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白衣の天使編
内緒話はサブローザ 1
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その夜、雛子と鷹峯がやってきたのはいつもの大衆居酒屋『呑んだくれ』。
ではない。
仕事が終わらないからと先に夕飯を済ませておくよう言われ、二十一時を回り鷹峯の仕事が終わってから連れて行かれたのは都内の一等地にあるオーセンティックバー『サブローザ』である。
「これはこれは鷹峯先生、お待ちしておりました」
グレイヘアの穏やかそうなマスターが、入店した二人を和やかに迎え入れた。平日ど真ん中のせいか、狭い店内に他の客はいなかった。
「お連れ様も、ようこそおいで下さいました」
「あ、は、はじめましてっ」
緊張して生真面目に挨拶をすると、鷹峯が小さく吹き出した。
(悪かったですね、こういうお店に慣れてなくてっ!)
笑いを堪えている鷹峯に内心悪態をつく。話を聞いてくれると言うから考えなしに着いてきた自分も自分だが、こんな分不相応な店だなんて聞いていない。
「秘密の話は『薔薇の下』で。ピッタリでしょう?」
「バ、バラの下??」
天井を見上げると、確かに一面赤い薔薇の絵柄が施されている。
「それにあちらと違って同僚は滅多に来ない穴場です」
「はぁ……」
あちらとはもちろん『呑んだくれ』のことである。薔薇の下だと何がピッタリなのか雛子には分からないが、確かに職場の人間がいないに越したことはない。
秘密、と人差し指を一本、形の良い唇に添えながら鷹峯はカウンター席に座った。
雛子も鷹峯が引いてくれた椅子にちょこんと腰掛ける。
「何にされますか?」
マスターが訊ねる。
「あ、えっと……」
店内にメニューのようなものは見当たらず、雛子は言い淀む。カクテルなど洒落たものはせいぜい居酒屋の定番メニューにあるものくらいしか思い付かないが、本格的なバーで頼むのは如何なものかと少々気が引けた。
「マティーニ……と言いたいところですが、生憎今日はオンコールなのでノンアルのものを。彼女にも飲みやすいものをお願いします」
「かしこまりました」
見兼ねた鷹峯が、雛子の分までオーダーしてくれる。こんなアバウトな注文で良いのかと不安げな顔をした雛子に、大丈夫ですよと彼は笑いながら携帯用のアルコール消毒液で両手を擦り合わせた。
これは海で一泊した時に知った事だが、飲食の前に手を消毒するのは、潔癖症である鷹峯のルーティンなのだ。手の消毒が終わると今度は除菌シートでテーブルを拭き出す。
失礼ではないかと内心焦る雛子だが、馴染み客のためかマスターは特に気にしている様子もなくほっとする。
ではない。
仕事が終わらないからと先に夕飯を済ませておくよう言われ、二十一時を回り鷹峯の仕事が終わってから連れて行かれたのは都内の一等地にあるオーセンティックバー『サブローザ』である。
「これはこれは鷹峯先生、お待ちしておりました」
グレイヘアの穏やかそうなマスターが、入店した二人を和やかに迎え入れた。平日ど真ん中のせいか、狭い店内に他の客はいなかった。
「お連れ様も、ようこそおいで下さいました」
「あ、は、はじめましてっ」
緊張して生真面目に挨拶をすると、鷹峯が小さく吹き出した。
(悪かったですね、こういうお店に慣れてなくてっ!)
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「秘密の話は『薔薇の下』で。ピッタリでしょう?」
「バ、バラの下??」
天井を見上げると、確かに一面赤い薔薇の絵柄が施されている。
「それにあちらと違って同僚は滅多に来ない穴場です」
「はぁ……」
あちらとはもちろん『呑んだくれ』のことである。薔薇の下だと何がピッタリなのか雛子には分からないが、確かに職場の人間がいないに越したことはない。
秘密、と人差し指を一本、形の良い唇に添えながら鷹峯はカウンター席に座った。
雛子も鷹峯が引いてくれた椅子にちょこんと腰掛ける。
「何にされますか?」
マスターが訊ねる。
「あ、えっと……」
店内にメニューのようなものは見当たらず、雛子は言い淀む。カクテルなど洒落たものはせいぜい居酒屋の定番メニューにあるものくらいしか思い付かないが、本格的なバーで頼むのは如何なものかと少々気が引けた。
「マティーニ……と言いたいところですが、生憎今日はオンコールなのでノンアルのものを。彼女にも飲みやすいものをお願いします」
「かしこまりました」
見兼ねた鷹峯が、雛子の分までオーダーしてくれる。こんなアバウトな注文で良いのかと不安げな顔をした雛子に、大丈夫ですよと彼は笑いながら携帯用のアルコール消毒液で両手を擦り合わせた。
これは海で一泊した時に知った事だが、飲食の前に手を消毒するのは、潔癖症である鷹峯のルーティンなのだ。手の消毒が終わると今度は除菌シートでテーブルを拭き出す。
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