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第四章・失律聖剣
18話 その北の魔女、イゾルデ
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「明日辺!明日辺ェッ‼︎」
リブラが倒れたまま明日辺にそう叫ぶが、その声に対する返答はない。
「クソッ…血が出過ぎだ…‼︎」
リブラは立ちあがろうともがくが、体の反応は鈍く、体を起こすので精一杯だった。
明日辺の左腕は肘の上あたりから欠損しているが、熱のおかげで傷口が閉じられているのは地獄に仏だな…と思いつつ、リブラは明日辺の方に這って行った。
「ギレム…‼︎」
「はっはい‼︎」
草むらに隠れていたギレムが姿を現す。
「…よし!俺の袋…ほら、あそこにあるやつだ…!その中にある木の箱から糸と針を取り出して…明日辺の傷を縫え‼︎」
「そ、そんな僕医者じゃないんですよ⁈下手にやったらそれこそ…!」
「…箱の中にやり方は一応メモしてある…‼︎俺も心得があるわけじゃないからな…!」
「…わかりました‼︎僕がしっかり処置します‼︎」
「よし…明日辺の次は俺を縫ってくれ…それで…」
リブラはそう言ったきり、気絶してしまった。
「…おっと…気絶してしまったか…まぁ、あの傷では次の追っ手には太刀打ちできないだろうなぁ…」
北の魔女、イゾルデはため息をついた。
「どうするか…手を貸してしまうのはポリシーに反する。が、ここで手を貸さないと明日辺達の絶命は必死…!それはそれで後々、奴の力が私の喉元まで届くことになる…!うーむ」
イゾルデは先程使ったばかりの筆をくるくると指で回しながら欠伸をした。
「あぁ―面倒くさい…」
そう言うと、イゾルデは指をパチンと鳴らした。その瞬間、リブラ達の頭上の何もない空間から『ゴキブリ』が湧き出し、その体にまとわりついていく。リブラ達が何か叫んでいるが、イゾルデは構うことなくゴキブリをけしかけていく。ゴキブリの塊の化した三人の体は徐々に小さくなり、やがてそれは溶けるように空中の中で消えていってしまった。
そしてイゾルデの部屋の中、またゴキブリが湧き出し、大きめの塊を形作っていく。その塊からゴキブリが消え去ると、そこにはリブラたち三人がいた。
「…⁈な…!」
「り、リブラさん、こ、ここは…⁈」
「ようこそ。私が北の魔女、『イゾルデ=レフラガル』だ。宜しく頼む」
イゾルデは三人に目を合わせることなくこう言った。
「な、何故俺たちは急にここに飛ばされたんだ?」
「君たちが死にそうだったからだ」
イゾルデは倒れている明日辺をチラリと見た。
「明日辺の後先考えない特攻…中々ドラマティックで乙だったが…まぁ死んでしまえばどうしようも無いからな。と言うわけでこうやって、この場所に君たちを降ろしてあげたわけだ」
「…そうか」
「…なんで最初からやってくれないんですか?」
ギレムがリブラがわざと『言ったらどうなるかわからないから言わないでおいた』質問を口にする。
「おい‼︎」
「…ごもっともな質問だな。まぁ君たちが四苦八苦してここを目指すところをこの千里眼でずーっと眺めていたかったから。…と言う理由だ」
「な…そんな身勝手な…‼︎」
「…?なんだ?君、私を聖者とでも思っているのか?私は魔女だ。身勝手でいて何が悪い」
イゾルデはギレムとリブラがいる方を一瞥もせずにそう言った。
「やめろギレム!」
リブラが口を挟む。
「こういう奴だ。理解するとか友達になるとかそういう感情から一番遠い存在と思っとけ」
「…くっくっく…フフフフ、ははははは‼︎随分酷いじゃないかリブラぁ!私は君のスポンサーだぞ!」
美しく整った顔を歪ませながらイゾルデは笑った。その目線はリブラとギレムを全くとらえていない。
「君の絵本の力を引き延ばしてみせたのも私の…」
「うるさい‼︎早く治療してやってくれ明日辺を‼︎」
イゾルデの話を大声で遮りつつリブラは怒鳴った。
「…はいはい」
すると、明日辺の左腕部に大量のゴキブリが集まってきた。
「り、リブラさん、あのゴキブリって…大丈夫なんですかね?」
