繫がる世界と俺と君と

ひまわり

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第28話「冬季の思い」

ガイドセンターできた理由(わけ)

「リトは地下にある牢の中で亡くなった。アルトさんはギロチンで殺されている。もしかして……リトはアルトさんと同じ場所で死んだってことなのか?」

 確かに。
 俺が夢で見たのはあくまでアルトの視点からだ。
 なので周りの景色がどうだったのかまではわかっていない。
 だけど先程、冬季はアルトとリトが亡くなった場所だと言った。
 それはつまり、リトは別の場所に隔離されていたわけではなく、ちょうどこの場所で亡くなったということで。

「渚達がどこまで知っているのかは知らないが、アルトが殺された場所の下には地下室があったんだ。ちょうどギロチン台があった真下にな。リトはそこで亡くなっている」

「…………」

 なんと言葉にすればいいのか、なにも思いつかなかった。
 よりにもよって、アルトが死んだその真下にある地下で、リトも同じく朽ち果てたなんて……。
 それが、更に当時の王の残酷さを伺えて、心の奥に言いしれない怒りが募る。

「……アルトもリトも、そんなにも罪深いことをしてしまったとは、俺は到底思えない」

『荒玖……』

 なんとか怒りを封じ込めて絞り出した一言に、アルトが悲しげに俺の名前を呼ぶ。
 俺にしか聞こえていないが、その声色には苦痛の色が滲んでいた。

「それはわかってるよ。だからこそ俺は、ちゃんと形にして弔いたくて、こうしてギルドセンターの地下……当時、リトが亡くなった場所の地下牢の跡地を使って墓を作ったんだ」

「そうか……」

「まぁ、そこに少しの私情は入ってるけどな」

 そう言って申し訳なさそうに眉を下げて笑みを浮かべる冬季は、ポケットから飴玉と懐紙を取り出した。
 墓の中央にある香炉の上に懐紙を広げると、その上に袋から飴玉を三つ取り出してそっと並べる。
 そのまま香炉の中にあった線香を手に取りLPを使って火をつけた。

「二人も知ってる通りレオはアルシアさんの孫だ。俺にとって大切なレオのご祖母さんのとても大切だった人だからこそ、ちゃんとしてあげたいと思ったんだ。まぁ、あまりにも悲しい最期を迎えている二人が気の毒すぎてって理由もあるけどな」

 つけた火に息を吹きかけてかき消すと、白い煙が細い糸のように立ち昇る。
 それを香炉において、冬季は目を閉じて手を合わせた。

 俺と渚もその隣に腰を下ろして、同じように目を閉じて手を合わせる。

 静かな空間の中、聞こえる音はどこからか吹き抜ける微かな風の音だけ。
 地下とはいえ、どこかに風が通る場所を作っているのかもしれない。

「……そういえば、前のときはここまで話してくれなかったよな? 今ならそれを話すことができるってことか?」

俺は合わせていた手を離して、冬季にもう一度顔を向ける。

「別に話せなかったわけじゃなく、話さなかっただけだ。過去について知ること自体が別にLPに反するってわけではないと思うんだよな。むしろこのLPという概念を作ったやつは知ってほしいとすら思っているんじゃないか?」

 そこに関しては俺も否定できない。
 アルトやリトが殺された事実を知ることは、かつてのフィーネ人の罪に触れることと同義だ。
 フィーネを恨んでいるリトからすれば、知ってほしいと思うのは当然か。

「過去はあくまで過去であって、別にLPに直接的に関係しているわけじゃない。ある程度のことは教えられると思う。全てってわけにはいかないけどな」

「……そうか」

 どこまでかは曖昧なところなのかもしれない。
 冬季やレオ、ハルの様子を見る限り、話していきなり消滅するなんてことはないだろうし、曖昧なところは何かの変化でわかるものなのだろう。

(そういえば……)

 俺自身はとくにその類のことに不自由を感じたことはない。
 何も知らなさ過ぎて、なのか……?

 そもそも、アルシアから話を聞いたときはかなり際どいところにいたと思うのに、何故消滅せずにいられたのか。

「知れば、話せる……?」

「うん?」

「いや……過去はあくまで過去ってわけじゃなく、知っているから話が出来るって考えれば辻褄が合うと思って」

「あー……確かにそういう考え方もあるか」

 俺の言葉に冬季が顎に拳を当てて頷く。

「知っていて、なおかつ知らない人がそばにいないなら話すことが出来るって感じかもしれないけど……どうなんだろう」

 渚も小さく唸り、思案顔でそうつぶやいた。

『うーん……そういうわけではなく、単純に渚と荒玖が俺と星琉の血筋であったことが原因だと思うんだけどね』

「…………うん?」

 アルトの言葉に渚と冬季には聞こえないくらいの小さな声で聞き返す。

『君たち二人は、LPの中にいながらこの世界にあふれる俺と星琉の魔力と同じ魔力が流れている。そこも含めてイレギュラーな存在なんだよ。だから、俺が干渉することも出来るし、渚もリトと意思の疎通が出来る』

「え……?」

 渚が、リトと意思の疎通が出来る?
 どういうことだ?

