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第8章
第424話 クライスSIDE ユジンの呪いと聖女② 王立魔法刑務所
今回月見の塔で聞いたことは、父様母様の許しを得て学友たちだけには話をした。ユジンにかけられた呪いの解呪はもちろん、青フードの追跡、キルナの護衛、黒魔法の調査などやるべきことはたくさんあり、信頼できる人間の協力が不可欠とのことで特別に話してもよいと許可が降りたのだ。
引き続き、ロイルとギアには残ってキルナの護衛を任せることになった。
リオンとノエルにはユジンの呪いを解く手伝いをしてもらうことになった。二人は自分たちがユジンの元を離れていたせいでこんなことになってしまったのだとひどく責任をかんじているらしく、危険な役目だと伝えても、どうか連れて行ってほしいと願い出てきた。
ユジンの呪いや聖女について公にできない今、彼らの助けは非常に助かる。
そんなこんなで俺たちは三人で浮遊魔法を使い、王都から遥か北東の空の上にぽつんと浮かんだ島まで来ていた。結界内に入ると、巨大なガラスでできた球体の建造物が姿を現した。どうやらこれが王立魔法刑務所らしい。
入り口への道は一本道。透明な長い階段が螺旋状に伸びていて、ここを通らなければ建物に入れないようになっているという。左右は手すりもない上に細くつるりとした素材の階段のため、油断すると落ちそうだ。
「透き通っているから下の雲が丸見えですねぇ」
「セキュリティ上この階段では魔法が使えませんので、落ちると死にます。クライス様、足元には十分お気をつけください。ノエルは……まあ落ちても構いませんが」
「リオンって時々僕に当たりきついよね?」
「さあ、そんなつもりはありません。もしそう見えるとしたら普段の行いのせいでしょう」
「喧嘩するな。さっさと行くぞ」
リオン、俺、ノエルの順に一列になって階段を上る。無事上り切ると、入り口横に設置してある見張り小屋から門番が出てきて入り口を開いてくれた。俺が今日ここへくるという話はすでに父様に伝えてもらっているからだろう、特に何か聞かれることもなくテキパキと手続きを終え中へと通される。
建物内に一歩入ると、階段にかけられていた魔力制限が解除され力が戻ってくるのを感じた。
「刑務所って雑然としてるイメージがありましたけど。すごくキレイなところなんですね。壁も床も真っ白で清潔で無機質で、まるで人なんて住んでいないみたいです」
「本当だな。門番と入り口にいた看守以外に人がいない」
「実際ここには最低限の人間しか出入りしないのです。部屋の鍵の開け閉め、食事の提供、掃除、囚人の動向にいたるまで、全て魔法で管理されています」
「この施設はリオンの母が管理しているそうだな」
「はい。魔術師団長である母メリダが魔法設備の管理を任されております。施設運営の実務を任されているのは上の兄ソロンとディーダです。今は二人とも魔獣討伐の手伝いに駆り出されていていないそうですが」
「それは会えなくて残念だな」というと、「絶対会いたくなかったのでちょうどよかったです」とリオンは微笑む。相変わらず腹黒い笑みに苦笑する。兄弟仲がよくないと以前聞いたことがあるが、本当だったらしい。
「それはそうと、歩いているだけでわかる。あちこちに強固な結界が張り巡らされているな」
中級の光魔法に匹敵するほどの強い結界だ。それをこれほどの数同時に維持するとなると、俺でも骨が折れる。
「ええ、仰るとおりです。母の手伝いで何度か視察に同行させてもらったことがあるのですが、魔法無効化の手錠、外部と完全に遮断する水檻など国の最先端の魔法技術が使われており、過去ここから逃げたものは一人もいないとのことです」
「そうか。こんな時でもなければゆっくりその優れた設備を見て回りたいところだが」
「今日はそれどころじゃないですもんね」
「ユジン様のためにも、なんとしてもキルナ様の母上の協力を得なければなりません。私たちが不甲斐なかったばかりに……」
「もうそのことは言わない約束だろう」
俺は俯くリオンを窘める。
「そうでした。すみません。これからのことを考えます」
「それにしてもキルナちゃんのお母様が聖女だなんてびっくりです! まぁ、そのお母様についてはお会いしたことがないから何とも言えませんけど。キルナちゃんとユジン君が聖女の子っていうのは、なんかしっくりくるような気もします。お二人とも人間とは思えないキラキラ度ですし、時々僕たちとは違う世界にいるような、どこか遠くを見ているような時がありますし」