「大丈夫だ。奴は自身の全能ともいえる力を、わざわざ『ゴキブリ』を通して発現させるような異常者ってだけだ」
「…ククク…相変わらず口が減らない男だねぇリブラ…まぁ、一応今治したけど…綺麗に、とはいかないねぇ」
イゾルデはそう言いつつ、ゴキブリ達を明日辺から離させた。そこには、青白い左腕があった。
「その子の左腕は一生それさ。蝋燭みたいな色のまま…まぁ『対価』分の仕事はこなしてやったんだ…大目に見ろよなリブラ…」
「対価?」
ギレムがリブラに質問する。
「ギレム…コイツは対価分の働きしかしない女だ。今、こいつに対して支払った対価は、お前にくっついてる珍しい『呪い』だ」
「え…じゃあ僕はもう…」
「あぁその仮面を外して明日辺と会っても、ギレム狂のキチガイどもみたいにはならないだろうよ」
「たーだ、君が言った通り、私は対価分の働きしかしたくない…」
イゾルデが笑いながら持っている筆をクルクルと回しながら口を挟む。
「君たちの『本の世界で大冒険‼︎大脱出ショー』はね、君たちがあんな三下の鎌男にボロボロにされた時点で、もう飽きちゃったんだよね。だからもう君たちに消えてもらってもいい…まぁ、対価を持つなら別だけどさ…持ってないよね君たち…ククク…」
ギレムは理解した。
リブラさんは最初から僕の呪いと引き換えにイゾルデの助力を乞おうとしていたのか。と。
「なぁ…イゾルデ」
不意にリブラが口を開く。
「…なに?」
「お前俺に何か隠し事あるだろ」
「…なんのことやら…」
「…はぁ…単刀直入に言う。お前、俺の本持ってんだろ」
気まずい沈黙が流れる。
「根拠は?聞いてやるよ」
「根拠ならある」
リブラがイゾルデの乱雑な部屋の中を歩く。部屋の真ん中にある木の椅子に座っているイゾルデの背後にリブラが差し掛かった時、イゾルデがこちらをチラリと見る。
「それはお前の収集癖だ。俺の大事な黄色い背表紙の本…つまりはこの世界の絵本の原本を掠め取り、コレクションに加えていても不思議ではない」
リブラはイゾルデの真正面でそう言った。
「…それは君の意見…所詮ただの推測に過ぎないだろ…『不思議ではない』ぃ?ドヤ顔で語ってくれる割には随分と弱い意見だな」
イゾルデはクルクルと手のひらで回り続ける筆を注視しつつ、チラチラとリブラがいるところを見てそう笑った。
「お前の収集癖は紛れもない事実だ。まぁ、そして、お前は『顔に出やすい』からな。例えば、お前、俺たちがここにきてからずーっと『俺たちと目を合わせていない』だろ?」
「…なんのことやら」
イゾルデは筆を回すのをやめて窓の方を向いた。
「もういい。言ってやるよ。お前が俺の本を隠したのは『俺の背後の薬瓶がたくさん入った箪笥』の中だ。…視線でわかる」
瞬間、イゾルデが体をビクン、と震わせた。
「…ククク…何も入っていない…いや、まぁ、私の収集物…コインだったか、木の枝だったか…が入っているだけの箪笥にそんな疑いをかけられてもしょうがないよ」
イゾルデはニヤニヤしながらリブラを嘲った。
「君の話は所詮は推測!推測!推測なんだよ‼︎わかったらさっさとここから出ていけ‼︎」
「あの、ありました」
「え?」
イゾルデの背後にある、開かれた机の引き出しの側に、ギレムが立っている。その手には、黄色い背表紙の本が握られていた。
「…は⁈」
「フッ…お前とは付き合いが長いからなぁ。お前は自分の顔に出やすい癖が俺に知られていることを利用して、ワザと俺のすぐ近くにある箪笥の方をチラチラと見ていやがった。反対に、お前の背後の方は見られたくないような態度…いや、目がそう言っていたな」
「…チッ…‼︎」
「よし。他人の本を盗んだんだ。その分の償いはしろよ?イゾルデよ」
リブラは、自分とその後ろの箪笥にしか向けられていない視線に最初から気づいていた。そこで、ギレムをイゾルデの背後に向かわせ、そこを探すようにする指示を、ギレムの肩に乗っている蜻蛉にさせていた。(蜻蛉に指示を吹き込むのはイゾルデが明日辺を直すのに集中していた時に既にしていた)
「フー…やはり、ギレムは重要だったな…お前を仲間に引き込む上でよ…」
