出水探偵事務所の受難

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第二章・異国騒音

8話 夜に光る糸と夜に輝く戰の女神

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「…10分毎に連絡を送ると伝えてある筈だが…」
 カストロは下水道の隠し通路の中で唸った。左手にあるスマホのチャット欄に最後に表示されたメッセージの横には、はっきりと11分前と表示されている。
「10分毎にメッセージを送るのを私がやめた時は、私の身に何かあったと考えてちょうだい」
 この出水の最後の言葉が頭の中で鳴り響く。
「『もし何かあっても計画は進めろ。適宜対応するしかない』…か。俺が出水に言ったことだが、今更考えてみると適宜ってのはクソ難しいな」
 …難しい。だがやるしか仲間達の無念を晴らす方法がないのも事実だ。
「フー…お前は自分のことを腕利きの探偵、と言ったな。腕利きの探偵なら打開してくれよ?出水露沙…」
 カストロは無表情でそう言った。

 出水は、カストロに対しリラックスしている、と罵ったが、厳密には違う。カストロは開き直っているのである。自分の弱さのせいで、何よりも大事な仲間達を亡くし、その結果として自分の価値を見失ったためにできる『命の軽視』。カストロは自分の命こそが、この世にある全てのものより軽いと思っているのである。

「はーっ、はーっ」
 出水は、ボル山の樹海を、重いケースを背負いつつ、なんとかマックスの糸から逃げ回っていた。
 あの糸…!どうも奴の両腕、両足から出ているらしい。糸の性質は三種類で、切れる物と頑丈な物と吸着性がある物、これらの見分けがつかない上に乱発もできるのが厄介である。だが、見える。奴の糸は『フェアリーズ』より遅い‼︎
 そうこう出水が考えながら走っていると、出水は側の銀色の光を見て死んだ。そして能力が発動し、時間が巻き戻ると出水はすぐにそれを回避した。
「っとぉ‼︎危ねぇ」
 大変としか言いようがない。月の光があるとはいえ、木で死角になっているところに行くと、攻撃を視認できずに死ぬ可能性がある。これは『本当に死ぬ』ので絶対に避けなければならないし、かと言って、ライトなどつけようものなら、攻撃の的になるだけだろう。そして私の能力は接近戦向きだ。今、あいつと私の距離は20メートルは離れている。
 つまり、この重い『ケース』を背負って、せめて10、いや、5メートルは近づかないと、私に勝ち目はないということだ。
「マックスとか言ったなぁ!今からお前のとこまで、近づいてやるよ‼︎」
 奴の近く…そこには罠がたくさん仕掛けてある筈だ。その全てを、私の『One more time』のゴリ押しで突破するしかない。
 出水は森の中で更に加速して走った。奴がいる場所の条件は2つだ。糸の罠を張るのに都合の良い、見晴らしがいい場所、隠れやすい場所…この二つが重なり合ってる場所…何処だ…?見晴らしが悪いので、木々の闇の中というわけではない。かと言って、木の上は葉が多すぎるからそれもない。

 わからない!マックス・ペンハイムの位置が。そもそもこの密林の中に見晴らしのいい場所など無い。隠れやすい場所といえば周り全てが該当する。
 出水は、予知能力でも持っているとしか思えない敵の正確無比な糸の攻撃に、流石に疲れ始めた。二秒に一回、能力で生き返るのを続けているのだからこれは当然の結果である。
「はーっ、はーっ」
 その出水の疲れを感じ取ったのか、マックスは更なる攻撃を送った。
 出水はその飛んできた糸を避けきれないと悟った。しかし、出水はその糸で死ねなかった。何故なら右足に飛んできた糸は粘着性であり、出水の足止めを目的としたものであったからである。出水は右足を地面に固定され、非能力者でもわかるピンチに陥った。
 今、背後から攻撃されたら『死角』からの攻撃で、能力が発動せずに、普通に死ぬ。
 出水は、覚悟を決めた。
「クソーッ‼︎起動しろ『アルテミス』‼︎」

 『アルテミス』とは、10年前、とある武器商人が自らを助けて貰った礼として『エリス』に授けたスナイパーライフルである。それは最大射程距離13kmを誇り、その専用弾は、横一列に並んだ13台の戦車すら貫き通すという化け物銃である。だが、本体と専用弾の価格が高すぎるのと、オーバースペックが過ぎる。という理由から誰にも使われないという悲しい側面を持つ銃でもある。

 そして今、出水の声に呼応し、楽器ケースのような直方体が、機械音を発しながら変形し始めた。そしてそれは出水の背丈以上の長さを誇る、漆黒のライフルへと変貌した。
 懐から取り出したサングラスと耳栓を出水は掛けると、すぐさま地面に向かって発砲した。 

 この後、雑誌のインタビューに答えたイルデーニャ島の土を踏んでいた者は口を揃えてこう言った。「ボル山の中腹あたりからとても眩しい光を見た」と。
 ボル山に居た人に至っては、「一瞬山の中が昼のように明るくなった」とも言っている。

「なっなんだこれはーッ‼︎」
 マックスは気が動転して思わず叫び、出水に居場所を知らせてしまった。
「フーッ、フーッ、フー…至近距離に弾を着弾させちゃダメとは聞いていたが、まさかこれ程とはな」
 出水は、真っ赤に焼け爛れた自らの右腕を忌々しそうに見つめ、そして、周りが真っ暗に見える遮光グラスを目から外した。
「発砲の時に出るこの光でお前を探し出すつもりだったんだが、まさかお前から声を上げてくれるとはな、マックスよ。…おい、マックス?」
「あ、が、が…」
 マックスは頭を抑え、地面に這いつくばって唸り声を上げるだけになってしまった。
「…恐らく、お前の正確無比な攻撃のタネは糸電話だろう?肩に触れても気づかないような極細の糸をそこら辺に撒いて、触れた奴を感知出来る様にしてたんだろ?ま、タネのネタバレはもう少し早くすべきだったな。じゃなきゃ耳を抱えてこんなに苦しむこともなかった」
 出水はそう言うと、懐から麻酔銃を取り出した。
「それじゃあな。眼科受診しとけ」
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