裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

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東京

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 蘭華の言い分はこうだ。



「剣治が一人で登録に行けって言うから、私は行ってきたのよ。そしたら、それっきり音沙汰もなしってどういうことよ。連絡も取れないし、そのくせ絶対に一人では行くなって言われたのよ。どうしろというのよ。聞かせてごらんなさい」



「どうせ今行っても足の踏み場もないほど混んでるよ。それに明後日から、お前を東京のダンジョンに連れてってやることにしたんだ。レックスあたりを倒すのがちょうどいいからさ。俺が倒してやるから、それでレベルを上げろよ」



「何も調べていないようね。いきなりレックスなんて倒せるわけないじゃないの。もう一月近くやってる人でさえ、そのモンスターには近寄りもしないそうよ。なに気安く倒してやるとか言ってるのかしら。私だっていろいろと調べたの」



「まあ、とにかく明日くらいに東京に行くぞ。宿代は出してやるから、一か月くらいはホテル暮らしができるだけの準備をしとけよ。お前のレベルを上げないと話にならない事情があるんだ。金儲けなら俺に任せておけよ。きっとすごい稼げるぜ」



「残念ながら、もう私はうだつの上がらない蕎麦屋の倅とは一緒にやらないことにしたと伝えに来たのよ。皆とっくに始めてて、今から行ったんじゃスライムも倒せないわ。剣治が遊んでる間に、周りに水をあけられてしまったの」



 何を言っても聞かないし、理解もしない。

 東京のダンジョンに関して完璧に調べ上げているから、なおのこと俺の言う事なんて聞きそうにない。

 それでも、なんとかうまく騙してレックス狩りに連れていくしかない。



 こいつを引き連れて、レックスの首でも飛ばしていればすぐにレベルは上がるだろう。

 裏庭のダンジョンじゃ、俺が倒してしまった後だから、ちょうどいい敵がいない。

 それにレックスなら服類も落とすし、ホテル代と蘭華の魔法代くらいは簡単に稼げるはずだ。



 そして蘭華がダンジョン酔いで動けなくなったら、その間に俺も東京のダンジョンを攻略すればいい。

 俺としては、早いとこ宝物庫までの道順をクリアしなければならない。



「そんなこと言わずに、俺と一緒にやればいいじゃないか。お前の力がどうしても必要になったんだよ」



 地面に手をついてそう言った俺を、蘭華は冷たい目で見降ろしていた。

 地面に手をついているのは演技ではなく、ハードな探索の後で立ち話中に眩暈がして、立っているのが辛くなったからだ。



「そうでしょう。そんなこと最初からわかってたことじゃない。今日の午後には行くわよ。早く準備なさい」



 これから俺はダンジョン酔いと戦わなければならないというのに容赦がない。しかし、目の前の蘭華を説得できるとも思えず、頷くしかなかった。

 しかし、その前にどうしてもしなければならないことがある。

 俺は自分が得た知識の中で使えそうなものをネットの掲示板に書き込んだ。



 なるべく死者を出さないためにも、他の奴らも多少は戦えるようになってもらう必要がある。

 戦えるようになりすぎて、俺がやろうとしていることのライバルになられても困るのが難しいところだ。



 書き込みが済んだら俺は仕方なく準備を済ませて、午後には電車に乗ることとなった。

 蘭華はずっと俺に探索者はこうあるべしという心得を聞かせてくれている。



「東京じゃ俺はランカーなんだよ。わかるか。許可制になるまで、ずっとモグリでダンジョンに入ってたんだ。今、ダンジョンに入ってる奴なんか、ダンジョンを攻略する気はないんだぜ。俺のように命がけでやってる奴なんて、ほとんどいないんだ」



「あらそうなの。その割りにはずっとこっちにいたわよね。貴方の話はつじつまが合わないことが多すぎるわよ。それに経験があったとしても、周りの話はちゃんと聞くべきよ」



「だから、そんな腑抜けどもの話、どうだっていいんだよ」



 その時「俺らが腑抜けだってよー」という声が後ろの方から聞こえてくる。

 おおかた栃木でやっていて、これから東京に出て本格的にやろうという奴が、この電車に乗っていたのだろう。

 蘭華が声をひそめて言った。



「もう、この話はやめましょ。電車代は出してもらったけど、やっぱり私が出すわ」



「いいって、そんなの。それより、俺の言う事はちゃんと聞くんだぞ。ダンジョンは一つ間違えば命を落とすんだ」



 俺は世界を救うために、やらなければならないことがあるのだ。

 だというのに、当然ながら蘭華にはそういう志がない。



「誰が腑抜けだってぇ?」



 めんどくさそうな奴が話に割り込んでくる。

 やってきたのは、まさに田舎の若造といった感じの奴である。



「うせろ」



 俺はアイテムボックスからナイフを取り出し、相手を睨みながらそう言った。

 かかって来いと言う意味で言ったのだが、相手は顔を引きつらせて帰って行った。



「ちょっと、それはどういう態度なのよ。この頃やっぱり変よ。精神が不安定だし、心がすさみきってるじゃない。あと、武器の携帯は許可されたけど、使用が認められたなんて話聞いたことがないわよ」



「いいか、戦いってのは常に命がけなんだぞ。命がかかってるのに法律もクソもないだろ。それに俺は、これ以上ないくらい安定してるよ。あそこで必要なのは狂気なんだ」



「そうなの。まあいいわ。それにしても、ずいぶん豪華な装飾のナイフね。ダンジョンでそういうのが出たら高いそうよ」

「ダンジョンで出た奴だよ」

「凄いじゃない。売らないの? 売りなさいよ」



 俺が売らないと答えると、どうして売らないの、なんで売らないのとしつこく聞いてくる。

 いくら積まれても、価値に見合う金額ではないからだと説明したが無駄だった。

 らちが明かないので、俺は寝たふりをして東京までの時間を過ごした。



 ダンジョン酔いは少し気分が悪くなるくらいで、この頃はだいぶ軽くなってきている。

 それでも冷や汗が吹き出てくる程度には苦しい。

 蘭華に汗を拭きとってもらいつつ、介護されるようにして東京駅に着いた。



 中央線に乗り換えて、代々木駅で降りる。

 ここから数分も歩けば、新宿のダンジョン入り口が見えてくる。

 探索者向けの施設も多く、最近では安宿もたくさん建てられていた。



 ダンジョンの近くにはリサイクルショップが立ち並び、更衣室とシャワーとコインロッカー付きの施設などもある。

 蘭華に連れられてリサイクルショップに入ると、LEDライト、迷宮産の素材で作られたコートなどが並んでいる。

 その中でも回復用クリスタル入れになっているショルダーバッグや、ダンジョン産の鉱石で作られた日本刀などが目に付いた。



 寝袋にマットなど、そんなものまで必要だろうかというようなものまで並んでいる。

 コートはちょっと欲しいが、どう考えても鎧の邪魔になってしまって着られそうにない。

 今はスペルスクロールがとてつもない値段になってしまっていて、一つは欲しいところなのだが、全財産はたいてアイスダガーごときを買うハメになってしまう。



 蘭華は武器が欲しいようなことを言っている。

 武器なしでは、ダンジョンに入ろうとする気配もない。

 仕方ないので俺は、公園で露店をやっている村上さんの所へ行って、鞘付きで売っているレイピアを一つ買い戻した。



「あっ、お金はいいですよ。伊藤さんには贔屓にしてもらってますから」

「だけど鞘はわざわざ村上さんが付けたものだし、さすがにタダは悪いよ」



「いえ、今は革素材なら安いんですよ。木と革素材で簡単に作ったものです。業者の人に頼めば数分で作ってもらえますから」



 俺はアイテムボックスから出したベルトとレイピアを蘭華に渡した。

 ついでにグローブとブーツも渡しておいた。



「これで気兼ねなくダンジョンに入れるだろ」

「そうね。こんな簡単に一式揃えられるものなのね」



 まったくもって簡単ではない。

 どれも俺しか手に入れられない希少な一品ばかりだ。

 その後は少し高めの宿をとって、俺はひたすら寝て過ごした。



 何度か蘭華が携帯にかけてきたが、すべて無視して惰眠をむさぼった。

 それで一日半くらい寝てたら、なんとか動けるくらいに気分がよくなった。

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