21 / 65
第二章・異国騒音
10話 カストロと雷獣 その2
しおりを挟む
「フー…約束の時間までもう少しか」
出水は遥か下に広がる夜景を眺めながら、そう呟いた。
「顔までゴム膜で覆っているから、大丈夫だとは思うが…」
雷獣と戦うことにおいて、一番大事なのはゴムスーツを破られないことだ。何故なら、雷獣が対称を感電死させるためにはゴムスーツを看破するという作業が必要だからである。
「まぁ、『感電死』に限れば、だが」
雷獣のように、単純明快な能力が一番汎用性が効いて厄介だ。あのリラックス野郎に奴を倒せるとは思えない。
そうカストロを心配しつつ、出水は手元にある『アルテミス』に、そっと目を向けた。
「シィィィイ‼︎」
「ウォォ‼︎」
下水道内では2人の戦いが激化していた。雷獣の右手をカストロが左手で押さえると、雷獣のお留守になっている左足をカストロは蹴り上げた。普通なら転ぶ筈だが、雷獣の身体は宙で激しく回転し、ものの見事に着地してしまった。
「シィィ…」
雷獣の神経が研ぎ澄まされるのを感じたカストロは、すぐさま防御耐性を取った。
「ラッ‼︎」
瞬間、カストロがイメージしたのは鉄球であった。
カストロが自分に大きな鉄球がぶつかってきたように感じたと思った次の瞬間には、自分の体は1、2メートルほどぶっ飛んでしまった。
「シィィイィ…三半規管回復まで残り40%、というところかしら。ギアが上がってきた感じがするわ」
雷獣は、骨があるのかわからないが、首の関節を鳴らした。そして尚も接近した2人は更に拳を打ち合い、互いの体力を削っていく。
「未だ60%の私でも、人類の力は軽く超えている筈なのに、それに対抗出来るとはねぇ」
そう言いながら雷獣の放った右ストレートは、カストロの左手で受け止められた。カストロは雷獣を睨んだ。
「まぁ、身体を改造しまくったからなぁ‼︎」
そう叫ぶと同時に、カストロの正拳が雷獣の鳩尾を捕らえた。
「グッ…!シィィィ‼︎」
「そらぁもっと行くぜ‼︎」
そう叫びつつカストロは顔と胸に一発ずつ拳を入れ、最後は回し蹴りを雷獣の腹にお見舞いした。
「シィィィイッラァくさいわァ‼︎」
攻撃を立て続けに急所に食らった雷獣は、先程の轟音に負けないほどの咆哮を空間に轟かせた。
「ゼッッタイに殺す‼︎」
雷獣から発せられる気迫に、カストロは無意識のうちに距離をとっていた。
雷獣は長い髪をかきあげた。そして現れた雷獣のサンダーフォームの顔にあるものは、瞳孔がない白い目だけであった。が、その形相から発せられるどす黒い殺意だけは、カストロにも容易に伝わってきた。
「ふ…『緊張』してきたな」
カストロは、ひきつった笑みを浮かべた。
「残り時間30秒‼︎」
雷獣の三半規管は80%まで回復した。そこから繰り出される雷獣の動きは、カストロの改造済みの目でようやく追えるレベルの速さになった。
「このッ‼︎攻撃がァ‼︎お前にッ!追えるか⁈」
すれ違いざまに何発もの攻撃を受け、カストロは遂に口から血を流した。
カストロは目では私の動きを追えているが、体がついていけてない。そう踏んだ雷獣は、更に雨のような連撃をカストロに浴びせた。
「ググッ‼︎」
「シィィィイ‼︎」
カストロの体はみるみる内に腫れていき、先程まで端正だった顔立ちも、すっかり醜く腫れ上がってしまった。
「ぐ…」
ゴム膜と皮膚の間に、傷口から出た血が広がって行く。
「ふ、やっぱり顔にもゴムを仕込んでいたとはね。まるでリンゴみたいになってて面白いわぁ。カストロ」
「ハーッ、お気遣いどうも」
今腰に差している銃を取り出そうものなら、その隙に俺は倒されてしまうな。そう思いながらカストロは、何時間か前に説教ついでに出水に吐かれた言葉を思い出していた。
「お前は正しいよ出水…」
「シィィィイ‼︎」
出水の戦い方はカウンターが主流らしい。相手の攻撃を自分の能力で避けて攻撃を合わせ、そして勝利する。一方の俺といえば、音を出す穴を絞って、遠くの敵に音を当てるという、スナイパーの真似事をしていたから、まるで正反対だ。
