裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

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ヴァンパイア

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「きっと侵略のために宇宙人がやってきたのよ」
「この世界に魔法の力なんてなかっただろ。つまりそれは宇宙人じゃなくて異世界から来たってことになるんじゃないのか」
「そこは大きな問題じゃないわ。どちらにしろ、地球外生命体による侵略じゃないかという事が重要なのよ」
「だけど侵略なら、試練の遺物なんてものを起動させた理由がないぜ」
「侵略のために使おうとしたけど、宇宙船の中で暴走してしまって、宇宙人はみんな死んでしまったのね」
「いやいや、試練の遺物ってのは力を授けてくれるものなんだ。それに宇宙船に積んであった宝物だって、侵略に使えるようなものばかりじゃない。つじつまが合わないよ」

 蘭華は考え込むような仕草を見せて、黙り込んだ。
 結局、蘭華では何が起きているのか解明する役には立ちそうにない。
 それでも事実を知ってなお、気負うでもなく平然としていられる蘭華の態度は有難かった。

 人の部屋で考え込んでしまった蘭華は放っておいて、俺は山本に連絡して対魔法防具と、魔法武器を買いたい旨をメールで伝えた。
 蘭華の協力は取り付けたから、次は攻略に使う装備の算段をつけたい。

 明けて翌日から、継続して北海道のダンジョンに潜り、相原たちのレベルを上げるために二日を費やした。
 そろそろ相原も簡単には魔光が溜まらなくなってきているので、厩舎攻略も見えてきた。

 ダンジョンを攻略する速度に比べ寒くなる方が速いような気がして、間に合うのか心配になってくる。
 まだ雪は降ってないが、地元の人の話では雪が降ってくる前には住めなくなるそうだ。

 そして二日間の攻略を終えたら、頼んでいたものを山本から受け取る。
 彼女はシルバーロングソードというアンデットに利きそうな、魔法を増殖してくれるという剣を二本用意してくれた。

 これは魔法など通さなくても、それ自体でヴァンパイアにもダメージが入りそうだ。
 そして彼女が用意してくれた防具の方は、宝箱から出たシルバークロークという魔法に抵抗があるローブだった。
 高額だが、賢者のローブと合わせて二人分の対魔法装備が整うから文句はない。

 半分凍っているんじゃないかというくらい冷たい雨が降る秋の真夜中、俺と蘭華は裏庭ダンジョンを目指した。
 スカートの上にコートを羽織っただけでついてきた蘭華にダウンジャケットを奪われ、俺にとっては命がけの旅になってしまった。

 家に着いたら、体が動かなくなっていたので中に入ってストーブに当たる。
 蘭華が郵便受けから溜まった配送物を持って来てくれたので、それらをなんとなく眺めていたら、TVの出演依頼やら雑誌や新聞の取材などに混じり、護衛や警備などの依頼が大量に紛れている。

 ニュースによれば、アメリカのFRBは金の貯蔵庫を無法者に狙われて以来、国内で一番レベルの高い探索者に警備を依頼しているそうである。
 金塊ともなれば、欲しがるのは悪党ばかりでもなく、政府として欲しがっているところだっていくらでもある。

「世界中が滅茶苦茶になってるわ」

 俺が放置してしまっていた冷蔵庫の中にある、腐った物をゴミ袋に入れていた蘭華が言った。

「いきなりなんだよ」
「侵略が目的じゃないとしても、好意で来たわけじゃないのは間違いないわよね」

 確かに蘭華の言うところもわからなくはない。
 このところニュースでは戦争やら紛争やら、嫌なワードが多すぎる。
 しばらく郵便物と睨めっこをしていたら、蘭華がパスタを作ってくれたのでそれを食べることにした。

「試練の遺物が稼働したのは事故だと思うんだよな」
「事故だとしても、こんなことになったら立派な侵略行為よ」

 世界のパワーバランスが崩れすぎて、近々宝物を使った戦争が起きるのは確実だと言われていた。
 しかも、国家間の戦争ではなく、民間の企業や組織がそれを起こすかもしれないと懸念されている。

 これまでとは違った、まったく新しい不安定さが生まれているようだ。
 クーデタービジネスという言葉すら、最近ではよく耳にするようになった。

「いいことだって、なくはないだろ」
「そうね。未知のエネルギーを使った文明が発見されたわ。でも、研究はまったく進んでいないそうよ。とうぜんよね。魔力なんてこの世界には存在しなかったんだもの」
「ダンジョンの攻略が終わって、俺が図書館の知識を広めたら研究も進むだろうぜ」
「その前に地球が滅んでないといいわね」