「……そうだな」
それが聖女の血と関係するのかはわからないが、確かに彼らはどこか俺たちと違う世界を見ているように思う時はある。
「しかし、聖女とはいえビエラ様は5年前キルナ様の毒殺未遂で捕まっていて、その時の態度はあまりに残酷なものだったと聞きました。とても聖女がやることとは思えません。今回も協力していただけるかどうか……」
「その通りだ。むしろ彼女は敵だと思っていた方がいいかもしれない」
「囚人には魔法無効化の手錠を装着する義務がありますし、魔力を通さない水檻の中に収容されているので、面会中の安全はもちろん確保されているはずですが、白魔法というのは現代の魔法にないものです。ビエラ様の力が未知数である以上、用心するに越したことはありません」
「ああ、何度も言っているように……」
「はい、目は見ません」
「警戒は怠りません」
それでいい、と俺は頷いた。
キルナの母親がここにいる。
彼女はキルナに毒を飲ませ殺しかけた罪により、5年前に収監された。
ーーあなたはいらないの。
それが彼女が血を吐くキルナに向けて放った言葉だという。
どんな思いで彼女があんなことをしたのか、いくら考えてもわからない。
毒に焼けた喉を掻きむしり苦しむ我が子を冷たい目で見下ろす母親の心境など……想像したくもない。
「クライス様、手から血が出てますよぉ。大丈夫ですか?」
心配そうに手を見るノエルの言葉に、自分がいつも通りではないことに気づく。
「本当だな。リオン、ノエル、すまないが、万が一俺が暴走することがあったら止めてほしい」
「あの、いいにくいですが。今すでに魔力暴走気味だと思いますよ」
リオンに言われてよく見てみれば、体の周囲に猛烈な風が吹いていて、二人の衣服はボロボロになっていた。
「すまない、すぐに抑える」
「いえ、クライス様のお気持ちはわかりますので気になさらず」
「深呼吸して落ち着いてから行きましょう。クライス様!」
あの時のことを思い出すと、正直ビエラと冷静に話ができる気がしない。それでもーー
(ユジンのために聖女の力が必要な今は……抑えなくては)
長い通路を歩きながらセントラとの魔力制御の訓練を思い出し、なんとか魔力を鎮めると、案内のため先頭を歩いていたリオンの足が止まった。
引き続き、ロイルとギアには残ってキルナの護衛を任せることになった。
リオンとノエルにはユジンの呪いを解く手伝いをしてもらうことになった。二人は自分たちがユジンの元を離れていたせいでこんなことになってしまったのだとひどく責任をかんじているらしく、危険な役目だと伝えても、どうか連れて行ってほしいと願い出てきた。
ユジンの呪いや聖女について公にできない今、彼らの助けは非常に助かる。
そんなこんなで俺たちは三人で浮遊魔法を使い、王都から遥か北東の空の上にぽつんと浮かんだ島まで来ていた。結界内に入ると、巨大なガラスでできた球体の建造物が姿を現した。どうやらこれが王立魔法刑務所らしい。
入り口への道は一本道。透明な長い階段が螺旋状に伸びていて、ここを通らなければ建物に入れないようになっているという。左右は手すりもない上に細くつるりとした素材の階段のため、油断すると落ちそうだ。
「透き通っているから下の雲が丸見えですねぇ」
「セキュリティ上この階段では魔法が使えませんので、落ちると死にます。クライス様、足元には十分お気をつけください。ノエルは……まあ落ちても構いませんが」
「リオンって時々僕に当たりきついよね?」
「さあ、そんなつもりはありません。もしそう見えるとしたら普段の行いのせいでしょう」
「喧嘩するな。さっさと行くぞ」
リオン、俺、ノエルの順に一列になって階段を上る。無事上り切ると、入り口横に設置してある見張り小屋から門番が出てきて入り口を開いてくれた。俺が今日ここへくるという話はすでに父様に伝えてもらっているからだろう、特に何か聞かれることもなくテキパキと手続きを終え中へと通される。
建物内に一歩入ると、階段にかけられていた魔力制限が解除され力が戻ってくるのを感じた。
「刑務所って雑然としてるイメージがありましたけど。すごくキレイなところなんですね。壁も床も真っ白で清潔で無機質で、まるで人なんて住んでいないみたいです」
「本当だな。門番と入り口にいた看守以外に人がいない」
「実際ここには最低限の人間しか出入りしないのです。部屋の鍵の開け閉め、食事の提供、掃除、囚人の動向にいたるまで、全て魔法で管理されています」
「この施設はリオンの母が管理しているそうだな」
「はい。魔術師団長である母メリダが魔法設備の管理を任されております。施設運営の実務を任されているのは上の兄ソロンとディーダです。今は二人とも魔獣討伐の手伝いに駆り出されていていないそうですが」
「それは会えなくて残念だな」というと、「絶対会いたくなかったのでちょうどよかったです」とリオンは微笑む。相変わらず腹黒い笑みに苦笑する。兄弟仲がよくないと以前聞いたことがあるが、本当だったらしい。
「それはそうと、歩いているだけでわかる。あちこちに強固な結界が張り巡らされているな」
中級の光魔法に匹敵するほどの強い結界だ。それをこれほどの数同時に維持するとなると、俺でも骨が折れる。
「ええ、仰るとおりです。母の手伝いで何度か視察に同行させてもらったことがあるのですが、魔法無効化の手錠、外部と完全に遮断する水檻など国の最先端の魔法技術が使われており、過去ここから逃げたものは一人もいないとのことです」
「そうか。こんな時でもなければゆっくりその優れた設備を見て回りたいところだが」
「今日はそれどころじゃないですもんね」
「ユジン様のためにも、なんとしてもキルナ様の母上の協力を得なければなりません。私たちが不甲斐なかったばかりに……」
「もうそのことは言わない約束だろう」
俺は俯くリオンを窘める。
「そうでした。すみません。これからのことを考えます」
「それにしてもキルナちゃんのお母様が聖女だなんてびっくりです! まぁ、そのお母様についてはお会いしたことがないから何とも言えませんけど。キルナちゃんとユジン君が聖女の子っていうのは、なんかしっくりくるような気もします。お二人とも人間とは思えないキラキラ度ですし、時々僕たちとは違う世界にいるような、どこか遠くを見ているような時がありますし」
「……そうだな」
それが聖女の血と関係するのかはわからないが、確かに彼らはどこか俺たちと違う世界を見ているように思う時はある。
「しかし、聖女とはいえビエラ様は5年前キルナ様の毒殺未遂で捕まっていて、その時の態度はあまりに残酷なものだったと聞きました。とても聖女がやることとは思えません。今回も協力していただけるかどうか……」
「その通りだ。むしろ彼女は敵だと思っていた方がいいかもしれない」
「囚人には魔法無効化の手錠を装着する義務がありますし、魔力を通さない水檻の中に収容されているので、面会中の安全はもちろん確保されているはずですが、白魔法というのは現代の魔法にないものです。ビエラ様の力が未知数である以上、用心するに越したことはありません」
「ああ、何度も言っているように……」
「はい、目は見ません」
「警戒は怠りません」
それでいい、と俺は頷いた。
キルナの母親がここにいる。
彼女はキルナに毒を飲ませ殺しかけた罪により、5年前に収監された。
ーーあなたはいらないの。
それが彼女が血を吐くキルナに向けて放った言葉だという。
どんな思いで彼女があんなことをしたのか、いくら考えてもわからない。
毒に焼けた喉を掻きむしり苦しむ我が子を冷たい目で見下ろす母親の心境など……想像したくもない。
「クライス様、手から血が出てますよぉ。大丈夫ですか?」
心配そうに手を見るノエルの言葉に、自分がいつも通りではないことに気づく。
「本当だな。リオン、ノエル、すまないが、万が一俺が暴走することがあったら止めてほしい」
「あの、いいにくいですが。今すでに魔力暴走気味だと思いますよ」
リオンに言われてよく見てみれば、体の周囲に猛烈な風が吹いていて、二人の衣服はボロボロになっていた。
「すまない、すぐに抑える」
「いえ、クライス様のお気持ちはわかりますので気になさらず」
「深呼吸して落ち着いてから行きましょう。クライス様!」
あの時のことを思い出すと、正直ビエラと冷静に話ができる気がしない。それでもーー
(ユジンのために聖女の力が必要な今は……抑えなくては)
長い通路を歩きながらセントラとの魔力制御の訓練を思い出し、なんとか魔力を鎮めると、案内のため先頭を歩いていたリオンの足が止まった。
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