 そう聞きたいけれど、冬季が目の前にいる以上、アルトと話をするのは避けた方がいいという考えもあり、安易に聞き返せない。
 どのみちそこについてはまた落ち着いてから聞いても問題はないだろう。

「まぁ、なんにしても、気をつけていれば消滅するなんてほとんどない。唯一それと隣り合わせになるのはLPがなくなったときだけだ。それも対処法はあるし、この世界で生きていく分には何も問題はない」

「現実的に考えると問題は大アリだろうけどな……歳とかいろいろと……」

 そこのあたりこの世界はどうなっているのだろうか。

「あー……そこに関してはハルから聞いた話だけど、LPが出来てからこの世界自体が男は一定の年齢で体の成長が止まるらしい」

「あ……? 止まる? 歳を取らないってことか?」

「いいや。歳は取る。そうじゃなくて、体の衰弱とかな。不老という言い方が一番近いかもしれない」

 歳はとるけれど、体は若いままってことか?
 老いて死ぬのではなく、若いまま死ぬというような感じなのかもしれない。

「いいことなのか悪いことなのか……」

「男だけってことは、女性は別ってことか?」

 眉を顰める俺の隣で渚が質問を投げかける。
 そういえば冬季は先程、男は、と言っていたか。

「そういえば、ちょっと気になってたんだけど、この世界のLP制度は男性側には不便なものだけど、女性側は魔法で出来たこの世界ではどうやって生きているんだ? 街で出会う女性は別に不便を感じているようには見えなかったし、普通の人間と変わらない生活をしてるのか?」

 男ばかりに目が行きがちになっていたが、そう言われてみるとそうだ。
 女性はどういった生活をしているのか。
 歳は男と違い普通に老いていくとして、生活の方が気になる。

「そういう話はハルから聞いていると思ってたけど、教えてもらってはいないんだな」

「ハルから聞いたのはLPに関してのみなんだ」

「そうか。……女性も一応魔法は使える。家事なんかの時もLPなんて介さずに使用出来るから消滅なんかの心配もない」

「それは羨ましいな」

 そこはやっぱり魔法が使えるってだけで、空海島と同じような感じなのだろう。
 アルトが作り出した世界なのだから、あちらの世界に似ているのは仕方ないが。

「ただ、フィーネ人はあくまでではない」

「ぁ……」

 冬季の一言に渚が小さく声をこぼした。
 なんともいえない神妙な顔つきで俯く姿に、そっとその肩に触れる。

「……いろいろと男性側と同じく制約があるらしい」

「いろいろと?」

 妙な濁し方をされて俺は首を傾げた。
 そんな俺の疑問に答えるように頭の中にアルトの声が響く。

『そこは世界についてのことだから話せなくなっているのかもしれない。一応、俺から教えておくと、フィーネ人は魔力というもので生きている。その自分を構築する魔力を使うわけだから、それ相応に体力が大幅に持っていかれるんだよ』

 フィーネ人は魔力で生きているって……そうだったのか。
 思い返してみれば、アルシアもフィーネ人はアルトが生み出したと言っていたし、間違ってはないか。

『人の中にある魔力っていうのは無限じゃないから、回復するのを待つしかない。だから使うにしてもある程度の制約がいるってこと。それに比べてLPは世界にあふれる魔力を用いて発動しているから制約というものが存在していない』

「……なるほど……?」

 そういうところが空海島と違うのか。
 あちらの世界では魔力の制約というものが存在しない。
 だからこそ呪術士も好き勝手やっているという現状がある。

「まぁとりあえず、用事も済んだことだし一旦上に上がるか。そろそろ荒玖達の服も乾いていると思うしな」

「そうだな。つか、いろいろと世話になってすまない」

 腰を上げてぐっと伸びをしている冬季に俺は軽く頭を下げた。
 そんな俺を見て渚も慌てて申し訳なさそうに頭を下げる。

「それは気にすんなって。頭下げられるとこっちの方が申し訳なくなってくるしさ」

 いつものようにおおらかな笑顔でポンポンと肩を叩かれ、俺はゆっくり顔を上げた。

「とりあえず、しつこいようだけど、ここのことは誰にも言わないようにしてくれ。レオは知っているが、他のやつはこの場所の存在は知らないんだ。もし誰かに知られて荒らされたりとかしたら可哀想だからな」

 アルトは一応、昔は罪人として扱われていた。
 だからこそ、低いにしても荒らそうとするやつがいる可能性は十分にある。
 現状はガイドセンターはしっかりとした侵入対策はされているとはいえ、何があるかわからない。
 少しでもこの場所を守りたい、そういった冬季の気持ちがわかるからこそ、俺はしっかりうなずいた。

「じゃあ、上に戻ろうか」

 先頭に立って歩き出す冬季のあとに続きながら、俺はもう一度墓の方を振り返った。

「……荒玖? 行かないのか?」

 渚の呼びかけに、俺は足も一緒に止まっていたことに気づき、もう一度一歩を踏み出す。

「いま行く」

 どこから流れてきているのかわからないが、頬を緩やかな風が掠めて芝生を音もなく揺らした。
 きっと、ここに来ることはもう二度とないだろう。
 だから俺は、心の中でもう一度だけ、亡くなったフィーネ人へ追悼の気持ちを捧げた。
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