『無能』扱いで追放されましたが、実は『バフ』に特化していることが判明したので最強のパーティーを作ろうと思います

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第5話:ミアとの一夜

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~あらすじ~

 リクは転生した直後、特別なスキルを与えられなかった『無能』と診断され、王都から辺境へと追放されてしまう。

 辺境の町でリクは炎使いの少女ミアと出会い、協力して泥棒を退治する。
 そこでリクは、他者の強化に長けた『バフ』スキルにおいて人智を超えた力を秘めていることが明らかになる……。

 用事を済ませて食堂へやってきた二人は、用心棒のロイが『バフ』を受けて作った絶品料理に舌鼓を打つ。
 そして雑談に興じるうち、ミアが身の上を語り始める。


*****


 しばらく他愛もない話をしたあと、ミアが重たく切り出した。

「実を言うと、アタシこうやって自由に身体が動かせるだけでも不思議で仕方ないの」
「え?」

 ミアはぱかぱかと空中で右手を握り、また開けるのを繰り返す。
 自分の手を見るミアは、先程までとは違う大人びた雰囲気を身にまとっていた……。


「……どういうことなのか、聞いてもいい?」
「……ん」

 ミアは流し目をして、深呼吸を一つすると話し始めた。


「アタシはね、もともと前の世界じゃ寝たきりだったの。
 10歳ぐらいの時だったかな……交通事故に遭ったのよね。
 車に乗ってお昼寝してた間にパパもママも居なくなって……アタシも、身体が全然動かせなくなって……」
「……事故に遭ってから……ずっと?」

 あまりにも恐ろしい境遇だった。
 僕が学校の友達関係だとか成績だとかで一喜一憂していた間も、彼女はきっと限られた景色しか見ることを許されなかったんだ。

「ええ……それが続いて9年目。
 ある日、目が覚めたらめちゃくちゃにベッドが揺れてた。
 多分地震だったのね。結局何も出来ないまま、こっちの世界に来ちゃってたわ」

 ふぅ……と、ミアは深い溜息をついた。
 苦しそうに胸へ手を当て、瞑った目には涙が浮かんでいる。
 本当は思い出すだけでも嫌だったんだろうと直感した。

「ミア、話してくれてありがとう。
 子供っぽいなんて言って……本当にごめん」

 彼女にはきっと、年相応の経験や成長を積む機会なんて与えられなかったんだ。
 突然身体の一部を奪われて、自由に生きる権利も奪われて……。
 そんなのバカにしていいわけがない。

「ん……ううん、聞いてくれてありがと……。
 ちょっとだけ……ラクになったと思うから」

 ミアは僕の手をそっと握った。
 テーブルの下、僕たちは何も言わずにお互いの存在を確かめ合う。

 境遇がどうであれ、今の僕らは確かに五体満足で生きている。
 いきなりE級だとか『無能』だとか散々言われてきたけど、それだけでも喜ぶべきなんだ、きっと。


*****


「お客様、遅くにお越しになりましたね。
 生憎ですが部屋は一つしか空いておりません……」
「はい、じゃあそれで……ってえぇっ!?」

 やられた。
 ギルド公認の宿があると聞いてやって来たけど、部屋がほとんど埋まっているなんて。
 そうか……公認なら安全に寝られるだろうなんて考えるのは、ちょっとでもお金のある人ならみんな同じ。人気があって当然か。

「えっと……ベッドとかは……」
「シングルサイズが一つだけですが……お客様はお二人ですね。どうされます?」
「……」
 
 このままだと片方だけ泊まるか、片方がベッドを使って片方は床に寝るか……それとも危険を犯して別の宿を探しに行くかだけど……。

 逡巡している僕に対して、ミアの判断は速かった。

「そ、それでいいです。一部屋で」
「よろしいのですね? お連れ様も」
「み、ミア……」
「だって他に宿探す元気なんてないし、一部屋なら安くて済むじゃない。
 文句言わずに付き合いなさいよね!」

 ミアは顔を真っ赤にして言い切った。
 その剣幕に言い返す気力すら、歩き回ってへとへとの身体には残されていない。

「分かったよ……」
「……お話がまとまったようで。
 ではこちらへ。二階への階段を上がってすぐですよ」

 ばたりと扉を閉めたあと、僕は一応再確認をする。

「これでいいんだね?
 もちろんベッドはミアにあげるけど……」
「……え? 何言ってんのよ」

 ミアは早速ベッドに横たわり、不思議そうに僕を見ていた。

「……やっぱり僕だけ外で寝てくるのが正解だった?」
「いやいやいや、そんなことしなくていいからっ!
 アタシは……一緒にベッド使えばいいでしょって、言ってんのよ……。
 そんなことも分かんないの? このバカ」

 僕は言葉を失って彼女を見る。
 何度も言わせるなというように、ミアは僕を手招きしていた。

 おずおずと荷物を下ろし、狭苦しいベッドへと潜り込む。
 僕はどんな顔をしたらいいか分からなくて、ミアへ背中を向けた。

「……ほら……これなら二人分の熱であったかいし、効率いいじゃない……」
「うん……でも、変態とか言ってたのに……」
「た、確かに最初はあんな目に遭って怖かったけど……
 アンタは何も変なことしないって、ちゃんと分かってるから……」

 緊張して強張った身体に、柔らかい感触が伝わる。
 そっとお腹の方へ腕を回され、背中に人肌の温かみが密着した。
 薄い肉を通り抜けて、心臓がどくんどくんと力強く動くのが分かる。
 下手に動くこともできなくて、僕の身体はますます緊張してしまう。

 だけど、優しく手を握られると静かに鼓動が落ち着いていくのを感じた。
 僕だけじゃない。背中に感じるミアの鼓動もそれは同じだった。

「ん……やっぱり手ぇ握ると、落ち着く……♪」
「ぎゅってする必要は、ないん、じゃ……」
「うっさい……抱きまくらとかも、憧れだったの……代わりになりなさいよ……」
「…………僕が何かしたらとか、本当に怖くないの……?」
「……手握ってれば、アタシのパンチでリムが地面に突き刺さることになるでしょ?」
「あ、そっか……!」
「ふふ……♪ やっぱバカね……♪」

 そうして会話が途切れると、やがて背後からすぅすぅと小さな吐息が聞こえ始めた。
 やっぱり疲れ切っていたのだろう。
 かく言う僕も、もうだんだん頭が回らなくなってきた。
 
 ……本当に、今日はいろいろあったな……。


 これからは……もっとゆっくりできるといいな。



 簡単な仕事を探して……適当に美味しい食事を食べて、ミアとお喋りして……。




 そんな風に…………過ごせたら…………十分…………




*****


 翌朝、ギルドに向かった僕たちはさっそく騒動に巻き込まれた。
 これから平穏な生活が始まることを期待していたけれど、そう簡単には行かないみたいだ。

「──どうか娘を助けてください!!
 娘が……娘が行方不明なんです!!!」
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