裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

文字の大きさ
23 / 59

パーティー

しおりを挟む



 魔力酔いが無くなったところで蘭華を連れてレックス狩りに行き、今度は何匹か蘭華自身にも倒させる。
 すでに霊力が2000もあるから、ナイフを渡せば倒せないこともない。
 器用にレイピアとナイフの二刀流で戦っている。

 剣術とアイテムボックス、それにオーラは覚えさせた。
 あとはアイスランスとファイアーボールも高いながら覚えさせた。
 値下がりを待つより、蘭華を戦えるようにした方がいいアイテムを出せるようになるんじゃないかと考えたからだ。

 アイテムボックスの石でさえ、今では蘭華が欲しがったバッグよりも高くなっていた。
 いったいどこからそんな金が出てくるんだろうというくらいの金持ちというのはいる。
 賢者のローブは蘭華が使いたいというので、俺はゴーレムから出た黒いクロークを着ていた。

 革の服を着た蘭華は、体のラインが出すぎていて変態にしか見えない憐れな姿だったので仕方がない。
 ラバースーツかなにかを着ているようにしか見えなかった。
 黒い服の隙間から見える白い肌に、この俺でさえ変な気分になりかけたほどだ。

 ポニーテールを揺らしながら戦う姿を見ていると、娘の成長を見ているようで微笑ましい。
 まだドラグーンの加護を受けているから、あまり無理はさせられない。
 喋らなければ可愛げのある姿に見えた。

「なに見惚れてるのよ。いやらしいわね。次は剣治の番よ」

 口を開けば人のことを子分か何かだと思っている本性が露呈してしまう。
 性格は悪い癖に、やたら体つきだけはいいから嫌味な女だ。
 こんな感じで、お互いがお互いのことを手下か何かだと思っているから、昔から馬が合わないのだ。

 今は敵を見つけて数を減らすのが俺の仕事である。
 敵を探すにしても、蘭華はまだ段差を飛び越えられないから、俺が手を引いてやる必要がある。
 引かれる腕が痛いと苦情を言われるが、他の場所に触れれば何を言われるかわからない。

 誰に会うこともなく、朝から夜までひたすらレックスの相手をして過ごした。
 外に出る頃には、すでに夕方になっていた。
 汗を流したら着替えてひと眠りしたら、俺だけまたゴーレムを相手にする。



 もう一度蘭華を引き連れてレックスを倒したら、蘭華はレベル16になった。
 そしてドラグーンの加護から剣士の加護に切り替えさせた。
 ゴーレムから出たチェーンソードを蘭華に持たせる。

 槍でもよかったが、剣術の石を使っているし、軽いから蘭華にはこちらの方がいいだろう。
 刃が付いた鞭のような武器だが、システムとしては剣の扱いである。
 俺はやっと鈍器のようなクリスタルの剣に慣れてきた。

 村上さんに売っている革の服は好評で、日本だけでなく世界から買い取りの依頼が来ているそうだ。
 そのおかげで村上さんは新宿に支店を開けるほど儲かっていた。
 俺の方は買いたいものの売りもなく、蘭華の無駄遣いくらいにしか出費がない。

 そして今日は有坂さんと合流して、一緒にやる予定である。
 待ち合わせの場所には、なぜか相原までやってきた。

「こっ、こっ、この、女性はどちら様れすか」
「佐伯蘭華です。今日はよろしくお願いします」

 蘭華を見るなり挙動がおかしくなった相原に、別人としか思えないほどの猫をかぶった蘭華の挨拶である。
 有坂さんは落ち着いた様子で「よろしく頼むよ」と言った。

「ぼぼぼ僕は魔法戦士兼サブタンクという立ち位置でやっていきますので、よ、よろしくお願いすます」
「魔法戦士ってのは?」

 そう聞いたのは有坂さんである。
 当然の疑問だ。

「距離を保ちつつ槍と魔法で攻撃するスタイルですよ。有坂さんは遠距離魔法職ですから、僕より前には出ないようにしてくださいよ。前に出てって死なれても責任持ちませんからね」

 猪八戒にしか見えない男は、有坂さんに対しては横柄な態度である。
 本当にそんな器用な戦い方ができるようには思えない。

「もちろん僕は伊藤氏のカキタレに手を出すほど無謀ではないので、ご安心ください。ミヤコ嬢一筋ですし、そこら辺のことはわきまえています」

 猪八戒は俺の耳元でそんなことをささやいた。

「誰が……誰の……何、と言ったのかしら……」

 それを蘭華に聞きとがめられて睨まれ、それきり相原は下を向いて黙ってしまった。
 はっきり言って、連携が生まれそうなチームではない。

 相原は自分のチームのためにスペルスクロールを買いたくて、最近羽振りがいいとの噂を聞きつけて俺に連絡してきたのである。
 俺は有名になりすぎて、行動が逐一ネット上にあげられるようになってしまった。
 今日は連携を確認するためにハイゴブリンを相手にする予定だ。

