしめて、水魔法の呪文の続きを書いていく。一日100個呪文を覚える予定だからあと28個。長々しい呪文を覚えるために、まだまだ書かなくちゃ。

「キルナ……」


僕はしばらく前からクライスの様子がおかしいことに気づいていた。王宮に行った後くらいからかな? 心配性の症状が悪化してべったべたに僕にひっついて離れなかったり、時折不安げな目で僕を見ていたりする。そして古い書物を手に何かを必死で調べていたり。王宮で何かあったの? と聞いても教えてくれない。

きっと王宮の仕事で何か悩んでるんだろうと思う。6年生になってクライスは王子として国の仕事を任されることが増えてきた。大量の仕事を寮に持ち帰ってこなしている。

何かできることがあればと、彼の見ている資料に目を通してみたものの、難しいものばかりで僕には全然理解できなかった。これじゃあ手伝うこともできない。

(もっと勉強して賢くなって、クライスを支えられる人間にならなくちゃ。せっかく時間があるのだし、まずはこの休み中、死ぬほど勉強しよう)

そう心に決めて、日夜勉強に励んでいるのだけど。なぜかクライスが邪魔をする。


「……俺の言うことが聞けないのか? 昨日も徹夜したくせに今日も徹夜するつもりか?」

厳しい目で睨みつけられ、僕はついに彼を無視できなくなって手を止める。

「だってだって、二学期から授業が再開するって聞いたの。一学期ずっと休園で期末テストができなかった分、二学期の初めにテストをするのだって。いい点数を取りたいの!」

「ああ、そう思うことはいいことだが、無茶をして体を壊せば意味がない。頼むから寝てくれ。心配なんだ」
「しんぱい?」
「ああ」

そう言われてしまうと逆らえない。彼の心配する顔や不安気な顔を減らしたくて頑張ろうとしているのに、心配させてしまっては本末転倒だ。

「ん、わかった……。今日はもう寝る」

時計を見ると、もう午前2時を回っていた。気力だけで起きていた僕は、体力の限界だったらしい。ベッドにたどり着くまでもたず、彼の腕の中で眠りに落ちた。
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