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出会いと別れ編
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突如、背後から音もなく恭平が現れ、雛子は悲鳴を上げる。
「さ、ささ、桜井さんっ……」
バクバクと音を立てる胸元に片手を当てながら、雛子は目を瞬かせる。
「恭平~!」
対する田中は、先程と打って変わって乙女の顔になっていた。
「来てくれたのね! あたしはあんた無しじゃダメな女になったのよ!」
「田中さん、俺もサブで付きますよ」
恭平は真顔で田中の両手を取ると、力を込めて握りしめ、顔を近づけ瞳を覗き込む。
「田中さん、顔が赤い……。はっ……もしや熱が? いけない、すぐに熱を測りましょう」
至極真面目な顔で力強くそう宣う恭平。そして無言のまま顎で次の台詞促される。
「……えっ、私!? は、はいっ! お熱を測りましょう!」
恭平のフリに、雛子は咄嗟に体温計を両手で差し出す。
「何差し出してんだい! あんたが測るんだよ!」
「ははあっ! ではわたくしめがお熱を測らせていただきます!」
「分かりゃあ良いんだよ、分かりゃあ」
何だかよく分からないが田中はご満悦である。ひとまず検温が済めば仕事の大半は終わったようなものだ。
「では、我々はまたあとで伺いますね」
スライド式の病室のドアが閉まったのを確認し、雛子はようやく顔の力を緩めて深い息を吐いた。
「……俺、親より年上の熟女は射程範囲外なんだよな」
「誰も聞いてませんよそんなこと! っていうか射程範囲って何ですかそれっ! 」
全くもってどこから突っ込めば良いのやら分からない。恭平は分かりにくいながらもややげんなりとした顔をしているが、こっちの方こそ疲れたと雛子は叫びたい。
「まぁ田中さん自身は悪い人じゃないし、話し相手でもしてあげて」
あれでも入院したことに落ち込んでて不安なんだよ、あの人。と口元だけで僅かに笑う恭平。
「にしても、毎回あんな寸劇を……」
雛子が不満を口にしようとしたその時。
ジリリリリリ─────。
不意にPHSが耳障りな音を立てる。ナースコールの柔らかな音楽と違い、けたたましいベル音はステーション内にあるセントラルモニターのアラームと連動している。
「っ……!」
PHSに表示された部屋番号を見た瞬間、恭平の表情が変わった。同じように自分の持つPHSを見ていた雛子は、恭平の変化に気づかない。
「小林さんのモニターですね。私ちょっと様子見て……って桜井さん!?」
「救急カート持ってきて! あとリーダーに伝えてドクターコール!」
「へっ!? は、はいっ!」
恭平は既に小林の元へ走りながら、振り向きざまに雛子へと叫ぶ。
混乱しながらも、雛子は言われた通りリーダーに伝え救急カートを押して走る。
「桜井さん! 救急カート持ってきました!」
雛子が病室に到着すると、窓際のベッドの上で患者に馬乗りになった恭平が心肺蘇生を行っていた。同室の患者達が、不安げな表情で遠巻きにそれを見守っている。
「アンビュー酸素に繋いで!!」
ありったけの力で胸骨圧迫をしながら恭平が叫ぶ。
雛子のすぐ後ろを走ってきた別の看護師が、救急カートから必要なものを取り出し恭平の指示に従う。
狼狽える雛子を押し退けて何人もの看護師が駆け付け、医師の到着に備えてテキパキと環境を整えていく。
「邪魔です! 突っ立ってるだけなら出てってください!」
そう背後で怒鳴られたのと、身体を勢いよく突き飛ばされたのはほぼ同時だった。
「さ、ささ、桜井さんっ……」
バクバクと音を立てる胸元に片手を当てながら、雛子は目を瞬かせる。
「恭平~!」
対する田中は、先程と打って変わって乙女の顔になっていた。
「来てくれたのね! あたしはあんた無しじゃダメな女になったのよ!」
「田中さん、俺もサブで付きますよ」
恭平は真顔で田中の両手を取ると、力を込めて握りしめ、顔を近づけ瞳を覗き込む。
「田中さん、顔が赤い……。はっ……もしや熱が? いけない、すぐに熱を測りましょう」
至極真面目な顔で力強くそう宣う恭平。そして無言のまま顎で次の台詞促される。
「……えっ、私!? は、はいっ! お熱を測りましょう!」
恭平のフリに、雛子は咄嗟に体温計を両手で差し出す。
「何差し出してんだい! あんたが測るんだよ!」
「ははあっ! ではわたくしめがお熱を測らせていただきます!」
「分かりゃあ良いんだよ、分かりゃあ」
何だかよく分からないが田中はご満悦である。ひとまず検温が済めば仕事の大半は終わったようなものだ。
「では、我々はまたあとで伺いますね」
スライド式の病室のドアが閉まったのを確認し、雛子はようやく顔の力を緩めて深い息を吐いた。
「……俺、親より年上の熟女は射程範囲外なんだよな」
「誰も聞いてませんよそんなこと! っていうか射程範囲って何ですかそれっ! 」
全くもってどこから突っ込めば良いのやら分からない。恭平は分かりにくいながらもややげんなりとした顔をしているが、こっちの方こそ疲れたと雛子は叫びたい。
「まぁ田中さん自身は悪い人じゃないし、話し相手でもしてあげて」
あれでも入院したことに落ち込んでて不安なんだよ、あの人。と口元だけで僅かに笑う恭平。
「にしても、毎回あんな寸劇を……」
雛子が不満を口にしようとしたその時。
ジリリリリリ─────。
不意にPHSが耳障りな音を立てる。ナースコールの柔らかな音楽と違い、けたたましいベル音はステーション内にあるセントラルモニターのアラームと連動している。
「っ……!」
PHSに表示された部屋番号を見た瞬間、恭平の表情が変わった。同じように自分の持つPHSを見ていた雛子は、恭平の変化に気づかない。
「小林さんのモニターですね。私ちょっと様子見て……って桜井さん!?」
「救急カート持ってきて! あとリーダーに伝えてドクターコール!」
「へっ!? は、はいっ!」
恭平は既に小林の元へ走りながら、振り向きざまに雛子へと叫ぶ。
混乱しながらも、雛子は言われた通りリーダーに伝え救急カートを押して走る。
「桜井さん! 救急カート持ってきました!」
雛子が病室に到着すると、窓際のベッドの上で患者に馬乗りになった恭平が心肺蘇生を行っていた。同室の患者達が、不安げな表情で遠巻きにそれを見守っている。
「アンビュー酸素に繋いで!!」
ありったけの力で胸骨圧迫をしながら恭平が叫ぶ。
雛子のすぐ後ろを走ってきた別の看護師が、救急カートから必要なものを取り出し恭平の指示に従う。
狼狽える雛子を押し退けて何人もの看護師が駆け付け、医師の到着に備えてテキパキと環境を整えていく。
「邪魔です! 突っ立ってるだけなら出てってください!」
そう背後で怒鳴られたのと、身体を勢いよく突き飛ばされたのはほぼ同時だった。
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