裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

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講習会

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 探索協会の講習会場は、探索協会新宿会館という場所だった。
 近くにダンジョンが現れたため、閉校になった小学校の一部である。
 今では体育館などが改装されて、自衛隊の宿舎兼倉庫としても使われている。

 隣の運動場には物々しい戦闘車両や攻撃ヘリなどが止まっている。
 受講者のものだと思われる車も高そうなものが多く、いわゆる密猟者と世間で呼ばれている人たちだから羽振りがいいのだろうか。

 しかしダンジョンに関する法律は、やっと今になって、やっと一つ成立したくらいで、立ち入り禁止になっていたと言っても、何らかの法律に基づいたものではない。
 なにせ政府はダンジョンの入り口の数を把握するのにも手間取っていたくらいだ。

 講習会の会場は二階だというので、俺はスリッパに履き替えてリノリウムの階段を上がった。
 一般講習会がある会議室を通り過ぎて、最奥の講義室を目指す。

 レベル所得済み者向け会場である講義室に入ると、すでにまばらな人がいる。
 入り口でガタイのいい金髪の男に背中を叩かれた。
 挨拶というよりは、かなり剣呑な雰囲気である。

「どうした、入らないのかよ」

 何のつもりかと眺める俺に向かって、その男は言った。
 後ろには、派手な女と、少し背の低い男がニヤニヤと笑っている。
 三人とも体育会系の体つきをし、かなり稼いでいそうな風体である。

 チームを組んでいるのかもしれないが、あまり雰囲気がよくなさそうなので組みたいとも思わない。
 俺は何も言わずに通り過ぎた。

 そしたら後ろから来た奴が背中を叩かれてバランスを崩し、俺にぶつかった。

「すっ、すみません。いつつ、いったい何なんですかね。あれは」

 俺の背中にぶつかってきたのは、細いおかっぱ頭の男である。
 俺がさあなといって席に座ると、その男は俺の隣に座った。

「腕試しのつもりなんですかね。まるでギルドで新人に突っ掛ってくるチンピラですよ。ほら、冒険者登録をしようとギルドに行ったら、難癖付けられるアレです」

 俺は適当に相づちを打っておいた。
 なんとなく詳しそうな雰囲気である。
 そしたら、前に座っていた男がこちらに振り返って言った。

「私もね、転びかけましたよ。ああいう荒い手合いには困ったものです」

 前の席に座っていたのは初老に片足を突っ込んだような男である。
 古ぼけたスーツに眼鏡で、どうもダンジョンに入っているようには見えない。

「有坂です」と、その初老の男は名乗った。

 伊藤です相原ですと俺たちも名乗る。

「二人ともモグリでダンジョンに入っていたのかい。そんな悪いことするようには見えないけどね。人は見かけによらないものだ」
「何もしなければモンスターに殺されるだけだと思っていましたからね」

 俺は当時の気持ちを振り返って言った。

「僕はダンジョンが出来た時これだって思いましたね。だって未知の力が手に入るわけでしょ。放っておくわけにはいかない。実際、後ろの方でイキがってる奴らも、僕なら秒で殺す自信がある。実力的にたいしたことがあるようには見えない」

「そうかもしれないね」

 俺の隣に座った相原という奴はヤバいやつだった。
 そして有坂さんまで、そのヤバいやつに同意している。

「大したことがないなんてわかるのか?」

「わかりますよ。だって、今の段階では僕が所属するパーティーよりも奥に行けているとは思えない。僕らより進んでいるのは、新宿に二組と、日暮里のソロランカーだけのはずですからね。つまり根拠もなく、自分たちを強いと思い込んでいるんだ」

 ゴホッゴホッと、有坂さんが咳込んだ。

「ランカー?」
「ええ、僕らのフルレットでは上位者を勝手にそう呼んでいるんです。ちなみにフルレットというのは、僕らが贔屓にしているメイド喫茶の名前でして、10人以上の勇士が集うクランですけどね。最近ではメイドさんも入ったので、賑やかになりました」

 周りに人がいる講義室で、相原はそんなことをまくしたてる。
 ここまでくるとさすがの有坂さんも引き気味である。
 とりあえず、どこに入るにしてもフルレットというところだけはやめておこう。

 考えてみたら、ダンジョンという命がけの場所で、信用できる奴を探すなんて、とてつもなく大変なことのように思えてくる。

「ちなみにお二人のレベルはいくつですか」
「14だよ」
「うげ、有坂さん、僕より5も高いなんてありえませんよ。ランカークラスだってことじゃないですか。真面目に話してください」
「いたって真面目だとも。見た目で判断するもんじゃないよ。私の見た感じだと、今日は有名どころが大体揃ってるね。それで伊藤君はいくつなのかな」
「21ですよ」

 二人は乾いた笑い声を漏らした。
 話の流れからして、やはり信じてはもらえないだろう。

「あのねえ年齢聞いてるわけじゃ――」

 その時、後ろの席の方が賑やかになって、相原の声がかき消される。
 入り口にいた奴らが揉め始めたのだ。
 講義室はほぼ満室となっていて、協会の人と自衛隊の人が入ってきた。

「伊藤さん、もしそれが本当なら後ろの奴ら、静かにして見せてくださいよ。ちょっと殴ればミンチにできるでしょ。それが出来ない限り、僕は伊藤さんの話を信じませんよ」
「まあまあ、相原君は興奮しすぎだ」

