4 / 11
第4話
夢を見た。学園にいた頃の夢だ。僕は目の前にいるセリス=ラディエという男爵令息が気に入らなくて、彼に向かって怒鳴っている。レオンとの仲を自慢され我慢できなかったのだ。
『レオンは僕の婚約者なんだから、近寄るな!』
『だって、レオン王子が一緒にランチを食べようって誘ってくれたんです。ボクは歯牙ない男爵家の息子だから、王子の言葉に逆らうことなんて出来ませんし。もしかして、ルジア様は誘われなかったんですか?』
『僕は……』
誘われてない。
何も言えない僕に、きゅるんとしたピンクの瞳をこちらに向け、セリスは続ける。
『ふ~ん、誘われてないんだぁ。婚約者なのに可哀想。それでボクに辛く当たってくるんですね。そうだ、昨日王子が手ずから食べさせてくれたシュークリーム、おいしかったなぁ。クリームが口についたのを、王子ったら、ペロって舌で舐め取ったんですよ。いつも王子はあんななんですか?』
レオンが手ずから食べさせた? クリームがついたところを舐めた?
(どうしてセリスばっかり彼に可愛がられるの? 僕は婚約者なのに、手を握ったことすらない。やっぱりレオンはセリスのことが好きなんだ)
そう思った瞬間、頭が燃えるように熱くなった。
抑えきれない魔力が大きな炎の渦となり彼を襲う。まずい、止められない!
『危ない! セリス逃げて!』
炎で周囲の木材が焼け、煙で前が見えない。
(まさか、殺してしまった?)
風魔法で煙を払い、恐る恐る彼がいたところを見てみると、そこにはレオンに庇われたセリスの姿があった。レオンによって強力な結界が張られ二人は無事だったらしい。
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、彼の腕の中でうっとりするセリスを見て心が悲しみに支配される。
誰が悪者で、誰がお姫様かは一目瞭然だった。
『……』
レオンは何か言いたそうに、でも何も言わずセリスを横抱きにし、呪文を唱えて消えた。腕の隙間からちらりと見えたのは勝ち誇ったような表情。
残された僕を皆が遠巻きに見ている。軽蔑、嫌悪の色を帯びた目。僕はその目が恐ろしくて、殊更大きな声を出した。
『僕を見るな』
地面に尻もちをついた僕に手を貸すものはいない。魔力を放出しすぎてふらつく身体を抱きしめ一人自室に向かって歩いていく。転移魔法を使う魔力が残っていないから、歩いていくしかない。
よく見ると手にも足にも火傷の痕がたくさんある。顔もおそらく煤だらけ。
みじめでみっともない人間。
こんな人間はひとりぼっちで歩いていくしかない。誰も助けてなんてくれない。
──僕は一人だ。
そこで、夢から覚めた。
頭が痛い。涙がとめどなく流れる。でも大丈夫。
今は一人じゃない。
ここには猫がいる。そして大好きなコーヒーの香りがする。
『レオンは僕の婚約者なんだから、近寄るな!』
『だって、レオン王子が一緒にランチを食べようって誘ってくれたんです。ボクは歯牙ない男爵家の息子だから、王子の言葉に逆らうことなんて出来ませんし。もしかして、ルジア様は誘われなかったんですか?』
『僕は……』
誘われてない。
何も言えない僕に、きゅるんとしたピンクの瞳をこちらに向け、セリスは続ける。
『ふ~ん、誘われてないんだぁ。婚約者なのに可哀想。それでボクに辛く当たってくるんですね。そうだ、昨日王子が手ずから食べさせてくれたシュークリーム、おいしかったなぁ。クリームが口についたのを、王子ったら、ペロって舌で舐め取ったんですよ。いつも王子はあんななんですか?』
レオンが手ずから食べさせた? クリームがついたところを舐めた?
(どうしてセリスばっかり彼に可愛がられるの? 僕は婚約者なのに、手を握ったことすらない。やっぱりレオンはセリスのことが好きなんだ)
そう思った瞬間、頭が燃えるように熱くなった。
抑えきれない魔力が大きな炎の渦となり彼を襲う。まずい、止められない!
『危ない! セリス逃げて!』
炎で周囲の木材が焼け、煙で前が見えない。
(まさか、殺してしまった?)
風魔法で煙を払い、恐る恐る彼がいたところを見てみると、そこにはレオンに庇われたセリスの姿があった。レオンによって強力な結界が張られ二人は無事だったらしい。
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、彼の腕の中でうっとりするセリスを見て心が悲しみに支配される。
誰が悪者で、誰がお姫様かは一目瞭然だった。
『……』
レオンは何か言いたそうに、でも何も言わずセリスを横抱きにし、呪文を唱えて消えた。腕の隙間からちらりと見えたのは勝ち誇ったような表情。
残された僕を皆が遠巻きに見ている。軽蔑、嫌悪の色を帯びた目。僕はその目が恐ろしくて、殊更大きな声を出した。
『僕を見るな』
地面に尻もちをついた僕に手を貸すものはいない。魔力を放出しすぎてふらつく身体を抱きしめ一人自室に向かって歩いていく。転移魔法を使う魔力が残っていないから、歩いていくしかない。
よく見ると手にも足にも火傷の痕がたくさんある。顔もおそらく煤だらけ。
みじめでみっともない人間。
こんな人間はひとりぼっちで歩いていくしかない。誰も助けてなんてくれない。
──僕は一人だ。
そこで、夢から覚めた。
頭が痛い。涙がとめどなく流れる。でも大丈夫。
今は一人じゃない。
ここには猫がいる。そして大好きなコーヒーの香りがする。
あなたにおすすめの小説
令嬢に転生したと思ったけどちょっと違った
しそみょうが
BL
前世男子大学生だったが今世では公爵令嬢に転生したアシュリー8歳は、王城の廊下で4歳年下の第2王子イーライに一目惚れされて婚約者になる。なんやかんやで両想いだった2人だが、イーライの留学中にアシュリーに成長期が訪れ立派な青年に成長してしまう。アシュリーが転生したのは女性ではなくカントボーイだったのだ。泣く泣く婚約者を辞するアシュリーは名前を変えて王城の近衛騎士となる。婚約者にフラれて隣国でグレたと噂の殿下が5年ぶりに帰国してーー?
