【完結】魔導士会には入らない

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第1章 黒衣の竜騎士

1 魔力あたり

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ーーー愚か者め!!!


僕の頭の中に、とても怖い声が聞こえた。

それは兄上と弟と一緒に、新しく入った家庭教師のシバ先生から、魔力操作を教わっていた時だった。

僕は魔力がどこにあるかがわからずに、身体の感覚を必死に鋭く研ぎ澄ませていた。だから身体の中の、おかしなところに気がついたんだ。

僕の心臓を包むように、薄っすらともやがかかっていたことに。

僕はそのもやをゆっくりとほぐすイメージをして、もやが取れたなと思った瞬間に、体がふわりと浮かんだ気がした。そして雷鳴のような、誰かの怒った声が頭の中に響いた。


ーーー愚かなる人の子よ!神の戒めを解いたその報いを受けよ!!


それと同時に、一瞬で物凄い量の記憶が蘇ってきた。
それは誰かの人生であったり、別の世界の知識であったり、他の生き物の死の経験であったりした。

「セオにいさま!」
「セオ!?」
「セオ様!!いけない、ワーズレーさん、早く、お医者様を!」
「はっ、はい!」

まだ幼い弟や兄や家庭教師が、悲鳴をあげて駆け寄ってくるのを眺めながら、僕は長い長い夢の中へと旅立った。




なだれてきた記憶は、僕がエストバール王国のリズレイ侯爵家に次男セオとして生まれるよりも、かなり前のことだった。

僕が人として生きたのは、地球という名の星の中にある、日本という国だった。
しかしその前も、さらにその前にも、僕は何かの生き物として生きて、そして死んでいた。

だから理解できたのだ。
魂が何度も巡っていることを。
前世で聞いた、輪廻転生という宗教観を思い出す。人でなかった時の記憶は、ほとんど定かではなかったけれど。

胸のもやは、魂に刻まれた記憶を封じ込めるための鎖だったのだ。

俺は乱雑に蘇る記憶の中で、少しずつ前世の人格と同化していった。




顔に濡れた布が触れる感覚で意識が浮上した。

払いのけようとした指先が鈍磨に動くが、それより先に誰かの腕に自分の姿勢を変えらた。
薄っすらと目を開くと、視界に捉えたのは見覚えのある使用人の顔だった。

「セオ坊っちゃま!?ああっ、良かった!お目覚めになりました!旦那様!セオ坊っちゃまが!誰か!」

使用人は俺を抱きとめたまま、寝室から外へ向かって声をかけ、外からバタバタと数人が集まる足音が聞こえた。
忙しいだろうに、いの一番に駆けつけて来たのは、侯爵である父オルザであった。

「セオ、大丈夫か?どこか痛いところはないか?」
「大丈夫です、ちちうぇ…」

乾いた喉で答えれば、使用人の腕から引き取られるまま父に抱き寄せられて、手ずから水を飲ませてもらった。
その後も兄や弟が次々と訪れ、涙を流しては俺の目覚めを喜んでくれた。

「セオ、本当に良かった。もう起きていられるのか?辛くはないか?」
「セオにいさま、ぼく、ずっといいこにしていました。だから、セオにいさま、げんきになってくれますか?」

いつも兄弟でそっくりだと言われる、金髪に翠の瞳の美少年二人が顔を覗き込んでくる。

「ありがとうございます、兄上、フェルズも…」

そう微笑めば、自分の腹がくぅ、と微かに音を立てた。

「すみません、少し、お腹が空きました…」

少しはにかんでそう打ち明けると、ベッドを取り囲んだ皆の顔が一気に緩んだ。父が使用人に食事だと言いつけ、使用人も明るく返事をして、バタバタと忙しなく動き回り始めた。




家族や使用人たちの熱心な看病のおかげで、俺は衰弱した身体を何とか回復させることができた。

医者に聞けば、俺が寝込んでいたのは一週間ほどだと言う。
しかし点滴の技術も碌にないこの国では、昏睡状態になってしまえば、果実の汁を飲ませることくらいしかできない。
あと数日で目覚めなければ、いつ死ぬか、という状態だったらしい。