「ぐ…!」
「ホラァ!へばってんじゃねぇぞ‼︎」
そんな俺がこうやって接近戦をするとはな。でも、やはり、敵がこんなに強いと俺じゃ勝てそうもないよ出水。
「顔行くぞ顔ォ‼︎」
迫り来る拳を見て、カストロは、ついに自らの死期を悟った。雷獣の本調子まであと10秒程か…。格上相手によく健闘した方だ。もう死んでいい。そんな言葉が頭の中を渦巻き始めた。
…いや、まだだ。こいつにこのまま殺されたら天国の仲間達に顔向けができない。
フワフワしていた心がついに覚悟を決めた時、開き直っていたカストロの心は出水が先程言っていた理想的な状態、不安:リラックス=1:1になった。死んでいった仲間達を偲ぶ心が、彼を俗に言う『ゾーン』へと至らせた。
そして、カストロは無言で右フックを雷獣にしかけた。雷獣はこれを見て、内心大笑いだった。『遅い』のだ。カストロの攻撃が。楽々避けれるような攻撃を『前もって』出す意味がわからない雷獣は、カストロが血迷ったと判断して一瞬気を抜いた。が、それは誤りであった。遅いカストロの攻撃は段々速さを増していった。雷獣がそのカストロのフェイントに気づいた時には、拳はすでに目の前にあった。
「なっ…」
「ゥゥウラァ‼︎」
カストロが描いたのは芸術的な『十字』だった。雷獣の左腕とカストロの右腕が交差して十字を描き、雷獣の顔面を貫いた。
クロスカウンターをまともに食らった雷獣は、脳みそを揺らされ、思わず地面に手をついてしまった。
「ぐ…っ2…」
「ハァ、ハァ…いくぞ…!」
千載一遇の隙を見せた雷獣に、カストロは腰のホルスターから銃を抜いた。弾はもちろんゴム弾である。
「死ね!」
「2分経過…」
カストロが引き金を手にかけた時には、雷獣は『そこ』にはいなかった。
「残念だなカストロ」
そして、次にカストロが感じたのは、背中から襲った衝撃であった。
出水は遥か下に広がる夜景を眺めながら、そう呟いた。
「顔までゴム膜で覆っているから、大丈夫だとは思うが…」
雷獣と戦うことにおいて、一番大事なのはゴムスーツを破られないことだ。何故なら、雷獣が対称を感電死させるためにはゴムスーツを看破するという作業が必要だからである。
「まぁ、『感電死』に限れば、だが」
雷獣のように、単純明快な能力が一番汎用性が効いて厄介だ。あのリラックス野郎に奴を倒せるとは思えない。
そうカストロを心配しつつ、出水は手元にある『アルテミス』に、そっと目を向けた。
「シィィィイ‼︎」
「ウォォ‼︎」
下水道内では2人の戦いが激化していた。雷獣の右手をカストロが左手で押さえると、雷獣のお留守になっている左足をカストロは蹴り上げた。普通なら転ぶ筈だが、雷獣の身体は宙で激しく回転し、ものの見事に着地してしまった。
「シィィ…」
雷獣の神経が研ぎ澄まされるのを感じたカストロは、すぐさま防御耐性を取った。
「ラッ‼︎」
瞬間、カストロがイメージしたのは鉄球であった。
カストロが自分に大きな鉄球がぶつかってきたように感じたと思った次の瞬間には、自分の体は1、2メートルほどぶっ飛んでしまった。
「シィィイィ…三半規管回復まで残り40%、というところかしら。ギアが上がってきた感じがするわ」
雷獣は、骨があるのかわからないが、首の関節を鳴らした。そして尚も接近した2人は更に拳を打ち合い、互いの体力を削っていく。
「未だ60%の私でも、人類の力は軽く超えている筈なのに、それに対抗出来るとはねぇ」
そう言いながら雷獣の放った右ストレートは、カストロの左手で受け止められた。カストロは雷獣を睨んだ。
「まぁ、身体を改造しまくったからなぁ‼︎」
そう叫ぶと同時に、カストロの正拳が雷獣の鳩尾を捕らえた。
「グッ…!シィィィ‼︎」
「そらぁもっと行くぜ‼︎」
そう叫びつつカストロは顔と胸に一発ずつ拳を入れ、最後は回し蹴りを雷獣の腹にお見舞いした。