 群がってくるレックスを、先頭に立った俺がなぎ倒しながら一直線に奥を目指す。
 アイテムは相原が拾ってくれるから楽でいい。
 ハイゴブリン地帯に入ったら、相原に言われた通り、俺は魔弾とアイスダガーで先制攻撃を放った。

 そうすると敵のターゲットをとれるそうだ。
 確かに相原の言う通り、敵は俺に群がってきた。
 俺は力任せに剣を振って、そいつらを真っ二つに叩き切った。

 剣の特性で、ハイゴブリンたちははじけるようにしてバラバラになる。
 返り血を浴びるが、それは黒い炭になって剥がれ落ちた。

「全部伊藤氏が倒したら、我々に獲物が来ませんよ」
「もっと奥に行こう。広いところなら敵がもっと群がってくるだろ」

 さらに奥に進み、少しだけ見晴らしがよくなっている場所を見つけた。
 敵が群れでやってくる。
 ハイゴブリンが使ってきたファイアーボールを、相原は練度の高いマジックシールドで防いだ。

 蘭華はナイフを使ってうまいこと回避している。
 ファイアーボールを食らったのは俺だけだ。
 ちゃんと戦えそうなのを確認して、俺は敵の群れの中に飛び込んだ。

 ファイアーボールで減らした体力は、剣の一振りで回復する。
 剣を振る合間を縫って掴みかかってくるゴブリンは、引き倒し、首を踏み潰して倒す。
 レベル差がありすぎて敵にもならないが、それでも楽しかった。

 まだ完全には、この重たい剣を使いこなせてはいない。
 蘭華も慣れない武器で戦っているが、倒せない奴は有坂さんがちゃんとフォローしている。
 相原は闇雲に槍を振り回していて、危なっかしい。

 それでもノーコストで撃てる魔弾で、ゴブリンのバランスを崩させるから一対一なら戦えないこともない。
 使い込んでいるから、相原の魔弾はそこらの魔法攻撃くらいには威力がある。

「こんなに敵を近くで見たのは初めてだ。凄い迫力だね」
「有坂さん、のん気なこと言ってないで、僕の方もちゃんとフォローしてくださいよ! 今のやばかったでしょう!?」

 相原も有坂さんも蘭華と何も変わらない。
 俺が動けなくなった時点で、全滅するしかない状況に、少しだけ怖くなった。
 相原も俺の真似をしてオーラの石を買ったらしいが、怖がり過ぎてて意味をなしていない。

 ただ逃げ回っているだけで攻撃出来ずに、一匹に時間をかけすぎている。
 多少はリスクを取らないと攻撃なんて不可能だ。

「回復クリスタルは持ってないのか」
「ありますよ。でも高価ですからね。使わないに越したことはないでしょう」

 ハイゴブリンを100体も倒すと、オレンジクリスタルがドロップした。
 それを相原に持たせ、蘭華と有坂さんにも俺から渡しておく。
 三人のレベルなら、一つあればなんとか急場はしのげるだろう。

 裏庭ダンジョンに行かなくなってから、クリスタルが凄い勢いで減り続けているのが心配だ。
 飯時になったら疲れて横になりたくなったので、大円天幕を出して休んだ。
 三人に目を丸くして驚かれたが、宝箱から出たのだと話したら納得してくれた。

「それって、空飛ぶ絨毯が出たのと同じものよね」
「ああ、たまにモンスターからもドロップするらしいな」
「モンスターからもって、それ以外の手に入れ方を知ってるみたいな言い方ね」
「まあ、そういうこともあるんじゃないかってことだ」

 ドロップは宝物庫や武器庫に入っていたものが、試練の遺物に取り込まれたものである。
 宝物庫は宝物、武器庫は武器防具、研究所はクリスタルや錬成素材、大神殿はスペルスクロール、厩舎は使役魔獣、溶鉄所は生産素材、練兵場はスキルストーン、倉庫は食料などだ。

 それらが試練の遺物によってドロップさせられているらしい。
 だから宝物庫や武器庫、厩舎などに行っても、何もない可能性はある。
 試練の遺物に関してもろくに資料がなくて、大図書館でもあいまいな情報しか得られない。

 使役魔獣はあまりにも数が少ないから、出たという話を聞かないのだろう。
 大神殿と研究所、主郭だけは、どうしても俺が抑えなければならない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった! 覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。 一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。 最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

処理中です...