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第8章
第423話 クライスSIDE ユジンの呪いと聖女① 呪いを解ける人物
リオンとノエルが屋上に続く階段の踊り場で倒れているユジンを発見した。こんな場所でうっかり足を滑らせたとは考えにくい。おそらく青フードを一人で捕まえようとして、逆にやられたのだろう。
知らせを聞きすぐさま駆けつけるや、光魔法で治癒を試みたがユジンの意識は戻らなかった。それに加え、数々の外傷。それも心配ではあったが一番の心配はその皮膚の異常な色だった。
皮膚が真っ黒に変色している。
この症状には見覚えがあった。
「呪いを受けている……?」
所々に階段から落ちてできたものだと思われる傷があり、それについては光魔法で簡単に癒すことができた。
問題は呪いの方だ。服を捲り体を調べるが、どこもかしこも黒い。しかも呪いにより酷い痛みを感じているのか、ユジンの顔は苦痛に歪んでいる。鎮痛魔法を施すが、あまり効果はないようだ。
「理事長のもとに運ぼう」
理事長の部屋で、彼を見せると驚いた様子で俺と同じように全身を確認する。
セントラが呪文を唱え手のひらをかざした瞬間、パンッと大きな音が鳴った。
「ダメですね。記憶を覗こうとしても、強い抵抗により弾かれてしまいます。まずはこの呪いを解かなくては。すぐに神殿に送り解呪してもらいましょう」
セントラが表情を変えないせいで一瞬気づくのが遅れたが、手のひらの皮膚が焼け爛れている。本人は頭を働かせるのに忙しいらしく気にしてないようだが、この傷を無視できる精神力には驚かされる。
「先に治療をさせてください」
そのドロドロに溶けた皮膚からユジンにかけられた呪いの大きさが感じ取れた。
このことはすぐにフェルライト公爵、王、王妃に伝えられ、彼の体は中央神殿に送られることになった。
しかし送り届けた数日後、再び俺たちを月見の塔に呼び集めた母様の話によると、ユジンはかなり深刻な状態で、神殿の力をもってしても、今の状態がこれ以上悪くならないように呪いの進行を止めることくらいしかできないという。
(くそっ、俺のせいだ。ユジンに危険な作戦を任せたばかりに)
こうなってしまった以上キルナにも伝えなくてはならない。
とはいえ、呪われている人間をキルナに近づけるわけにはいかない。闇の魔力は呪いの力と結びつきやすい。万が一彼がこの呪いを吸収してしまえば、今度はキルナが危ない。
キルナが呪いを引き受ければ、あるいはユジンは助かるかもしれない。しかし、そんなことをユジンは絶対に許しはしないだろう。
助けを求めて月を見るが、もちろん自分は母のようにそこから何かを読み取ることはできない。冷え冷えと青白い三日月は意味もなく輝くだけ。
そんな中、口を開いたのはフェルライト公爵だった。
「キルナには、黙っていてください」
「公爵……」
「私がなんとかする方法を探します。キルナはユジンのこの状況を知ったら必ず会おうとするでしょう。それはあの子にとって危険なことであり、ユジンの望むことではありません」
自分と同じ考えに至ったフェルライト公爵の顔を見つめ、俺は頷いた。キルナには言わないという方針は決まった。とにかく一刻も早くユジンを治す方法を見つけなくては。
呪いを解く方法……中央神殿で無理なら一体どこにいけばいいんだ? ……そういえば、呪いに関する研究を前に読んだことがある。呪いの研究の第一人者、“ネオン=スナイガー"が書いた本。彼の著書はあれしか図書館にはなかったが、著名な魔法学者だし王宮の禁書庫の中にもあるのでは?
