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人形集め

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F子さんの父親は、人形が好きだった。

100円ショップなどから小さな人形をひたすら集めてくる。

父の寝室には、夥しい数の人形が置かれた。棚やテレビの上など、隙間なく人形が置かれていた。
そのためホコリが溜まる。数年前の人形には、雪を被ったようにホコリが積もってい
た。

そんな父の趣味がF子さんは嫌だった。母親も「いつか処分してやる」と言っていた。
だが、父は人が良く、温厚でいつもニコニコしていたので強く責める気にはならなかった
そうだ。

「人形何とかしてよ」とF子さんが言っても、「ごめんごめん」と笑ってごまかしていた。

人形は新しいものに更新されるようで、いつの間にか古いものがなくなっていることもあった。おそらく、父自身が処分するのだろう。

とは言っても、部屋から溢れそうなほど集められた人形にはF子さんも嫌気がさしていた。

父は高速道路で工事の仕事をしていた。時折、交通量の少ない深夜に仕事をしたりするので、日中いないこともある。

F子さんと母は、その間に人形を片してしまおうと話し合った。

ある日、F子さんと母は決行した。
父の人形を1つ残らずすべて処分し、ホコリを部屋から払ったのだ。

父の寝室は見違えるほどきれいになった。
仕事から帰宅した父は愕然としていた。
F子さんと母は、若干気の毒に思いつつ、処分したと告げた。

父は青ざめた顔をして「参ったなあ…」と言っていた。

翌日、父は仕事に出勤する際「仕事に生きたくない」と言い始めた。
父がそのようなことを口にするのは初めてだった。

行きたくないと母へ泣き言を言っていた。
母は軽くいなして、「いつも感謝してるから、頑張って」と励ましていた。
F子さんは人形を捨てられたのがそんなにショックだったのかと思ったそうだ。
父は、青白い顔をして、何かに怯えているようだった。

そして「参ったなあ」と呟いて、最終的には仕事へ向かった。

F子さんの父は、その日工事現場に突入してきたトラックに撥ねられ、帰らぬ人となった。

葬儀場で、F子家族は父の同僚からある話を聞いた。

父は妙な「ゲン担ぎ」をしていて、仕事中に人形を荷物に忍ばせ、仕事が無事終わるとそれを捨てていたそうだ。

父は同僚に「安全のための、身代わりさ」と笑って話していたらしい。

事故後、同僚やF子さん家族が父の荷物を片付けたが、荷物の中に「人形」はなかったという。

F子さんは、いまでも後悔に苛まれているという。


【おわり】
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