「有坂さんだって、本当に14ならあいつら黙らせるくらいわけないでしょ」
「でも重要なのはレベルよりも霊力の方だからねえ」

「でた。その言い訳。それはもう聞き飽きましたよ。霊力がなかったら、そもそもレベル14なんてなれっこないでしょ。どうやって敵を倒して経験値を稼ぐんですか。大体14なんて日本に一人いるかどうかでしょ」

「そんなもんなのか?」

 俺の疑問に二人は頷いた。

「一人かどうかはわからないけど、トップの人もそれほど高くはないだろうね。なにせダンジョンに長居しすぎれば炭になる。ダンジョンが出来てから攻略に与えられた時間的な猶予から言ってそんなものさ。一回で霊力を500も稼げたら大したものだよ」

 有坂さんの言葉に俺は疑問を挟む。

「クリスタルを使った回復があればもっと効率いいはずですよね」

 確か自衛隊はそうやってレベルを上げているという話だったはずだ。
 俺の疑問に答えたのは横合いから割り込んできた相原だった

「霊力を消費せずに回復するって話ですか。確かにその案は悪くないけど、ダメージを食らうような戦い方は危険が大きすぎますよ。第一、どこにそんな大量の回復クリスタルがあるって言うんですか。現在までに市場に流れた数は、多く見積もって200か300だって話ですよ。僕はそういうことも知ってて言ってるんですからね。二人ともつまらない話はやめてください。あまり僕を馬鹿にすると、フルレットのメンバーも黙ってませんよ。今日は様子見で僕しか来てないですけどね」

「止めなきゃまずい。伊藤君手伝ってくれ」

 有坂さんに言われて俺も席を立った。
 俺は相原を押しのけて通路に出る。
 後ろの通路では、金髪の男と女の子が揉めていた。

「ふざけたこと言ってんじゃねーぞ。気安く人の体に触りやがって」
「はあ? だったらどうするってんだよ」

 女の方が逆上して、近くにあった備え付けのテーブルを叩き壊した。
 普通の人間がどんなに鍛えたって、こんなものは叩き割れない。

「それがどうしたんだ」
「黙れっ!」

 激昂する女の子に、さらに金髪が逆なでするようなことを言うと、女の子はアイスダガーを放った。
 大したスピードでもないのに、金髪の男は避けられずに肩を裂かれる。
 金髪をかすめたアイスダガーは壁に当たって砕け散り、周りから悲鳴が上がった。

 逆上した金髪の男は、アイテムボックスから剣を取り出した。

「ダンジョン外での武器の使用、魔法の使用は禁止です!」

 とうとう自衛隊の人までやって来て仲裁に入る。
 しかし、逆上してるので火に油でしかない。

「だったらなんだよ。逮捕できるもんならやってみろや!」
「上等だよ! アタシがやってやらあ!」

 金髪の男に続いて、女の子の方も槍を抜き放った。

「くそ女が、誰を敵に回すかわかってんのかよ。ダンジョンに入れなくなっても知らねーぞ」
「おまえこそアタシらを誰だと思ってんだよ。アタシは赤ツメトロの京野だぞ」
「そんなもん小娘の集まりじゃねーか。何が出来んだよ。ロビンフットにでも泣きつくのか」
「なんだと!! こっちに何人いると思ってんだ!」
「君たちやめなさい!!!」

 有坂さんが顔を赤くして叫んでいる。
 俺はなんだかめんどくさくなっていた。
 みんな自分が一番強いと思ってイキがってるのだ。

 探索者は軍隊よりも強いという話は、テレビで何度か目にしている。
 探索者がダンジョンを独占するために、軍隊や警察を相手取って籠城しているという話も、海外ではよくあるようである。
 そのくらいダンジョンから得られる力というのは大きい。

 だからといって、さっきのアイスダガーも避けられない奴とか、そんなの相手に槍を抜く奴とか、イキがるにしたって勘違いも甚だしい。
 レベル10前後で、霊力1000や2000くらいの奴らは、もうちょっと謙虚に生きるべきだ。
 周りに怯えて、肩を寄せ合って震えてるくらいでちょうどいい。

 それがちょっとチームを組んで集まったからといって、こんなにイキリ立つというのは、鬱陶しいを通り越してみっともない。
 目の前では両方の仲間が集まって、一触即発という雰囲気になってきた。
 早く講習を終わらせたい俺は、穏便に場の終息を計ることにした。

「だ、だれか止めてもらえませんか!」

 協会の人も困って、周りに呼び掛けている。
 それを横目に俺はコンクリートの柱まで歩いていき、オーラを発動させてそれを殴った。
 建物全体がドゴンと揺れ、コンクリートがひび割れて亀裂が走る。

 もともと学校だった建物だけあって、作りがしっかりしている。
 崩れたりしてないし、力加減も完璧にできた。
 振り返ると全員がちゃんと俺の方に注目していた。

「静かにしてもらえませんか! 講習が始まりませんよ」

 それでその場は綺麗に納まった。
 力を誇示したかった人たちは、全員が俺に向かって小さく謝り、自分の席へと戻った。
 揉め事に首を突っ込もうと周りを取り巻いていたイカツイ人たちも、混ざらなくてよかったという、あからさまな安堵の表情を見せている。

 これ以上ないくらい目立ったが、そんなことはどうでもよく、俺はただただ講習会をさっさと始めてほしかった。

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