「…わかった。力は貸してやるさ…私がした行為の償いとしてな…‼︎」
イゾルデはそう吐き捨てるようにそう言った。
リブラが倒れたまま明日辺にそう叫ぶが、その声に対する返答はない。
「クソッ…血が出過ぎだ…‼︎」
リブラは立ちあがろうともがくが、体の反応は鈍く、体を起こすので精一杯だった。
明日辺の左腕は肘の上あたりから欠損しているが、熱のおかげで傷口が閉じられているのは地獄に仏だな…と思いつつ、リブラは明日辺の方に這って行った。
「ギレム…‼︎」
「はっはい‼︎」
草むらに隠れていたギレムが姿を現す。
「…よし!俺の袋…ほら、あそこにあるやつだ…!その中にある木の箱から糸と針を取り出して…明日辺の傷を縫え‼︎」
「そ、そんな僕医者じゃないんですよ⁈下手にやったらそれこそ…!」
「…箱の中にやり方は一応メモしてある…‼︎俺も心得があるわけじゃないからな…!」
「…わかりました‼︎僕がしっかり処置します‼︎」
「よし…明日辺の次は俺を縫ってくれ…それで…」
リブラはそう言ったきり、気絶してしまった。
「…おっと…気絶してしまったか…まぁ、あの傷では次の追っ手には太刀打ちできないだろうなぁ…」
北の魔女、イゾルデはため息をついた。
「どうするか…手を貸してしまうのはポリシーに反する。が、ここで手を貸さないと明日辺達の絶命は必死…!それはそれで後々、奴の力が私の喉元まで届くことになる…!うーむ」
イゾルデは先程使ったばかりの筆をくるくると指で回しながら欠伸をした。
「あぁ―面倒くさい…」
そう言うと、イゾルデは指をパチンと鳴らした。その瞬間、リブラ達の頭上の何もない空間から『ゴキブリ』が湧き出し、その体にまとわりついていく。リブラ達が何か叫んでいるが、イゾルデは構うことなくゴキブリをけしかけていく。ゴキブリの塊の化した三人の体は徐々に小さくなり、やがてそれは溶けるように空中の中で消えていってしまった。
そしてイゾルデの部屋の中、またゴキブリが湧き出し、大きめの塊を形作っていく。その塊からゴキブリが消え去ると、そこにはリブラたち三人がいた。
「…⁈な…!」
「り、リブラさん、こ、ここは…⁈」
「ようこそ。私が北の魔女、『イゾルデ=レフラガル』だ。宜しく頼む」
イゾルデは三人に目を合わせることなくこう言った。
「な、何故俺たちは急にここに飛ばされたんだ?」
「君たちが死にそうだったからだ」
イゾルデは倒れている明日辺をチラリと見た。
「明日辺の後先考えない特攻…中々ドラマティックで乙だったが…まぁ死んでしまえばどうしようも無いからな。と言うわけでこうやって、この場所に君たちを降ろしてあげたわけだ」
「…そうか」
「…なんで最初からやってくれないんですか?」
ギレムがリブラがわざと『言ったらどうなるかわからないから言わないでおいた』質問を口にする。
「おい‼︎」
「…ごもっともな質問だな。まぁ君たちが四苦八苦してここを目指すところをこの千里眼でずーっと眺めていたかったから。…と言う理由だ」
「な…そんな身勝手な…‼︎」
「…?なんだ?君、私を聖者とでも思っているのか?私は魔女だ。身勝手でいて何が悪い」
イゾルデはギレムとリブラがいる方を一瞥もせずにそう言った。
「やめろギレム!」
リブラが口を挟む。
「こういう奴だ。理解するとか友達になるとかそういう感情から一番遠い存在と思っとけ」
「…くっくっく…フフフフ、ははははは‼︎随分酷いじゃないかリブラぁ!私は君のスポンサーだぞ!」
美しく整った顔を歪ませながらイゾルデは笑った。その目線はリブラとギレムを全くとらえていない。
「君の絵本の力を引き延ばしてみせたのも私の…」
「うるさい‼︎早く治療してやってくれ明日辺を‼︎」
イゾルデの話を大声で遮りつつリブラは怒鳴った。
「…はいはい」
すると、明日辺の左腕部に大量のゴキブリが集まってきた。
「り、リブラさん、あのゴキブリって…大丈夫なんですかね?」
「大丈夫だ。奴は自身の全能ともいえる力を、わざわざ『ゴキブリ』を通して発現させるような異常者ってだけだ」
「…ククク…相変わらず口が減らない男だねぇリブラ…まぁ、一応今治したけど…綺麗に、とはいかないねぇ」
