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かけてはいけない電話番号(前編)

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中国地方にあるS町の話。


S町には妙な噂があり、「かけてはいけない電話番号」という怪談があった。


その番号は「08×-×××ー××××」というもので、電話を掛けると良からぬ事が起こるという話だった。


S町にある海洋系大学に通うN男君は、「そんなバカなことがあるものか」とその電話を試してみることにした。


N男君は県外出身で、町の人間でもないので噂や怪談の類は全く信じなかった。



しばらくして決行の日が来た。


N男君は海沿いのアパートの2階に住んでいた。

海が見え、波の音の聞こえる部屋だ。

N男君はビールを飲みながら、野球中継を見ている。


よし、そろそろいいだろう。

N男君は、電話をかけてみた。


「…この電話番号は現在使われておりません…」


単調なアナウンスが繰り返される。


なんだ。

結局はしょうもない噂か。

N男君はがっかりして電話を置いた。


N男君は再びビールをあおる。


その時、電話が鳴り響いた。


画面を見ると、先ほど発信した「かけてはいけない電話番号」から着信が来ていた。


N男君は一瞬凍り付いた。

さっき、「使われてない」って言ったはずだが…


N男君は電話を取る。

「もしもし」


「…この電話は現在…」

先ほどのアナウンスが短く流れ、突然「ブッ」と音声が消える。


そして、屋外であろう音声を拾い始めた。

通話者は屋外にいるのだろうか。

そもそも、だれか通話者がいるのだろうか。


風の音と、車の行きかう音が聞こえる。

だれの声も聞こえない。


すると、遠くで

「…○○、○○です。この電車は、○○方面行きです。」

と、駅のホームの放送が聞こえてきた。


その駅は、N男君のアパートにほど近い駅の名前だった。


ほろ酔いだったN男君は、一瞬で酔いがさめた。

なんだこれは、質の悪いいたずらか?


すると、電話は切れた。


N男君は携帯を見る。

間違いない、あの電話番号である。


それからすぐにまた着信が来る。


「あんた誰だ?」N男君が強く聞く。

だが、電話の相手は答えない。


相手の電話からは、海岸沿いの、波の音が聞こえる。


「しょうもないイタズラはやめろ」

N男君は、自分が始めたことを棚に上げ、強く言うと電話を切った。


「くそっ!ヒマ人かよ」

N男君がビールを飲む。


また、着信が鳴る。

電話番号は、あの番号だ。


「もしもし!」N男君が応答する。「なんだよ!」


だが、相手は何も言わない。


ただ屋外の音が聞こえてくるだけ。


遠く、かすかに声が聞こえる。


歓声や、威勢のいいアナウンスだ。

「さあ…カウントツースリー…あとがありません。おっと、打ちました!ボールは左遊間へ…」


野球中継だ。

それも、今N男君が見ている中継と音声が同じだ。


N男君は窓を見た。

窓は開け放し、網戸だけ閉まっている。


テレビの音が漏れることはあるだろう。


N男君は完全に酔いが覚め、背筋が寒くなった。


もしかして、近づいてきている?


N男君が怯え始めた時、聞きなれた音が電話から聞こえた。


かつん…かつん…かつん…



【後編へつづく】
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