裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

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庭園

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 家に帰ったら、玄関に蘭華が来ていた。
 家の前に立たずむ彼女を見て、マシュマロを思わせる柔らかな美しさがあるなと思った。
 つややかな髪はそのアクセントだ。

「二度も行ったのに開いてなかったわよ。蕎麦屋はもうやめたのかしら」
「どうだろうな。辞めるかもしれない」
「それがいいわ。才能ないものね。かわりにヘルメット屋でも始めるの」
「勝手に見るなよ」

 ものすごく久しぶりに話すような気がする。
 久しぶり過ぎて距離感がうまくつかめない。

「寄ってくか」
「そうね」

 弱ったことに、家には客に食べさせるようなものが一つもない。
 仕方なくインスタントコーヒーと、ダンジョンに持っていこうと思っていたチョコレート味のプロテインバーを蘭華に食べさせた。

「ダンジョンに行ってるんでしょ」
「どうしてわかるんだよ」
「リサイクルショップの段ボール箱に、新品のヘルメットが山ほど入ってたじゃない。リサイクルショップって、最近ではそういうものをあつかうお店になったんでしょ」
「まあな」

 カンが鋭くて上から目線で、蘭華は昔から何も変わっていなかった。
 そんな態度を見ていたら、俺が苦手意識を持った理由を思い出してきた。

「そんなことよりも、東京では皆がかわいいかわいいって、私の気を引こうと一生懸命に話しかけてくるのよ。その私を見て、アンタはなにも言うことがないわけ」
「まあ、うまいこと化けたよな。綺麗になったと思うよ」
「なッ……」

 綺麗と聞いたところで蘭華の顔は真っ赤になった。
 純なところもあるようだが、昔からの中身を知っていると可愛いなとは思えない。
 それに器用だから化粧がうますぎて、美人になりすぎている部分もあるのだ。

「それでなんの用だよ」
「私もダンジョンに行こうかと思っているのよ。そしたらお母さんが剣治を頼ればいいわって言うから来て見たの。手伝ってくれるかしら。私と一緒ならきっと、あの蕎麦屋よりは成功するわよ」

 俺の実力も知らないから、そんな上から目線の言葉が出てくるのだろう。
 昔からこうやって俺に対して親分風を吹かせてくる奴だった。

「まあいいけどさ。ダンジョンに行くなら、とにかく最初に行くときは必ず俺を連れていけよ。絶対に一人で行くんじゃないぞ。でも、学校はどうするんだ」
「馬鹿ね。なんの学校に行ってたか知らないの? ホント呆れるわ」

 こいつはたしか看護学校に行っていたはずだ。
 それならば、仕事がなくなることに備えて、ダンジョンがと言い出すのもわからなくはない。
 数日中には、政府は許可制にしてダンジョンの探索を合法化するつもりで動いているという話だった。

 その後は一緒にテレビを見始めたのだが、蘭華はいつになっても帰ろうとする気配がない。
 魔光受量値はゼロになっていて、今すぐにでもダンジョンに行きたいのにである。
 まさか今やってる、つまらない二時間特番を最後まで見ていく気なのだろうか。

 テレビのダンジョン特番では、宝箱から空飛ぶ絨毯を見つけたという男が出てきた。
 なんでもスライムを倒したら宝箱が出て、そこから空飛ぶ絨毯が出てきたという。
 価格なんて付けようがないほどのお宝であり、すでに海外から数百億単位のオファーが来ているらしいが、本人は受ける気がないと語っていた。

 しばらくは自分で使うそうだ。
 本当か嘘か知らないが、このこともダンジョン開放への圧力となるに違いない。
 本当に絨毯が空飛ぶ様子を見て、蘭華も顔を輝かせている。
 しかしダンジョンというのは、そう綺麗な部分ばかりでもない。

 命を危険にさらせなければ、探索を前に勧めることもできない場所なのだ。
 すでに何人がダンジョン内で死んでいるのかわかったものではない。
 たぶん世界で5万人は超えているだろうから、もはや戦争レベルである。
 だから政府も許可制にして、死者やアイテムの管理をしたいのだろう。

 俺はもうダンジョンに行きたくて手が震えてきた。
 しびれを切らして蘭華に泊っていくのかと聞いたら、顔を真っ赤にして逃げるように帰って行った。
 そんな気ないのに何を勘違いしてやがるんだと思って腹が立つ。

 すぐさまハイドレーションバッグに水を入れて、インスタントラーメン、チョコバー、カロリーメイト、潰したサンドイッチや菓子パンをザックに詰める。
 厚手のタイツを上下で着こんで、ズボンをはき、上着を着てザックを背負ったら装備品を身に着ける。
 最後に回復クリスタルを鎧の首元に取り付けて、両手が使えなくても取り出せるようにしたら準備完了である。