という、婚約者大好き年下王子☓元令嬢のカントボーイ騎士のお話です。前半3話目までは子ども時代で、成長した後半にR18がちょこっとあります♡
短編コメディです
記憶喪失になったら弟の恋人になった
天霧 ロウ
BL
ギウリは種違いの弟であるトラドのことが性的に好きだ。そして酔ったフリの勢いでトラドにキスをしてしまった。とっさにごまかしたものの気まずい雰囲気になり、それ以来、ギウリはトラドを避けるような生活をしていた。
そんなある日、酒を飲んだ帰りに路地裏で老婆から「忘れたい記憶を消せる薬を売るよ」と言われる。半信半疑で買ったギウリは家に帰るとその薬を飲み干し意識を失った。
そして目覚めたときには自分の名前以外なにも覚えていなかった。
見覚えのない場所に戸惑っていれば、トラドが訪れた末に「俺たちは兄弟だけど、恋人なの忘れたのか?」と寂しそうに告げてきたのだった。
トラド×ギウリ
(ファンタジー/弟×兄/魔物×半魔/ブラコン×鈍感/両片思い/溺愛/人外/記憶喪失/カントボーイ/ハッピーエンド/お人好し受/甘々/腹黒攻/美形×地味)
オメガなのにムキムキに成長したんだが?
未知 道
BL
オメガという存在は、庇護欲が湧く容姿に成長する。
なのに俺は背が高くてムキムキに育ってしまい、周囲のアルファから『間違っても手を出したくない』と言われたこともある。
お見合いパーティーにも行ったが、あまりに容姿重視なアルファ達に「ざっけんじゃねー!! ヤルことばかりのくそアルファ共がぁああーーー!!」とキレて帰り、幼なじみの和紗に愚痴を聞いてもらう始末。
発情期が近いからと、帰りに寄った病院で判明した事実に、衝撃と怒りが込み上げて――。
※攻めがけっこうなクズです。でも本人はそれに気が付いていないし、むしろ正当なことだと思っています。
同意なく薬を服用させる描写がありますので、不快になる方はブラウザバックをお願いします。
政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話
藍
BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。
ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。
失恋したと思ってたのになぜか失恋相手にプロポーズされた
胡桃めめこ
BL
俺が片思いしていた幼なじみ、セオドアが結婚するらしい。
失恋には新しい恋で解決!有休をとってハッテン場に行ったエレンは、隣に座ったランスロットに酒を飲みながら事情を全て話していた。すると、エレンの片思い相手であり、失恋相手でもあるセオドアがやってきて……?
「俺たち付き合ってたないだろ」
「……本気で言ってるのか?」
不器用すぎてアプローチしても気づかれなかった攻め×叶わない恋を諦めようと他の男抱かれようとした受け
※受けが酔っ払ってるシーンではひらがな表記や子供のような発言をします
くず勇者にざまあ。虐げられた聖者に一目ぼれした魔王の側近はやり直す
竜鳴躍
BL
私の名前はカルディ=カフィ。魔王ルシフェル様の側近。漆黒の死神と恐れられた悪魔である。ある日、魔王討伐に来た人間の勇者パーティーに全滅させられるが、私はその時恋に落ちてしまった。
ぐるぐる眼鏡で地味な灰色のローブを着ていたけれど、とっても素敵な聖気に満ち溢れていた勇者の下僕…ではない…回復役の聖者に。魔族の私にとってどんな身づくろいをしていようが、本当のすばらしさは一目瞭然なのだ。
やり直したい。
魔王コレクションの宝玉が起動し、私は5歳に戻っていた。
よっしゃあ!待っててね、ダーリン!
不憫な聖者(攻)を前世で魔王の側近として殺された受が癒して、時間逆行でラブラブになる話。
☆8話から主人公とヒーローが合流します。
☆クズ勇者にざまあします。
改題しました。
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
魔王様は俺のクラスメートでした
棚から現ナマ
BL
前世を憶えている主人公ミルは、チートもなくラノベのような世界で、ごく平凡に庭師見習いとして働いて暮らしていた。 ある日、なぜか魔王様に踏まれてしまったミルは、魔王様が前世のクラスメートだったことに気が付き、おもわず名前を呼んでしまう。 呼ばれた魔王様はミルを自分の王宮に連れ込んで……。 逃げたいミルと、どうしても手放せない魔王様の話し。もちろんハッピーエンド。