悠長に過去の記憶にどっぷり浸かっていただけなのに、屋敷中を騒がせてしまって申し訳ない気持ちになった。

しかし衰弱は治ってきていたのだが、今度は前世でも経験のない、奇妙な熱と違和感が徐々に強くなってきていた。

「セオ坊っちゃま、まだ魔法書はお読みになってはなりません。旦那様からしばらく魔法の訓練は控えるようにと仰せつかっております」

執事のワーズレーが弱り切ったように告げる。
俺が回復したのは喜ばしいが、死にかけたきっかけである魔法の訓練には触らせたくないのだと、ワーズレーは心配でたまらない様子だった。

更に困らせてしまうのは申し訳なかったが、俺は自分の肩を抱き寄せて尚も言い募った。

「ワーズレー、でも僕、何かが身体の中を渦巻いているみたいで、とっても怖いんだ。お願い、シバ先生をお呼びして?」
「しかし…」
「お願い…また倒れたりして、皆を心配させたくないんだ…」

俺はなるべく話し方や態度を変えずに、セオの実年齢である十二歳の、子供らしいおねだりでワーズレーを見上げた。

「し、少々、お待ちください…っ!」

なのにワーズレーはいつになくドギマギと慌てた様子で、珍しく足音を立てて部屋から出ていった。
俺は少しあざとすぎたかなと首を傾げ、それでも時折身体を駆け回る熱っぽい感覚に身悶えた。

「はあ…っ、んぅ…っ!」

シーツを被って荒い息をつくが、目覚めてから日増しに熱は増えていった。
こんな感覚は前世でも聞いたことがない。だからきっと、魔法の世界の人間の特殊な症例なのだろう。

熱は身体中の神経を舐めるように撫でていき、それがまるで前世に聞いた女性への愛撫のようで、俺は密かに快楽に震えていた。




家庭教師のシバはその翌日の夕方に医師を伴って現れた。父や兄や弟も一緒に様子を見守るつもりらしく、厳しい顔でベッドの横に椅子を並べて陣取っている。

しかし、俺は徐々に強くなってきた性感を耐えるので精一杯だった。今日はシバ以外とは会わないとベッドに篭城していたのだ。

「セオ様、大変申し訳ありませんでした。私の管理が行き届かず…」
「せ、んせぃ…ん、シバ、せんせ…」
「っ!これは…魔力か…!?」
「セオ!?どうしたんだ!?やはりまだ熱が…!」

シバの挨拶を遮って俺がシーツの中から声をかけると、父が俺の上ずった声に驚いて身を乗り出してきた。
その後ろのシバにはやはり心当たりがあるようで、少し胸を押さえていたが、父を制して俺が被っていたシーツを取ると、少し息を飲んで眉をひそませた。

「…っなんと、いう…」
「シバ!貴様、私の子に一体何をしたのだ!?」
「旦那様、落ち着いてください!」

父は今にも摑みかかる勢いでシバを問い詰めようとするが、ワーズレーに羽交い締めにされている。
兄や弟も涙ながらに大丈夫かと顔を覗きこんでくるが、俺は恥ずかしさと迫り来る快楽でそれどころではなかった。

「んっ、く…、はあ…っ、せんせ…たすけて…っ、へんなの…、からだ…、あ…っ、あつぃ…っ」

俺がシバに向かって手を伸ばすと、騒がしかった室内はシンと静まりかえり、俺の荒い息遣いだけが耳についた。

「はずかしぃよぉ…っ、せんせぇ…、こんな…、みんな、いるのに…っ、んうぅ…っ」

俺は羞恥と快楽で火照った身体をよじり、目を潤ませてシバに助けを求めた。
シバは安物のオモチャのようにガチガチと腕を動かし、俺の手をとると、しどろもどろに口を開いた。

「はっ、あの、それは…せ、セオ様のお身体の中の魔力が、ですね…その、悪戯、を、働いておりまして…」
「いた、ずら…?」
「は、はい…これから魔力で一気に…お、大人の身体ができていくのですが…その、魔力を消費して身体から出さないことには、そ、その状態のまま、ということに…」

やはり魔力のせいだったか。
俺は納得したが、父や兄は違うようだった。父はしがみついていたワーズレーを振り払い、俺の手を取っていたシバを突き飛ばして声を荒げた。

「バカなことを申すな!!セオは魔導士とは関係のない子だ!貴様が怪しい術で手篭めにしようとしておるのだろう!」

「そんな、まさか!」
「先生はセオを私たちから取り上げるおつもりなのですか!?」
「セオにいさまぁ…っ!」

またしても自分のせいで阿鼻叫喚の修羅場と化してしまったが、兄がベッドに乗って横になっていた俺を抱きかかえてしまい、俺は仰け反って悲鳴をあげた。

「きゃあ、あん…っ!や…っ、しゃわら、ないれ…っ、んふぅ…、ん、ん…っ」
「セ、セオ…?」
「んっく…、あに、うえ…っ、はあ…っ、はあ…っ」
「ひっく、セオにいさま、おねつ、くるしいの…?」
「んぅ…っ!ふ…あぁっ!」