「シィィィイッラァくさいわァ‼︎」
攻撃を立て続けに急所に食らった雷獣は、先程の轟音に負けないほどの咆哮を空間に轟かせた。
「ゼッッタイに殺す‼︎」
雷獣から発せられる気迫に、カストロは無意識のうちに距離をとっていた。
雷獣は長い髪をかきあげた。そして現れた雷獣のサンダーフォームの顔にあるものは、瞳孔がない白い目だけであった。が、その形相から発せられるどす黒い殺意だけは、カストロにも容易に伝わってきた。
「ふ…『緊張』してきたな」
カストロは、ひきつった笑みを浮かべた。
「残り時間30秒‼︎」
雷獣の三半規管は80%まで回復した。そこから繰り出される雷獣の動きは、カストロの改造済みの目でようやく追えるレベルの速さになった。
「このッ‼︎攻撃がァ‼︎お前にッ!追えるか⁈」
すれ違いざまに何発もの攻撃を受け、カストロは遂に口から血を流した。
カストロは目では私の動きを追えているが、体がついていけてない。そう踏んだ雷獣は、更に雨のような連撃をカストロに浴びせた。
「ググッ‼︎」
「シィィィイ‼︎」
カストロの体はみるみる内に腫れていき、先程まで端正だった顔立ちも、すっかり醜く腫れ上がってしまった。
「ぐ…」
ゴム膜と皮膚の間に、傷口から出た血が広がって行く。
「ふ、やっぱり顔にもゴムを仕込んでいたとはね。まるでリンゴみたいになってて面白いわぁ。カストロ」
「ハーッ、お気遣いどうも」
今腰に差している銃を取り出そうものなら、その隙に俺は倒されてしまうな。そう思いながらカストロは、何時間か前に説教ついでに出水に吐かれた言葉を思い出していた。
「お前は正しいよ出水…」
「シィィィイ‼︎」
出水の戦い方はカウンターが主流らしい。相手の攻撃を自分の能力で避けて攻撃を合わせ、そして勝利する。一方の俺といえば、音を出す穴を絞って、遠くの敵に音を当てるという、スナイパーの真似事をしていたから、まるで正反対だ。
「ぐ…!」
「ホラァ!へばってんじゃねぇぞ‼︎」
そんな俺がこうやって接近戦をするとはな。でも、やはり、敵がこんなに強いと俺じゃ勝てそうもないよ出水。
「顔行くぞ顔ォ‼︎」
迫り来る拳を見て、カストロは、ついに自らの死期を悟った。雷獣の本調子まであと10秒程か…。格上相手によく健闘した方だ。もう死んでいい。そんな言葉が頭の中を渦巻き始めた。
…いや、まだだ。こいつにこのまま殺されたら天国の仲間達に顔向けができない。
フワフワしていた心がついに覚悟を決めた時、開き直っていたカストロの心は出水が先程言っていた理想的な状態、不安:リラックス=1:1になった。死んでいった仲間達を偲ぶ心が、彼を俗に言う『ゾーン』へと至らせた。
そして、カストロは無言で右フックを雷獣にしかけた。雷獣はこれを見て、内心大笑いだった。『遅い』のだ。カストロの攻撃が。楽々避けれるような攻撃を『前もって』出す意味がわからない雷獣は、カストロが血迷ったと判断して一瞬気を抜いた。が、それは誤りであった。遅いカストロの攻撃は段々速さを増していった。雷獣がそのカストロのフェイントに気づいた時には、拳はすでに目の前にあった。
「なっ…」
「ゥゥウラァ‼︎」
カストロが描いたのは芸術的な『十字』だった。雷獣の左腕とカストロの右腕が交差して十字を描き、雷獣の顔面を貫いた。
クロスカウンターをまともに食らった雷獣は、脳みそを揺らされ、思わず地面に手をついてしまった。
「ぐ…っ2…」
「ハァ、ハァ…いくぞ…!」
千載一遇の隙を見せた雷獣に、カストロは腰のホルスターから銃を抜いた。弾はもちろんゴム弾である。
「死ね!」
「2分経過…」
カストロが引き金を手にかけた時には、雷獣は『そこ』にはいなかった。
「残念だなカストロ」
そして、次にカストロが感じたのは、背中から襲った衝撃であった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる