白衣とブラックチョコレート

宇佐田琴美

文字の大きさ
80 / 156
白衣の天使編

朝帰り

しおりを挟む
 何故あんな話を信じてしまったのだろう。


(やっぱりどうかしてたんだ……真理亜さんが患者さんに酷い事なんて、する訳ないのに……)


 急遽真理亜にシフト交代してもらった翌日、出勤した雛子は朝一で大沢に怒鳴られた。

 本日はフリー業務のため、情報収集をそこまでする必要が無いのが不幸中の幸いだ。

「あんたねぇっ、飲み過ぎて先輩に勤務変わらせるなんて前代未聞よ!? 社会人なんだから節度ってものがあるでしょう!!」

「は、はいっ……申し訳ありませんっ……」

 可哀想なくらい撒くし立てられ縮こまっている雛子だが、今回は自業自得とばかりに皆見て見ぬふりをしている。

 とはいえ真相を知っている鷹峯は一人、複雑な表情で雛子を見つめるのだった。


 雛子が大沢から解放されて暫くの後、恭平と真理亜が出勤してくる。


「あっ……真理亜さん、今回は本当に本当に本当ーーーーに申し訳ありませんでしたっ」


 しこたま怒られていた事など知らない二人は、勤務前だと言うのに既にボロボロになった雛子にぎょっとする。恭平は何も言わず、さっさと奥のパソコンに向かっていった。

「いや、あの、雛子ちゃん……?」

 一方の真理亜は、雛子が謝ってきたことに面食らう。

 てっきり雛子にも真実が伝わっていると思っていたのだ。

「雛子ちゃん、その事は」

「いえ! もう本当に、こんな事にはならないよう気を付けます! すみませんでしたっ!」

 有無を言わさない雛子の謝罪で、真理亜も本当の事を告げるタイミングを見失う。

「……もう良いだろ、次から気を付けろよ」

 一度はパソコンの前に座った恭平が、わざわざ戻ってきてこの話を終わらせた。「余計なことは言うな」まるでそう言っているようだった。それだけ告げると、彼は面倒臭そうにまた戻っていく。

「はい、すみませ……って、あ、あれ……あれ? 桜井さん、なんか……」

「? どうしたの?」

 恭平が去っていった瞬間、何やら鼻をすんすんとさせながら、雛子は訝しげな顔で首を捻った。その不思議な様子に、真理亜もまた疑問符を浮かべる。

「いや、あの……桜井さん、いつもと違う……甘い、匂いが……」

「やだ……あなた変なとこ鋭いのね……」

 真理亜は驚いたように目を瞬かせた。

「恭平なら、昨日はうちに泊まっていったわよ。シャワー貸したから、私の使ってるソープと同じ香りでしょう?」

 真理亜が屈んで雛子の顔に近付くと、雛子はまるで小動物のように鼻をひくつかせてから、「あ」と声を上げた。

「本当だ、確かに真理亜さんと同じシャンプーの……って、え、と、とととま、泊まっ」

 いきなり耳まで真っ赤にして壊れた人形のごとく吃る雛子に、真理亜は思わず吹き出しそうになる。

「そ、そ、それって」

「……野暮なこと聞くもんじゃないわよ」

「っ!?!?」















 至っていつも通り何かを話し込んでいる雛子と真理亜に、鷹峯もまた首を傾げた。

「……もしかしてちょっとお灸据えただけですか?」

 優しいですね、と鷹峯は隣にいる恭平に耳打ちする。

「でもまぁ、私は精神科領域に明るくないので名言は避けますが……彼女、このまま放っておくってわけにはいかないでしょう?」

 どうするのかと訊ねる鷹峯に、恭平は電子カルテをスクロールしながら答えた。

「さぁ……あいつなら自分でどうにかするだろ」
 
「どうにかって……相変わらず甘いですねぇ……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

国宝級イケメンとのキスは、ドルチェみたいに私をとろけさせます♡ 〈Dulcisシリーズ〉

はなたろう
恋愛
人気アイドルとの秘密の恋愛♡コウキは俳優やモデルとしても活躍するアイドル。クールで優しいけど、ベッドでは少し意地悪でやきもちやき。彼女の美咲を溺愛し、他の男に取られないかと不安になることも。出会いから交際を経て、甘いキスで溶ける日々の物語。 ★みなさまの心にいる、推しを思いながら読んでください ◆出会い編あらすじ 毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く美咲。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドル、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーだとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた。 ◆登場人物 佐倉 美咲(25) 公園の管理運営企業に勤める。植物園のスタッフから本社の企画営業部へ異動 天見 光季(27) 人気アイドルグループ、dulcis(ドゥルキス)のメンバー。俳優業で活躍中、自然の写真を撮るのが趣味 お読みいただきありがとうございます! ★番外編はこちらに集約してます。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/693947517 ★最年少、甘えん坊ケイタとバツイチ×アラサーの恋愛はじめました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/408954279

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

処理中です...