【怖い話】さしかけ怪談

色白ゆうじろう

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寒波とともに 【前編】

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配達業のAさんの話。

Aさんは寒波襲来の中も、配達業務に励んでいた。
個人事業なので、頑張らないと食うにも困る。
防寒下着と厚手のジャンパーを着込んで、田舎町をバイクで走った。

ただでさえ気温の低い山間部の町だ。
寒波の猛威は凄まじく、厚手のジャンパーの隙間から容赦なく冷たい空気が入り込む。

山はうっすら雪を被り、雪混じりの凍るような風が町に吹き渡る。

Aさんはバイクを止め、歩いて家々を回る。
周囲の家は山あいにあり、雑木林を歩いて回る必要がある。

手袋の中にも冷たい空気が入り、長靴の中は冷蔵庫のように冷たい。
靴下を履いたはずが、つま先の感覚もない。
雑木を縫って、刃物のような冷風がAさんに吹き付ける。

「どうしてこんなに寒いんだ……。雪は積もってもないのに」
Aさんがつぶやく。

確かに、家々の周りは路肩に雪を残す程度で積もっていない。

雑木林も、地面の方には大して雪はなかった。

だがあまりに寒い。

Aさんは腕を組んで縮こまる。
カイロやお湯が欲しい。
顔の表面は氷のように冷え、指先も感覚がない。

厚いジャンパーも防寒下着も効果はない。
ゾクゾクとした悪寒のような感覚が背中を走る。

おかしい。
あまりに寒すぎる。
俺の体調が悪いのだろうか。

Aさんは顎をガチガチ言わせながら考えた。

そんな事はない。
朝もすこぶる元気だった。

この雑木林に入ってからだ。
今までも入ったことはあるのに、こんな寒さは初めてだ。
寒波が来たせいだろうか。

不意に、背筋が凍るような、おぞましい悪寒がした。

Aさんは振り向いた。

振り向いた先は雑木林だ。
薄暗い木々の間に、若い女性が立っていた。

長い黒髪を垂らし、白っぽいドレスを着ている。
フリルの付いた一見可愛らしいドレスだ。

Aさんは後退りして、尻餅をついた。
顎が烈しく震え始めた。

女性のドレスは和風のように襟合わせがある。

襟は左前だった。

【続く】
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