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第8章

第382話 番外編:悪役令息のクリスマス①

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「それなんの曲だ?」
「うあっクライスいたの!?」

なんてこと! 

部屋で掃除をしながらクリスマスソングを歌っていたことがクライスにバレてしまった。用事で出かけてると思ったのに、いつ帰ってきたのだろ。

「うまいからもっと聞かせてくれ」
「嫌。恥ずかしい」
「頼むから」
「む、無理っ!!」

歌ってほしいと何度もせがまれたけど、お断りした。こればっかりは……。でもクライスがしょんぼりしていてなんだか悪いことをしたような気分になる。

「んじゃ、かわりにというか、その、クリスマスのお祝いしない?」
「くりすます?」
「ん、木にピカピカ光る飾り付けをして、大きなケーキとチキンを食べるの」
「いいなそれ! やろう! 今日やろう」


ということで、木の飾り付けは用意が大変なので次回ってことにして、ケーキとルルク鳥の丸焼きを用意した。香ばしい香りと甘辛いたれの香りが食欲をそそる。

「じゃあ~ん」
「すっっごおおおい。おっきなチキンと可愛い丸太みたいなケーキ!!!さっすがキルナサマ」
「早く食べたい! メガネ。もう食べていい?」
「なんでお前たちまで来てるんだ?」

テーブルに運ぶと、テアとリリーが叫んだ。その隣でキャラメル色の目で食い入るように料理を見つめるベルトには、お月見の時同様、今回もめちゃくちゃお世話になった。材料を頼んだら特別上等な材料をと張り切ってくれたのだ。

「すみません、俺様たち、いえ、私たちまで呼んでいただいて」
「まったくだ。二人きりのパーティーのはずだったのに……」
「たくさんの方が楽しいからいいじゃない。ベルトには材料を用意してもらったんだし」


ケーキを載せるためのお皿を配っていると、またベルが鳴った。

「キル兄様!! お招きありがとうございます。はいこれ、兄様に」
「あ、ユジンとクーマ、んぅ? 花束!綺麗~ありがと」
「オレがらも。メフメフ柄のポーチです。手作りでずが、よがったらつがっでくだざい」
「え? 手作り!? すっごい。かわいいぃ」

光沢のあるサラサラの白い布に、灰色のメフメフが散りばめられた手のひらサイズのポーチ。こんなのが作れるなんてクーマは天才だ。今度作り方を教えてもらおう。

「おいキルナ、一体何人呼んだんだ?」
「えと、あとはロイルたちが来るよ」
「あいつらまで……」
「クリスマスケーキ、特別大きいのを焼いたから大丈夫。足りるよ」
「わかった。まあいい。食べ終わったらさっさと帰らせて、その後に……」

あ、ロイルたちも来たみたい。なにやらぶつぶつ言っているクライスは放っておくとして。

クライスと僕と、テア、リリー、ベルト、ユジン(プラスポポ)、クーマ、ロイル、ギア、リオン、ノエル。みんな揃ったところで大きなケーキを切り分ける。喧嘩にならないように大きさを揃えて慎重に(これが難しいんだよね)。

(よし、いいかんじに切れた。これを崩さないようにお皿に載せて、と)

「はいどうぞ。食べて」
「「「いっただっきま~す」」」

大人数でゴージャスな花で飾り付けられたオシャレなテーブルを囲み、楽しいクリスマスパーティーが始まる。ポポもポポの実を咥えて嬉しげに飛び回っている。ふふっ、みんな楽しそうでよかった。



「ああ、おいしかったぁ」

テーブルいっぱいに並べた食べ物が、あっという間になくなってしまった。食後の紅茶を飲んでいると、クライスの学友たちが立ち上がり大きなアーチ型の窓へと向かう。どうしたのかな?

「キルナ様、今日はご馳走のお礼にこれを。私たちが用意しました」

もう夜だからと閉めていたカーテンを、リオンとノエルが一気に開くとそこには、

ーー青と金の光の海。

庭園の花や木が雪と星をモチーフした光の結晶で美しく飾られ、幻想的な景色が広がっていた。吸い込まれるように窓辺に駆け寄る。窓を開いてもらい、そこからバルコニーに出た。

「ふわぁああ。すごい……。なんてきれい……」

青と金の海。夜空には満天の星。この世にこんな神秘的な世界があるとは。
僕はいつまでもうっとりとその光景を眺めていた。


帰る間際にテアとリリーが円形の箱をくれた。もしやこれはプレゼント!?

「キルナサマ、はい、これあげる。リリーと選んだんだよ」

(大丈夫かな?)

申し訳ないことに受け取るのを一瞬躊躇ちゅうちょしてしまう。なんせ彼らにもらうプレゼントには今まであまり良い経験がない(でも気持ちは嬉しい)

箱を開けてみると、シックな黒にお星様のようにピカピカ輝く金のラインが入ったリボンが一巻入っていた。な~んだ普通のプレゼントだ。よかった、と胸を撫で下ろす。

それにしても長いリボンだな……。一体何に使うのかしら。女の子なら髪を結んだりするのだろうけど、僕はそこまで髪は長くないし。クーマみたいに小物作りをする時に使うのかな?

「綺麗なリボンだね。ありがと。これって少しずつ切って使えばいい?」

尋ねると、リリーが僕の耳元に手を当てて、こそこそと教えてくれた。

「これはね~ごにょごにょごにょ」
「ふえええ!? そ…そんな使い方……」
「じゃあ夜は王子と二人で仲良くね」
「キルナサマ、素敵な夜を~」

(どうしよう…とんでもないものをもらってしまった……)
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