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第3話「君のぬくもりに触れて」
緊張の中で
シャワーを浴びながら俺は放心していた。
頭の中では先程の出来事がずっとリプレイされていて、まるで夢でも見ているのではないかと思うほどだった。
「……渚と……する、のか……?」
嬉しい気持ちが半分と、罪悪感が半分。
仕方がないとはいえ、好きな相手と好きあってするわけじゃないことにものすごく良心の呵責を覚える。
渚は、本当にそれでいいのだろうか。
それとも少しは俺のことを意識してくれているから、ああ言ってくれているのだろうか。
ただの友人に、しかも同性に、気もないのにここまでするだろうか。
もしかしたら、渚も……俺のことを……。
そこまで考えて、その妄想を打ち消すように首を振った。
髪に残る雫がパラパラと辺りに散らばる。
「……ないだろ……。俺のことを、好きなんて……あるわけ、ない……」
そう思っていても期待してしまう自分がいて嫌になる。
「……俺、ちゃんと優しく出来るよな……?」
自分も初めてだが渚もきっと初めてだろうし、そういうことをするとなると渚が下になる以外想像できない。
なら、なるべく痛くないように優しくしてやれる余裕を持たないといけないわけで。
「好きな相手だぞ……暴走しそうで、怖い……」
好きだからこそ優しくしてやりたいけど、好きだからこそ、嬉しくて自制心を保てなくなりそうで。
そんな葛藤で三〇分くらい悩んだ挙げ句、渚を待たせていることを思い出して俺は慌てて風呂から上がった。
さっさと体を拭いて、服を着る。
冬季が用意してくれた部屋着は少しだけ大きかった。
思い返してみれば、渚が着ていた服もダボっとしていた気がする。
タオルで髪を拭きながら洗面所を出ると、渚が窓際で外を眺めていて、窓から流れ込む夜風がサラサラと柔らかな髪を優しく揺らしていた。
どうやら俺が出てきたことには気づいていないようだ。
その唇が優しい音を奏でていることに気づくのに、少し時間がかかった。
いつもよりも小声で口ずさむ歌は、聴き慣れたメロディーで。
心が温かくなるような優しい歌声が、乱れていた俺の気持ちを少しずつ落ち着かせていく。
暫くのあいだ壁に背を預けて、渚の奏でる音にただ耳を傾けた。
「あ……」
ふと音が途切れて閉じていた瞼を開けると、俺の存在に気づいた渚がなんとも言えない表情をしてこちらを見ていた。
「聴、いてたんだ……ここに来る前も聴かれたよなぁ」
困ったように苦笑する渚に、俺はいつも通り静かに言葉を返す。
「そうだな。今回は恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいけど、聴かれてもいいかなって思ったから」
花が咲くように優しく笑いかけてくる笑顔を暫く見つめてから、ベッドに近づき腰を降ろした。
ギシッ……と軋みを上げる音に、渚は一瞬ビクッと体を震わせて。
それでも、俺が何もしてこないことに気づくと、そろそろと肩が当たりそうな距離まで移動してきてくれた。
「…………」
しばらく沈黙が続き、今度は俺から渚に声をかける。
「……嫌なら、今ならまだやめられる」
「……やめ、ない」
俺の最後の確認に渚は僅かな間を置いて小さな声で呟くと、そのまま言葉を続けた。
「やめない……。嫌じゃ、ない。だから、荒玖の心の準備が出来たら……その……よろしく、お願いします……っ」
ぎゅっと目をつむってガチガチに固まる渚に小さく笑みがこぼれた。
本当は怖いはずなのにここまで必死になって受け止めようとしてくれる優しさに、愛おしさがこみ上げてくる。
「緊張しまくってガチガチになってるぞ。お前の方が心の準備、必要なんじゃないか?」
「さっきまでしてたからっ! だ、大丈夫っ……!」
真っ赤になって頬を染める渚の手に、安心させるようにそっと触れる。
「ぁ……」
キツく閉じていた瞼をゆっくり開いて、俺を見上げてくる蒼い瞳を見つめ返してから、その頬に手を添えた。