イゾルデはそう言いつつ、ゴキブリ達を明日辺から離させた。そこには、青白い左腕があった。
「その子の左腕は一生それさ。蝋燭みたいな色のまま…まぁ『対価』分の仕事はこなしてやったんだ…大目に見ろよなリブラ…」
「対価?」
ギレムがリブラに質問する。
「ギレム…コイツは対価分の働きしかしない女だ。今、こいつに対して支払った対価は、お前にくっついてる珍しい『呪い』だ」
「え…じゃあ僕はもう…」
「あぁその仮面を外して明日辺と会っても、ギレム狂のキチガイどもみたいにはならないだろうよ」
「たーだ、君が言った通り、私は対価分の働きしかしたくない…」
イゾルデが笑いながら持っている筆をクルクルと回しながら口を挟む。
「君たちの『本の世界で大冒険‼︎大脱出ショー』はね、君たちがあんな三下の鎌男にボロボロにされた時点で、もう飽きちゃったんだよね。だからもう君たちに消えてもらってもいい…まぁ、対価を持つなら別だけどさ…持ってないよね君たち…ククク…」
ギレムは理解した。
リブラさんは最初から僕の呪いと引き換えにイゾルデの助力を乞おうとしていたのか。と。
「なぁ…イゾルデ」
不意にリブラが口を開く。
「…なに?」
「お前俺に何か隠し事あるだろ」
「…なんのことやら…」
「…はぁ…単刀直入に言う。お前、俺の本持ってんだろ」
気まずい沈黙が流れる。
「根拠は?聞いてやるよ」
「根拠ならある」
リブラがイゾルデの乱雑な部屋の中を歩く。部屋の真ん中にある木の椅子に座っているイゾルデの背後にリブラが差し掛かった時、イゾルデがこちらをチラリと見る。
「それはお前の収集癖だ。俺の大事な黄色い背表紙の本…つまりはこの世界の絵本の原本を掠め取り、コレクションに加えていても不思議ではない」
リブラはイゾルデの真正面でそう言った。
「…それは君の意見…所詮ただの推測に過ぎないだろ…『不思議ではない』ぃ?ドヤ顔で語ってくれる割には随分と弱い意見だな」
イゾルデはクルクルと手のひらで回り続ける筆を注視しつつ、チラチラとリブラがいるところを見てそう笑った。
「お前の収集癖は紛れもない事実だ。まぁ、そして、お前は『顔に出やすい』からな。例えば、お前、俺たちがここにきてからずーっと『俺たちと目を合わせていない』だろ?」
「…なんのことやら」
イゾルデは筆を回すのをやめて窓の方を向いた。
「もういい。言ってやるよ。お前が俺の本を隠したのは『俺の背後の薬瓶がたくさん入った箪笥』の中だ。…視線でわかる」
瞬間、イゾルデが体をビクン、と震わせた。
「…ククク…何も入っていない…いや、まぁ、私の収集物…コインだったか、木の枝だったか…が入っているだけの箪笥にそんな疑いをかけられてもしょうがないよ」
イゾルデはニヤニヤしながらリブラを嘲った。
「君の話は所詮は推測!推測!推測なんだよ‼︎わかったらさっさとここから出ていけ‼︎」
「あの、ありました」
「え?」
イゾルデの背後にある、開かれた机の引き出しの側に、ギレムが立っている。その手には、黄色い背表紙の本が握られていた。
「…は⁈」
「フッ…お前とは付き合いが長いからなぁ。お前は自分の顔に出やすい癖が俺に知られていることを利用して、ワザと俺のすぐ近くにある箪笥の方をチラチラと見ていやがった。反対に、お前の背後の方は見られたくないような態度…いや、目がそう言っていたな」
「…チッ…‼︎」
「よし。他人の本を盗んだんだ。その分の償いはしろよ?イゾルデよ」
リブラは、自分とその後ろの箪笥にしか向けられていない視線に最初から気づいていた。そこで、ギレムをイゾルデの背後に向かわせ、そこを探すようにする指示を、ギレムの肩に乗っている蜻蛉にさせていた。(蜻蛉に指示を吹き込むのはイゾルデが明日辺を直すのに集中していた時に既にしていた)
「フー…やはり、ギレムは重要だったな…お前を仲間に引き込む上でよ…」
「…わかった。力は貸してやるさ…私がした行為の償いとしてな…‼︎」
イゾルデはそう吐き捨てるようにそう言った。
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