 そんな可能性すらありそうなのが怖いところだ。
 お腹いっぱいになって、このまま暖かい部屋でだらだらしていたら、ダンジョンに行く気力も失せてきそうだから、そろそろ出た方がいいだろう。

「そろそろ行くか」
「いいわ。行きましょう」

 俺たちは着替えると、揃ってブルーシートの脇から裏庭ダンジョンに入った。
 さっさとヴァンパイアが出るところまで進もうとしたら、蘭華にクロークの裾を掴まれてひっくり返りそうになった。

「まったく何も見えないわ。どうしてこのダンジョンはこんなに暗いのよ。北海道よりも暗いじゃない」

 確かにそうだった。仕方ないので、暗闇に目が慣れるまで手を引いてやることにした。
 手を掴むと蘭華はびくりと震えて顔を上げる。
 初めてのダンジョンに入るから緊張しているようだ。

 しばらくしたら蘭華の目も慣れてきたのか、目についた敵を倒し始める。
 そんな雑魚にかまう必要はなかったのだが、本当に高確率でクリスタルがドロップすると言って、蘭華は喜んで倒しているので放っておいた。

 この辺りで落ちるクリスタルなど、回復魔法が普及したことと病院などからの需要が満たされたことで、最近ではそれほど価値のあるものでもなくなった。
 それでも探索者は多少の無理をしてでもレアなクリスタルを欲しがるものだ。

 クリスタルがあるだけで戦力が何倍にもなるし、持っているだけで生存率は飛躍的に上がる。
 だから無理してまで買うのは嫌でも、欲しいと思っている探索者は多いのだ。

「奥にもっといいものが待ってるぞ」

 奥で出る上級のクリスタルこそ、探索者にとって本当に価値がある。
 一つで生き返るほど回復すると言っても過言ではない。
 シルバーロングソードは、道を塞いでいたエルクを切り口から崩れさせるほどの効果を発揮した。

 これなら魔法は必要ない。
 この異世界のヴァンパイアに銀が利く保証はないが、この剣が通用しないということはないように思える。

 それにしても、異世界の遺物が生み出したわりに、ダンジョンにいるモンスターのコンセプトは地球基準であるのが不思議だ。
 地球で発動したから、それが影響しているのだと思える。

 途中で蘭華の希望により大図書館にも寄ったが、中身空っぽの宝箱が三つあるだけで、図書館だというのに本の一冊もない姿のままだった。
 ひとしきり建物内を眺めた蘭華は、それで満足したのか目的の場所に連れて行けと言ってきた。

 お望み通り、一直線にヴァンパイアのいる場所へと案内する。
 到着と同時にさっそく戦闘が始まり、敵が足元の陰の中に沈み込むように姿を消すと、その辺りの地面に向かって蘭華は剣を突き入れた。

 とたんに血液が噴水のように吹きあがって、ヴァンパイアは煙となって消えてしまった。
 最初だけはそれで倒せたが、やはりアイスランスを使われると近寄ることもできなくなってしまう。

 山本に用意してもらったシルバークロークは、アイスランスの切っ先を丸めてくれるくらいの効果はあったが、物理攻撃でもある万能魔法を完全に防ぐことは出来ない。
 だから骨が折れるくらいの衝撃を受けた。

 この発射されるスピードもサイクルも早い魔法を、蘭華はなんとかかわしている。
 距離さえあれば、どうにか回避できるようだった。
 だから蘭華に敵のヘイトを向けさせて、俺が背後から近寄って倒すしことになった。

 剣の効果に間違いはないので、霧化されても攻撃で元に戻すことができる。
 魔法しか利きそうになかった敵を、思いのほかすんなりと倒せた。
 しばらくすると、白く輝く透明なクリスタルがドロップした。

 体力とマナを完全に回復してくれるクリスタルである。
 遠くの方で、蒸発した汗を白い霧のように纏って走り回っている蘭華が、早く敵を倒せと叫んでいた。

 ドロップ品はすぐに拾わないと、どこに落ちているかわからなくなってしまうのだ。
 クリスタルをアイテムボックスに仕舞うと、俺は蘭華を追いかけまわすヴァンパイアに向かって駆けだした。

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