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第五話.他人の金で食べる飯は上手いか?

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 ガリア王国それがこの国の名前だ。生活水準はとても良いものとは言えず孤児や不労者をたまに見かける。ただ、魔法があるだけまだマシだと思う。
 時代は中世が1番近いと思われる。実際の中世がどれ程の生活水準か知らないので深く掘り下げた比較は出来ない。しかし、ここまで見てきた街の話ならできる。

 この街は大きく分けて三段階の区画に別れておりそれぞれの区画が内側から第一防壁と第二防壁、第三防壁と言う順番で隔たれている。

 第一防壁より内側は高級官僚や貴族、その他位の高い軍人等が住んでいる地域、第二防壁より内側はこの街の運営に必須な役人や軍人が住む地域、第三防壁より内側つまり、今いる地域は商工業者や本百姓(自分の土地を持つ農民)らが住む地域だ。
 だがこの街にはドラゴンやワイバーンが往来し、街は壁みたいなバリケードと魔方陣で覆われている、恐らく防御用。かなりの数が往来するため安全上あまり良いとは思えない。

 酒場に入ったこんな場所なのに昼間っからギルドの親方は飲み始めてる呑気なもんだ。

 比較はできないが今いる場所は手工業者や商工業者、交易の商人に魔法使いの量は農業者より多い気がする。もしかしすると、ここは都市の商工業が盛んな区画なのかもしれない。
 農業者やその他の居住地域とはまた違った特徴を持っている。理由なら製鉄などの加工が行われる際にでる煙が近くの建物の煙突から出ていたからだ。

 現在の気候で暖を取るのは考えずらい、それに商工業者の腕に付着している煤がこの地区が商工業エリアである事を物語っている。
 現代で言う所の第二次産業はこの異世界において最先端技術であり、量産体制が整っていないため多少の差はあるが一般市民の中でも最も裕福な部類に当たるだろう。つまり、この地区の物価は高めに設定されてるはずだ、大丈夫だろうか?少し心配になってきた。

 金はあの少女から預かった(奪った)金がある。一時的にだがこれで暮らせるだろう。
 賞金首狩りをするなり、モンスターを狩るなり、軍隊に入って権力握るなりギルドに入ってになって相変わらず社畜するなり、進み方は色々あるようだ。俺の場合は別で試すことが山ほどある、枠にはまった生き方なんてするつもりはさらさらない。

「ほんとあんたってクソ野郎よね。人のお金でご飯食べるなんて」

 そう酒場で色々考えていたら先程捕まえた少女が声をかけてきた。

「超美味しい、そういやお前の名前を聞いてなかったな俺はショウゴって言う、宜しくな」
「セラよ、宜しくショウゴ」

 この赤髪ポニーテールで小さくて以下にもツンケンしてそうなのはセラという名前らしい。
 余談だが、こいつが小さく見えるのは俺の身長が伸びたと言うのとこの世界の平均身長が低いところにあると思われる。

「宜しくセラ、お前もこの飯食べるか?」
「いらないわよ!そのご飯は・わ・た・し・の・お・か・ね・で食べてるの忘れてる?それに今あんまりお腹すいてないの」

 お陰様でとても良い思いをさせてもらっている。
 シチューとパンと質素なものだが俺は呆気にとられていた。こんなにうまい飯を食べるのは何年ぶりだろうか?現世でろくな飯を食べてなかったからとても有難い。
 店の雰囲気も悪く無い。海賊や山賊のような野蛮なヤツらだらけだがそれもまた引き立てている。

 机も酒を入れる食器も木で出来ていて粗末な物だが味は深く濃くとても美味しい。一体どうやって香辛料などがあまり種類の無いであろう時代にここまでの味を出せるのだろうか。やはり、昔ネットで調べた中世の内容とは全く違う。

「余裕が出来たら返すつもりだから大丈夫だって」
「余裕?つもり?絶対返す気ないでしょ」

 作成可能かは不明だが武器制作に関しての実験に成功すれば金は充分返してやれるだろう。

「それより、お前って歳いくつなんだ?大人だのどうの言ってたけど?」
「私は18歳よ立派な大人でしょ?」

 思っていたより年は上だったが18歳ってまだまだ子供じゃないか。容姿は中学三年生くらいだし、発育が悪いな。

「まだまだ子供だな、俺は23歳だ。お前よりかなり大人だぞ?」
「嘘っ、いくら身長高いからってそれは無いでしょ。同い年ぐらいなんじゃないの?」

 このおっさんと間違えられた俺を中学三年生程度の奴と一緒だと?目が腐ってるんじゃないか?しかし、よく考えてみれば転生した時に身長も高くなってるから容姿が変化してる事は考えられるな。

「同い年は有り得ない。容姿は若いかもしれないが中身は別だ」
「容姿と中身が別って意味わかんない。どうやったらそんなに大きくなれるの?やっぱりご飯もっと食べないといけないのかな?」
「気にしているようだが飯の量は関係ない遺伝だ。それに18ならもう諦めろ」

 チラッと胸を見てしまった。・・・・・・慎ましやかだ。

「なっ!どこ見てんの!?別に身長とか胸とか気にしてないし!私平均よりちょっと小さいくらいだし!」
「セラは容姿にコンプレックスがあるんだな。俺は何も聞いてないぞ?特に話の流れ的に胸なんて関係ないだろ」
「セクハラ!変態!しかもさっきガン見してたでしょ!しらばっくれないでよね」