弟のフェルズも泣きながら俺の腰にしがみつき、その衝撃で吐精こそできないながらも、俺はビクビクと脚を震わせてイッてしまった。
七歳の幼い弟が心配して泣いているのに、自分は何をやっているんだと、更に情けなさと恥ずかしさが募り、嗚咽を漏らした。
演技だけでなく、幼い体に情緒が引きずられているようで、止まらない涙にさらに混乱する。

「ぐすっ、ふぇ、せんせぇ、たすけてよぉ…っ」
「旦那様、どうか私からもお願いにございます。ここはシバ様にお任せを。これは確かに、ただの熱病ではございません。若い子の中にこのような症状が出た時には、必ずギルドを通じて魔導士会に連絡するようにと常々知らされております」

シバに随行していた我が家のお抱え医師がそう言って、父はようやく渋々シバと俺の間から退き、それに倣って兄や弟も手を離してくれた。
シバはそれに頷き、再び恐る恐る俺の手を取ると、今度は両手を繋いで、俺に優しく語りかけた。

「よろしいですか?セオ様の身体の中で暴れているお熱は、セオ様ご自身がお作りになった魔力です。これを吐き出すためには、いくつか方法があるのですが…今は魔法を使うことが最善かと。暴れているお熱を手のひらから押し出すようにして、同時に、私の身体の汚れを取り去るイメージを思い描いてください。そして魔力を押し出しながら、『浄化』と唱えるのです」

俺はシバがゆっくりと語りかけてくる言葉をジリジリと聞き取りながら、教えられた通りに走り回る熱を手から押し出した。

「ん…はあ…っ、じょ、『浄化』!」

叫ぶように唱えれば、確かに微かな量の熱が手のひらから蒸発するように消えていった。
熱はシバの身体にぶつかると、キラキラした不思議な虹色の光を放った。

そして一瞬にしてシバの着ていたシャツが生成り色から純白に、赤いジャケットが鮮やかな色を取り戻し、ツヤツヤと滑らかな光を反射する。
金ボタンもピカピカの光沢だ。

「驚いた…眼鏡の傷まで直っています。浄化でこんな力は見たことがありません…」

シバはそう言って自分の眼鏡を外すと、キョトンと人の良さそうな目で見つめた。
そんなことよりも俺はまだまだくすぶる熱に身悶えて、近くにいる人を片っ端から標的にした。

「『浄化』!『浄化』!はあ…っ、ん、っく、『浄化』…っ!」
「セ、セオ様っ!?そんなに魔力を使っては…な…っ、何だと…?この子は…なんてことだ…!」

俺が辺りに浄化を撒き散らし始めるとシバは慌てて止めようとするが、俺は構わず魔力を手のひらから吐き出すことに集中した。

「はあっ…、あん…っ!この…っ」

しかし熱は一向に冷めやらず、俺の身体を暴れまわる。俺は段々と腹が立ってきて、もうこの際、家中、いや領地中を、一挙に掃除し尽くしてやる!と心の中で叫んだ。
出たのは恥ずかしい嬌声と荒い鼻息だけだったが。

「んふぅ…っんもおぉっ!ぜんぶっ!『浄化』ぁっ!!」

ドバッと手のひらから熱が溢れ出して、虹色の光に変わりながら辺りに散らばっていく。その勢いに押されて、俺の腕が勝手に転回した。

「んや…っ、あぁあんっ!!」

手から熱が飛び出して行って、俺はまたしても襲ってきた激しい快楽に喘ぎ震えた。

「「セオ!!」」
「セオにいさま!」

腕がぐるりと一周する頃には、熱はサッパリと引いていて、俺はほっと息をついた。
慌てて俺を抱きとめてくれる家族たちの心配そうな顔を眺めて、申し訳なさに居た堪れなくなる。

「あ…はぅ…、ん…、あはぁ…っ」

身体は快楽責めから解き放たれた快楽に酔い痴れていたが。

家族から向けられたギラギラと欲情した視線すら快感に変換しながら、俺はヨダレを垂らして失神した。


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