頭の中では先程の出来事がずっとリプレイされていて、まるで夢でも見ているのではないかと思うほどだった。
「……渚と……する、のか……?」
嬉しい気持ちが半分と、罪悪感が半分。
仕方がないとはいえ、好きな相手と好きあってするわけじゃないことにものすごく良心の呵責を覚える。
渚は、本当にそれでいいのだろうか。
それとも少しは俺のことを意識してくれているから、ああ言ってくれているのだろうか。
ただの友人に、しかも同性に、気もないのにここまでするだろうか。
もしかしたら、渚も……俺のことを……。
そこまで考えて、その妄想を打ち消すように首を振った。
髪に残る雫がパラパラと辺りに散らばる。
「……ないだろ……。俺のことを、好きなんて……あるわけ、ない……」
そう思っていても期待してしまう自分がいて嫌になる。
「……俺、ちゃんと優しく出来るよな……?」
自分も初めてだが渚もきっと初めてだろうし、そういうことをするとなると渚が下になる以外想像できない。
なら、なるべく痛くないように優しくしてやれる余裕を持たないといけないわけで。
「好きな相手だぞ……暴走しそうで、怖い……」
好きだからこそ優しくしてやりたいけど、好きだからこそ、嬉しくて自制心を保てなくなりそうで。
そんな葛藤で三〇分くらい悩んだ挙げ句、渚を待たせていることを思い出して俺は慌てて風呂から上がった。
さっさと体を拭いて、服を着る。
冬季が用意してくれた部屋着は少しだけ大きかった。
思い返してみれば、渚が着ていた服もダボっとしていた気がする。
タオルで髪を拭きながら洗面所を出ると、渚が窓際で外を眺めていて、窓から流れ込む夜風がサラサラと柔らかな髪を優しく揺らしていた。
どうやら俺が出てきたことには気づいていないようだ。
その唇が優しい音を奏でていることに気づくのに、少し時間がかかった。
いつもよりも小声で口ずさむ歌は、聴き慣れたメロディーで。
心が温かくなるような優しい歌声が、乱れていた俺の気持ちを少しずつ落ち着かせていく。
暫くのあいだ壁に背を預けて、渚の奏でる音にただ耳を傾けた。
「あ……」
ふと音が途切れて閉じていた瞼を開けると、俺の存在に気づいた渚がなんとも言えない表情をしてこちらを見ていた。
「聴、いてたんだ……ここに来る前も聴かれたよなぁ」
困ったように苦笑する渚に、俺はいつも通り静かに言葉を返す。
「そうだな。今回は恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいけど、聴かれてもいいかなって思ったから」
花が咲くように優しく笑いかけてくる笑顔を暫く見つめてから、ベッドに近づき腰を降ろした。
ギシッ……と軋みを上げる音に、渚は一瞬ビクッと体を震わせて。
それでも、俺が何もしてこないことに気づくと、そろそろと肩が当たりそうな距離まで移動してきてくれた。
「…………」
しばらく沈黙が続き、今度は俺から渚に声をかける。
「……嫌なら、今ならまだやめられる」
「……やめ、ない」
俺の最後の確認に渚は僅かな間を置いて小さな声で呟くと、そのまま言葉を続けた。
「やめない……。嫌じゃ、ない。だから、荒玖の心の準備が出来たら……その……よろしく、お願いします……っ」
ぎゅっと目をつむってガチガチに固まる渚に小さく笑みがこぼれた。
本当は怖いはずなのにここまで必死になって受け止めようとしてくれる優しさに、愛おしさがこみ上げてくる。
「緊張しまくってガチガチになってるぞ。お前の方が心の準備、必要なんじゃないか?」
「さっきまでしてたからっ! だ、大丈夫っ……!」
真っ赤になって頬を染める渚の手に、安心させるようにそっと触れる。
「ぁ……」
キツく閉じていた瞼をゆっくり開いて、俺を見上げてくる蒼い瞳を見つめ返してから、その頬に手を添えた。
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