繫がる世界と俺と君と

ひまわり

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第8話「この気持ちの名前は」

フィーネの御伽話

 そのあと、夕食を終えてからいつものように風呂に交代で入る。
 先に渚に入ってもらって、その間に俺は机を拭いたり茶碗を洗ったりと家事をしながら時間を潰していた。
 このあとのことを考えただけでそわそわして、動いていないと落ち着かなくなってしまうのだ。

 それでもやること自体は少なく、部屋の片付けをしようにも、いつも渚がキレイにしてくれているおかげか物が散乱していたりすることもなく、直ぐやることがなくなってしまう。
 仕方なく今日借りてきた本を鞄の中から取り出した。
 改めて表紙を見てみると著作者の名前は書かれておらず、奥付を見ても編集者や本を発行した発行人、印刷会社、印刷回数を示す版なども特に記載されていなかった。

「……変な本だな」

 とりあえず、読みかけていたところから続きを読み進めていく。
 LPについてのさらっとした説明の他に、フィーネの土地のことについても書かれていた。
 と言っても、なにか関わりがあるようなことではなく、昔はここの場所にこんな建物があったなどの豆知識のようなものばかり。
 昔の歴史とあったので、まぁそんな内容になるだろうなとは思っていたが収穫はなさそうな感じだった。

 が、次のページでは急に文体が変わり、太字の明朝体で『フィーネのおとぎ話』と印刷された文字が目に入る。

「おとぎ話……?」

 その後に続く文章はこう記されていた。


 むかし むかし あるところに
 いつも一人の 男の子がいました

 そんな男の子を見かねた神様の少年が
 男の子に声をかけて
 たいそう 可愛がったそうです

 二人は いつしか お互いを好きになり
 二人の間に 愛情が芽生えました

 しかし そんなある日
 二人の住む世界に 愛を引き裂く条例が出来たのです

 同性での結婚や性行為などを禁止するというものでした
 違反したことがわかった場合
 どんな理由であれ 死刑になるというとても辛い条例のせいで
 二人は一緒にいることが
 少しずつ困難になっていきました

 当時のその世界を統治していた王様は
 同性愛に対する 嫌悪が激しく
 それ故に そのような条例を設けることにしたそうです

 しかし二人は お互いを諦めることが出来ませんでした
 周りにばれないように こっそり逢い
 二人は二人の愛を育んでいったのです

 お互いがお互いを必要以上に愛してしまい
 条例だとしても嫌いになることなどできなかったのです

 一人ぼっちの男の子には神様の少年が必要でしたし
 神様の少年には一人ぼっちの男の子が必要でした

 しかし そんなある日
 二人の関係が王様にばれてしまったのです

 一人ぼっちの男の子は薄暗い牢屋に閉じ込められ
 神様の少年は見せしめに処刑されてしまいました

 それを知った一人ぼっちの男の子はたいそう悲しんだそうです
 そして一人ぼっちの男の子も牢屋の中で孤独を抱えたまま 亡くなってしまいました

 言い伝えによると牢屋の中に閉じ込められた男の子は
 牢の中で神様の少年の名前を呟きながら
 その世界への呪詛をずっと口にしていたのだとか

 そのご その世界の王様が
 突然 亡くなり
 怖くなった次期王は その条例を解除したそうです


 おとぎ話はそこで終わっていた。
 オチもよくわからず、誰も幸せになれない後味の悪い終わり方に違和感しか感じない。

 だけど、その物語にはどこか既視感があって。

「……渚も何か、これに近い夢を見てなかったか? それにこの条例って……同性愛禁止条例のことだろうか……」

 渚の夢に関してはわからない。
 二人という部分と、誰かが殺された、という部分だけなら当てはまるような気がしなくもない。

 だけど、この物語はという書き方になっていて、渚が話していたのはという言葉だったので当てはまらないような気もする。

 なら、何故俺はこの物語に既視感を覚えているのだろうか。

「……わからん」

 本を閉じて椅子の背もたれによりかかる。
 考えても考えても既視感の答えは出ず。
 渚が風呂から上がってきたことで、一度読むのを中断して俺も風呂に入ることにした。

 今はとにかく、LPのことは忘れておこう。
 せっかく渚と恋人になって精神的にも幸せで満たされているのに、嫌な気分になりたくはない。
 それに、レオが詳しい人を紹介してくれると言ってくれたので、その人に頼った方が断然、正確な情報を得られるはずだ。

 それよりも、この後に渚とちゃんと恋人として愛し合うということの方が一番大事なことだった。
 しっかりいつも通りに優しくリードしてあげられるといいのだが。

 体を重ねた回数なんてたったの二回で、まだ少し緊張してしまう。
 いや、今後もきっとこの気持ちは変わらない気もするが。

 とりあえず、急いで髪と体を洗って湯船に肩まで浸かる。

「といっても、もう一度入ることになりそうだ……」

 ぶくぶくと頭からお湯の中に沈み、高鳴る鼓動を必死に落ち着けようとするが、全く落ち着く様子はなかった。
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