 俺はパンを頬張っていたら思いっきりビンタされた。なぜビンタされたか分からない。痛い。男は見ちゃうんだよ!そういうところを!仕方ないじゃないか。
 でも、セラは身長と胸の発育が悪いことが気になるそうだ。そこを指摘してしまったからかもな。

「悪かった、悪かった。このパンやるからそんな怒るな」

 俺は最後のパンをセラの口に無理やり押し込み詰め込む。

「ハグっ!フガフガ!フガッ!ングっ!」

 パンを急に喉に押し込まれたせいで息ができていない、さっきビンタしたお返しだ。
 しっかりと噛み砕きパンを飲み込んでいる。なんと言う生に対する力強さ。

「ほらこのパン美味しいだろ?」
「ングっ!ゴクッ!急に何するの!?ほんと最低!」

 普通の女の子ならこんな物を突っ込まれたらどうなっていただろう。確信とまではいかないが分かる、この子は生命力の高い子だ。

「一人だけ食べてるのも悲しいから分けたんだよ。それでお味はどうだい?」
「ほんと、固くて嫌い。それにアンタの手でちょっと温もってて気持ち悪い」
「そうだな、固いパンだ」

 出された飯をすべて食べきった。久しぶりのちゃんとした飯にありつけて満足だ。

「セラ、この近くに鉄鉱石とか言う石の加工場は無いか?特にあんまり使われてなさそうな所が良いんだけど」

 俺は次の行動に出る。この世界で武器を制作する事を考えていたのだ。それに一番基礎の部分からやってみようと思う。

「鉄鉱石?なにかの石?そんなの知らない」

 どうやらセラは鉄鉱石を知らないらしい。

「鉄とか銅とかの元になる石みたいな奴の事だよ」
「あーっ、鉄になる石ね知ってる。でもそんなのの加工場に行って何するの?」
「それは後で教えてやる、とりあえずそこに連れてってくれ」

 俺はシチューとパンの飯代を払い、セラと共に店を後にする。飯の値段は銅貨が5枚でセラが元々持っていた金は銅貨約70枚。
 もう少し持っていると思っていたのに、やはり現実は甘くない。

 このままだとすぐに金が尽きる。やむを得ない、働きたくないけど働かざる負えないか。地べたを這いずり回ってでも生きるって決めたんだ。
 それに能力はゲームほど高くないけどそこそこある。元いた世界とは違う、折角のチャンスだ。

 この世界を散策する事は旅行に似てるし楽しい。けど労働は嫌だ、頑張らなくても良い仕事なら別にしてもいいけど頑張らない仕事なんてない。でも、チャンスを無駄にしたくない。

「ここの道を進んでくと加工場に着くから」
「この店沿いの道にあるんだな?」
「そうよ、結構近い場所にあるわ。それにこんな加工場なんてここの区画に沢山あるわ」

 やはり予想どうりだった、いや、予想以上だ。商業地区だと思っていたけど凄い。
 武器装飾品だけじゃない、訳の分からない部品や道具の店、製鉄業だけでなく鍛冶屋とか手工業もある。凄い、服屋だって普通ならこんな煤だらけの所にこんな沢山作らないだろう。けど、ここには沢山ある。
 何もかもが規格外すぎて驚きを隠せない。

「セラ!ここら辺って何でこんなに鎧や剣の店まで揃ってるんだ?それなりにでかい街なのは分かるが凄い活気だ」
「この街の商工業地区の隣に山へ出れる地区があるでしょ?ここはモンスターがとても多くてそれを狩ればご飯に困らないし、大きな川がこの街に通ってて立地がいいのよ」

 川に山に平野、定住するのに完璧な土地だ。首都クラスの立地の良さだろう。

「ここはガリア王国の首都なのか?」
「違うけどかなり大きい地方都市ではある。ねえ、本当にあなた何も知らないの?」

 この規模で地方都市、街の外の人間も含めると人口はかなり多そうだ。
 行き交う人々は相変わらず元気だ。街の入口近くにスラム街なんかもあったがあそこの人々も元気だった。セラの家もそのスラム街の隠れた場所にあるらしい。

「何も知らない、そもそもこの世界の知識は殆どない」
「変なの、どこか頭のネジ飛んでるんじゃないの?」

 ネジが飛んでなきゃこんなのを頼る必要性もなかっただろう。与えられた情報量は最低限、この世界を救うこと。与えられた能力の概要も不明。
 全くもって未知の世界、未知の空間、焦らず冷静に魔法を使ってる俺が一番おかしいのは分かってる。
 まあ、コイツはそんなこと知らないから本気で馬鹿にしにきてるだけだが。

「俺は正常だ。だけどセラ色々と教えてくれないか?この世界の事」
「正常だ?それに急に改まって。気持ち悪るっ」

 酷い言われようだ、口を開けば悪態をつく。
 めちゃくちゃ嫌われてるな、仕方ないかこいつの金奪ってるんだもんな。

「ここ加工場だよ。でもこんな所で何するの?」

 階段で建物のしたの入口に向かう。どうやら地下らしき場所に作業場があるようだ。
 着いたのは小さな加工場で主に製鉄がメインだ。特に稼働している様子も無く人も居ない。暗くて閉鎖的な空間だけが広がっていた。

「武器を作る、できるだけ品質の高くていい剣を作りたい」
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