 今日買ってきたバーナーやクッカーを、タオルでくるんでからショルダーバッグに入れる。
 こっちは戦いが始まったら放り投げることも考えてある。。
 ヘルメットの予備を持って行こうか考えたが、結局やめておくことにした。

 頭を打って気絶でもすれば死ぬことは免れないが、バッグには入りきらない。
 ファイアーボールでも食らえば、バッグに入ってないものは燃えてしまうのだ。
 オオカミあたりが毛皮でも落とせば、マントを作れていいのにと思うが、アイツはクリスタルと石、それにナイフくらいしか出さない。

 準備が済んだら、ダンジョンの中に飛び込んだ。
 いつものように明かりはつけずに、適当にリポップしたカエルとオオカミを潰しながら進む。
 整地された場所に出たが、さすがに倒しすぎたのか骸骨戦士の姿はどこにも見当たらなかった。

 そのかわり段差を降りたところで、ハイゴブリンのゾンビたちがうようよと出てくる。
 どこから集まってきたのか知らないが、本当に数が多い。
 俺は片っ端から粉々にして進んだ。

 一時間くらいで、やっと神殿の遺跡らしき建物が見えてくる。
 ここからが前回の続きということになる。
 中に入って探索を続けるが、人工的なダンジョンになったような印象である。
 内部はかなり広いのだが、柱のせいで剣が使いにくいから魔法で倒して進む。

 遺跡を抜けると、森が広がっているように見えた。
 立っている樹を良く見ればかなり硬質な石でできていた。
 そしてその木の間からのっそりと出てきたのは、ヘラジカのようなモンスターだった。
 見上げるような大きさで、現れた瞬間に腰が抜けるかと思った。

 何も考えずにアイスランスを放つと、ヘラジカはボウル状に広がった巨大な角でそれを受け止める。
 アイスランスのスピードに反応されてしまうのは、かなりの脅威である。
 しかし、受け止めきれずに巨体が泳ぐ。
 助走をつけて突っ込んできたらダメージがやばそうなので、こちらから距離を詰めた。

 もう一発アイスランスを放って、相手の巨体がふらついた隙に両手剣を振り下ろす。
 片一方の角が折れて宙を舞った。
 巨体のくせにやたらと動きが軽くて狙いがそれてしまった。

 それでも肩口を切り裂いている。
 俺は近距離から、剥き出しになった心臓を狙って両手剣を突き入れた。
 それでヘラジカは動かなくなる。

 ドロップはオレンジクリスタルだった。
 やはり、こいつも腐った体をしているからゾンビだろう。
 そしてゾンビはやはり回復アイテムをドロップするようである。

 ブルークリスタルを使っていると、盾と剣を持った犬の顔をしたモンスターが3匹押し寄せてきた。
 両手剣を横なぎに払うと、先頭にいた犬男はとんでもない跳躍力で上に飛ぶ。
 そっちを目で追ったら、太ももにレイピアを突き立てられていた。

 その痛みに気を取られてしまい、今度は肩をレイピアで貫かれる。
 苦し紛れに剣を振ったら、やはり大跳躍で空中に逃げられた。
 強引に突っ込んで着地のタイミングを狙うが、盾で防がれて相手を吹き飛ばしただけに終わった。

 盾がむちゃくちゃ厄介である。
 マジックシールドなら砕けるが、実体がある盾だとそうはいかない。
 これは負けもあるなという考えが頭をかすめた。
 マナをどんなに使ってもいいから、とにかく数を減らすしかない。

 放っておくと距離を詰めてくるので、詰めてきたところにアイスランスを撃ち込む。
 盾で防がれるが、大穴が開いてガタガタになった盾を蹴り壊す。
 そして横なぎではなく、縦に両手剣を振り下ろした。

 犬の左肩が飛んで行った。
 これで一匹は戦力外である。
 クリスタルで回復してから、さらにアイスランスを打ち込んで畳みかけて、そのまま倒しきった。

 他の1匹は魔弾で牽制してある。
 ちょっとでも攻撃の素振りを見せれば、相手は上に飛ぶか盾を構えるかしてくれる。
 アンデットゆえにそれほど賢くないのだろう。
 残りの2匹もアイスランスで盾を壊して、剣で叩き切った。

 毒でも塗ってあるのか、レイピアで刺されると見た目の傷以上に体力を持っていかれる。
 ブラッドブレードの回復では足りず、回復クリスタルを使う羽目になった。
 そんなことをしていたら、今度は犬が4匹でやってきた。

 この4匹で思った以上に手こずり、レッドクリスタルが尽きてしまった。
 最近はカエルをあまり倒してないし、ヒットポイントの量的にもレッドクリスタルでは回復量が足りてない。
 そして敵の動きが早すぎて、両手剣では追いきれずにブラッドブレードの回復も発動させられなかった。

 オレンジクリスタルは残り9個である。
 マナクリスタルは豊富にあるから、魔法メインで戦って回復クリスタルは温存しよう。


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