鬼神子ト影法師

Some/How

文字の大きさ
2 / 8
第一章.鬼神子出郷騒動

第二話「初船出」

しおりを挟む
 鬼族の住まう島、鬼ヶ島とも呼ばれるその島には西南にある大港の他複数の船着場が点在している。
 シュラと玉梓は島の北東部にある船着場から島を出ることにした。

「して玉梓よ、斯様な策で上手く事が運ぶのか」

 櫂を漕ぐ傍付きにシュラはそう零した。

「さぁ、相手は大旦那様及び郷の鬼衆総て。そして何より影神子様も貴方を郷に連れ戻そうと奔走なさる事でしょう。大嬢様の出郷、首尾よく進むかは運が大きく絡みます。」

「そうか、あっちにはユラもおるのか……彼奴あやつは儂の影であるのだから儂に味方してくれてもよいとは思うのだがなぁ。そう思わぬか?」

「大旦那様もユラ様も、そして郷の鬼衆達も来たる次代の鬼神となる貴方の身を案じておるだけでございます。」

 シュラは玉梓のその言葉に少しバツの悪そうに目を伏せながら瓢箪を煽る。

「そんなことは解っておるわ。……じゃが、儂は外を見たいのじゃ。ガキの頃に郷を訪れたあの冒険者の紡いだ冒険譚、あれが嘘か誠か。あの狭い島にいつまでも留まって居れば安泰なのは確かじゃが、それではつまらん。一度しかない我が生、浮世を渡るのもまた一興じゃろうて」

「島の外の話ならば、わえが幾らでも語りますのに、それでは不満ですか」

「不満も不満よ!聞くだけ聞いてこの身で味わえぬなど、歯痒過ぎるわ」

「そうですか。」

 シュラの言葉に呆れたように笑いながら玉梓は船を進めていく。

「それにしてもこんなチンタラした船では親父に見つかれば一足で追いつかれそうじゃな」

「大嬢も櫂を握って下されば随分と速くなるはずでしょうけど」

「玉梓よ、主人を働かす気か」

「いえいえ、大嬢の剛力で以て海面を掻けば大旦那様も追いつけぬのではないかと。わえはあまり力が強くありませんので」

 そう言ってゆったりと櫂を漕ぐ玉梓にジロリと睨みを利かせるも効果は無い。

「……ハァ。儂も漕ぐか」


﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏


 暫く船を進めるも海原景色に何ら変化はない。
 然しシュラは生まれてこの方航海どころか郷から遠出することすら許されはしなかった。
 故に果てなく続く一枚絵も彼女からすればその目に映る全てが強烈にしんに刺さる。
 水面に映る星屑の美しさに櫂を回す手が止まる。
 そんな主の様子を我が子を見守る様に優しい顔を向ける玉梓。

「……なんじゃ」
  
 自身をじっと見つめてくる玉梓にぶっきらぼうにそう零した。

「いえ。星屏風に鬼姫、絵になりますな」

「……お主は時折よう分からんことを言うな」

「ふふ……ほらほら、大嬢。手が止まっておりますぞ、天に見惚れるのも結構ですがあまりのんびりしている暇もありませぬぞ」

「む……解っておるわい」

 そう言ってシュラは再び櫂を漕ぎ始めた、しかしその顔はいつまでも水面に映る星空から逸らすことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...