「おい、クライス」
ぽすぽすと頭を叩かれ俯いていた顔を上げると、自分の母なのにどこか人間離れした神々しさを感じる母と目が合った。
「大丈夫だ。ユジン君のことは心配だが、幸い呪いの進行を止めることには成功しているからまだ時間はある。それにな、呪いについてだが。一人だけ解けるであろう人物に心当たりがある。彼女に関して月の守り人の口から語ることは禁じられているのだが、今はそれどころではないものな」
「「「呪いを解ける人物!?」」」
ああ、と頷く母様の声はどこか苦しげだ。
「誰なんですか、その人は?」
尋ねると、答えはすぐに返ってきた。
「その人の名は、『ビエラ』という」
「なっ!!! まさか!?」
その名にいち早く反応したのはフェルライト公爵だった。父もその名を知っているのか、驚きの表情で母様の言葉の続きを待っている。
「そうだ。お前の妻。ビエラ=フェルライト。キルナちゃんと、ユジンくんの母親だよ。彼女ならユジン君を治せるかもしれない」
「なぜ私の妻に……ビエラにそんなことができるのですか?」
まだ半信半疑な様子で尋ねる公爵に母様はいつもの如く、ズバっと答えた。
「彼女は聖女だからだよ」
「聖……女?」
「神殿から逃げ出したとんだ聖女だが、これを治せる人間がいるとしたら彼女だけだろう」
(聖女。そんなものは伝説上のものだと思っていたが……)
妖精だって実在するのだ。聖女くらいいたっておかしくないと思い直す。それに、そうだとすれば辻褄が合うことも。
なぜ母様の弟であり高貴な身分であるはずのルーファスがフェルライト家の執事として働いていたのか。
なぜ彼女がキルナの毒殺を企んだ際、優秀な使用人たちの力を妨害するほど強力な結界が張れたのか。
なぜユジンが本人すらよくわからないという白い魔法が使えるのか。
全ての点と点が線で繋がる。
しかし、問題なのは彼女が味方ではないということ。聖女だなんだといっても、彼女はキルナを殺そうとしたのだ。そして大事な大事なキルナをいつだって苦しめてきた。
彼女に対してもちろん思うところはあるが……ありすぎるが、ユジンは一刻を争う状況。今はごちゃごちゃ考えている時間はない。
俺は前を向き、宣言した。
「会いにいきます。キルナの母に」
キルナの母、ビエラは王立魔法刑務所にいるとわかっている。本来刑務所の中に入ることは容易ではないが、この状況なのだから父様も入室の許可を出してくれるだろうし、会うこと自体はそう難しくないだろう。
「気をつけなさい、クライス。月星を見る俺たちにも彼女の動きは全く読めない。聖女は妖精や魔物と同じく人の秩序の外にいる存在。何が起きるかわからんからな」
星空を見上げながらそう告げる母につられて、俺も空を見上げた。
いくつもの星が流れる空を。
知らせを聞きすぐさま駆けつけるや、光魔法で治癒を試みたがユジンの意識は戻らなかった。それに加え、数々の外傷。それも心配ではあったが一番の心配はその皮膚の異常な色だった。
皮膚が真っ黒に変色している。
この症状には見覚えがあった。
「呪いを受けている……?」
所々に階段から落ちてできたものだと思われる傷があり、それについては光魔法で簡単に癒すことができた。
問題は呪いの方だ。服を捲り体を調べるが、どこもかしこも黒い。しかも呪いにより酷い痛みを感じているのか、ユジンの顔は苦痛に歪んでいる。鎮痛魔法を施すが、あまり効果はないようだ。
「理事長のもとに運ぼう」
理事長の部屋で、彼を見せると驚いた様子で俺と同じように全身を確認する。
セントラが呪文を唱え手のひらをかざした瞬間、パンッと大きな音が鳴った。
「ダメですね。記憶を覗こうとしても、強い抵抗により弾かれてしまいます。まずはこの呪いを解かなくては。すぐに神殿に送り解呪してもらいましょう」
セントラが表情を変えないせいで一瞬気づくのが遅れたが、手のひらの皮膚が焼け爛れている。本人は頭を働かせるのに忙しいらしく気にしてないようだが、この傷を無視できる精神力には驚かされる。
「先に治療をさせてください」
そのドロドロに溶けた皮膚からユジンにかけられた呪いの大きさが感じ取れた。
このことはすぐにフェルライト公爵、王、王妃に伝えられ、彼の体は中央神殿に送られることになった。
しかし送り届けた数日後、再び俺たちを月見の塔に呼び集めた母様の話によると、ユジンはかなり深刻な状態で、神殿の力をもってしても、今の状態がこれ以上悪くならないように呪いの進行を止めることくらいしかできないという。
