いきなりすきです、溺愛生活

焚き火

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受け、隣国へ

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 私、ルビラはこの国サガマーサラで魔法省に所属して魔法使いをしている。ちなみに副団長だ。いつも通り仕事をしているとベルガラド様に呼び出された。彼は魔法省の団長だ。
 
「隣国に行ってこい。」

「へ、、?」

 予想もしていなかった言葉に動揺し、間抜けな声が出てしまった。気を取り直し、団長に質問する。

「いきなりどうされたのですか?」
疑問でいっぱいのルビラに対しベルガラドは淡々と返事をした。
 
「サルヴァ―ジ王国に魔法の指導に行ってきてほしい。去年設立されたばかりの魔法団で統制が整っていないらしい。そこで隣国であり友好国である我が国に支援を頼んできた。指導してこい。」

「そ、そんないきなり言われても困りますよ。何の準備もできていないのに。」

「なにも明日から行けと言っているわけではない、二週間後に出発だ。」

「それでも十分急ですよ。はぁ、まったく。どうせ文句を言っても行くしか無いんでしょう。」
団長の無茶ぶりには慣れたと思っていたが、錯覚だったようだ。

「すまない、頼んだぞ。ガーナルドの方には俺から連絡を入れておこうか。丁度今、魔物討伐に出ていて、お前を見送れるかどうか微妙だろ?早めに帰還するよう手紙を送ろう。」

ルビラは思いもよらない名前の登場に思わず顔をしかめた。
今は聞きたくなかったな、、、。

「いいえ、結構です。期間はどれぐらいを考えておられるのですか。」

団長は少し驚いたような顔をしたが、何も聞かず話を続ける。
団長の気遣いに少し申し訳なくなった。でも今はまだ話したくないんです。すみません。心でそう団長に謝罪した。

「あぁ、そうか。期間は最長で一年と考えている。それよりもはやく統制が整えば一日でも早く帰ってきてもらって構わない。まぁ、副団長が長期間いないのはきついからな。君みたいに優秀な魔法士はそういない。私としてはできるだけ早く帰ってきてもらえると嬉しいのだか。」

まったく、団長は無意識な人たらしだな。面倒ごとを押し付けられても恨めないんだよな~。

「はぁ、承知いたしました。目処は半年として指導を行ってきます。出発は一週間後にしますね。それまでに仕事の引き継ぎは行っておきますので、これで失礼します。では」

団長室を出て支度に向け自分の部屋へ向かう。

「はぁー。」

思わずため息が出る。これは、いきなりの隣国行きが決まったことに対してだけではない。彼の名を聞き思い出したく無い記憶が蘇ってきたからだ。


   ***


 彼ことガーナルドとは幼馴染、そして私の想い人でもあった。ガーナルドは赤ん坊の頃から一緒に育ってきた。お互いの両親がとても仲がいいからだ。そして成長するにつれガーナルドに対する恋心も膨らんでいった。無愛想だったが話は聞いてくれて、誕生日には欠かさずプレゼントをくれた。勉強や剣の修行で行き詰まれば支えてくれて、一緒に努力してきた。もしかしたらガーナルドも私のことを好きなんじゃ無いかと思う日もあった。あの光景を目にするまでは。

 私たちは成人するとそれぞれ騎士団と魔法省に勤めた。ガーナルドは騎士団、私は魔法省で働き始めた。働き始めて3年ほど経ち、私は魔法省の副団長へ、ガーナルドは騎士団長になっていた。ふたりは若き秀才として名をはせていた。昼頃、王宮の庭で私はガーナルドを見かけた。声を掛けようと、足を早めた時

「ガーナル、、、、」

 思わず一歩引いてしまった。小柄の可愛らしい男の子ととても楽しそうに話していたからだ。ガーナルドは彼を愛おしそうに見ながら頭を撫でた。私には見せたことのないような笑顔で。この時私は勘違いをしていたことに気づいた。ガーナルドは別に私を好きでもなんでも無いのだと。ただ幼馴染としての義務を果たしているだけなのだと。

「ああ、そうか。私の勘違いか。なんだ、そうだよな。私より彼のような可愛らしいほうが魅力的だ。そりゃそーだ。は、はは。」気づけば部屋に戻り、乾いた笑いと共に涙が出ていた。あんな、眩しくて幸せに満ちた笑顔初めて見たな。

 ある日仕事を終え、歩いているとガーナルドを見かけた。そして向かい合ってあの可愛らしい男の子がいた。その子は騎士団の見習いらしい。可愛らしい見た目と素直で明るい性格から周りからとても好かれているらしい。そしてガーナルドと恋人だという噂も聞いた。今まで気づかなかった私は馬鹿だな。

 2人は何か話しているようだった。そしてガーナルドの手元を見ると指輪の箱が見えた。告白だろうか。結婚するのだろう。気がつくと私は走っていた。息が苦しくても、胸の苦しさよりはましで走り続けた。彼が他人に告白する場面なんて死んでも見たくない。目からたくさんの涙が溢れていた。


   ***


 その日から私はガーナルドへの想いを封じた。苦しく報われないことはわかりきっていたことだからだ。

 それから1週間ほど経った頃だった。団長から隣国へ行くよう命令があったのは。もしかしたら丁度良かったのかもしれない。ガーナルドたちの結婚を笑顔で見届ける自信はないから。


 そうして出発予定日になった。新しい人生だと思い、私は隣国へ出発しようとしたその時私を呼び止める声がした。後ろを振り返ると魔法省の部下であるエトラが息を切らして走ってきた。

「はぁ、はぁ、はぁ。先輩、はぁ、ちょっと、待ってください。」

予想外のことに驚き、首を傾げた。

「どうした?何か問題でも?は!!もしかして団長が何かやらかしたか?!」

「え、いえ、いえ。違いますよ。そんな団長に信用ないんですか?まぁ、今までの出来事を振り返ればそうなりますよね。はは。あ、そんなことより、僕、ルビラ先輩にお供させていただきます!!不束者ではございますがよろしくお願いいたします。」

「??え?えーと、どゆこと?ん?」

はてなマークで頭がいっぱいな私にエトラが答えた。

「実はルビラ先輩が隣国へ渡ると聞いて、団長に補佐としてついていきたいとお願いしたんです。そしたら団長が、「「そのほうが良さそうだな。あいつは一人だと無理をしすぎる。補佐頑張ってこい!!」」て許可してくれました。」

「はぁ。まったく、団長ときたら。補佐がつくこと自体は正直ありがたいことだが、なんで前もって連絡をしてくれないんだ。」

「あー、やっぱりルビラ先輩に連絡いってませんでした。団長が伝えといてくれるて言ってたんですけど、案の定忘れてましたね。さすが団長。」

「そのようだな。まあ、よくあることだな。でもいいのか?短くても半年は隣国へ滞在するのに。」

「はい!!大丈夫です。   むしろついていかないと俺が殺されます。はは。」

「すまない。最後のほう声が小さくて聞き取れなかった。なんといった?」

「ああ、いえいえ。気にしないでください。大したことじゃないので。」

「そうか。ならいいんだが」気になったが本人がそういうので聞き返すことはしなかった。

気を取り直し、エトラと共にサガマーサラを後にした。
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