(くそっ、俺のせいだ。ユジンに危険な作戦を任せたばかりに)
こうなってしまった以上キルナにも伝えなくてはならない。
とはいえ、呪われている人間をキルナに近づけるわけにはいかない。闇の魔力は呪いの力と結びつきやすい。万が一彼がこの呪いを吸収してしまえば、今度はキルナが危ない。
キルナが呪いを引き受ければ、あるいはユジンは助かるかもしれない。しかし、そんなことをユジンは絶対に許しはしないだろう。
助けを求めて月を見るが、もちろん自分は母のようにそこから何かを読み取ることはできない。冷え冷えと青白い三日月は意味もなく輝くだけ。
そんな中、口を開いたのはフェルライト公爵だった。
「キルナには、黙っていてください」
「公爵……」
「私がなんとかする方法を探します。キルナはユジンのこの状況を知ったら必ず会おうとするでしょう。それはあの子にとって危険なことであり、ユジンの望むことではありません」
自分と同じ考えに至ったフェルライト公爵の顔を見つめ、俺は頷いた。キルナには言わないという方針は決まった。とにかく一刻も早くユジンを治す方法を見つけなくては。
呪いを解く方法……中央神殿で無理なら一体どこにいけばいいんだ? ……そういえば、呪いに関する研究を前に読んだことがある。呪いの研究の第一人者、“ネオン=スナイガー"が書いた本。彼の著書はあれしか図書館にはなかったが、著名な魔法学者だし王宮の禁書庫の中にもあるのでは?
「おい、クライス」
ぽすぽすと頭を叩かれ俯いていた顔を上げると、自分の母なのにどこか人間離れした神々しさを感じる母と目が合った。
「大丈夫だ。ユジン君のことは心配だが、幸い呪いの進行を止めることには成功しているからまだ時間はある。それにな、呪いについてだが。一人だけ解けるであろう人物に心当たりがある。彼女に関して月の守り人の口から語ることは禁じられているのだが、今はそれどころではないものな」
「「「呪いを解ける人物!?」」」
ああ、と頷く母様の声はどこか苦しげだ。
「誰なんですか、その人は?」
尋ねると、答えはすぐに返ってきた。
「その人の名は、『ビエラ』という」
「なっ!!! まさか!?」
その名にいち早く反応したのはフェルライト公爵だった。父もその名を知っているのか、驚きの表情で母様の言葉の続きを待っている。
「そうだ。お前の妻。ビエラ=フェルライト。キルナちゃんと、ユジンくんの母親だよ。彼女ならユジン君を治せるかもしれない」
「なぜ私の妻に……ビエラにそんなことができるのですか?」
まだ半信半疑な様子で尋ねる公爵に母様はいつもの如く、ズバっと答えた。
「彼女は聖女だからだよ」
「聖……女?」
「神殿から逃げ出したとんだ聖女だが、これを治せる人間がいるとしたら彼女だけだろう」
(聖女。そんなものは伝説上のものだと思っていたが……)
妖精だって実在するのだ。聖女くらいいたっておかしくないと思い直す。それに、そうだとすれば辻褄が合うことも。
なぜ母様の弟であり高貴な身分であるはずのルーファスがフェルライト家の執事として働いていたのか。
なぜ彼女がキルナの毒殺を企んだ際、優秀な使用人たちの力を妨害するほど強力な結界が張れたのか。
なぜユジンが本人すらよくわからないという白い魔法が使えるのか。
全ての点と点が線で繋がる。
しかし、問題なのは彼女が味方ではないということ。聖女だなんだといっても、彼女はキルナを殺そうとしたのだ。そして大事な大事なキルナをいつだって苦しめてきた。
彼女に対してもちろん思うところはあるが……ありすぎるが、ユジンは一刻を争う状況。今はごちゃごちゃ考えている時間はない。
俺は前を向き、宣言した。
「会いにいきます。キルナの母に」
キルナの母、ビエラは王立魔法刑務所にいるとわかっている。本来刑務所の中に入ることは容易ではないが、この状況なのだから父様も入室の許可を出してくれるだろうし、会うこと自体はそう難しくないだろう。
「気をつけなさい、クライス。月星を見る俺たちにも彼女の動きは全く読めない。聖女は妖精や魔物と同じく人の秩序の外にいる存在。何が起きるかわからんからな」
星空を見上げながらそう告げる母につられて、俺も空を見上げた。
いくつもの星が流れる空を。
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