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第四章・失律聖剣
17話 鎌と熱剣
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謎の矢文に敵の存在を知らされた三人は一応物陰に隠れることにした。
「本当にくるのだろうか敵は…」
「知らないわ…それよりリブラ、あれ出しといて」
「わかった」
リブラは本の中から一本の鉄剣を取り出すと明日辺に渡した。
「わかってると思うが…」
「言わなくてもいいわよ」
リブラが渡したのは特殊合金でもなんでもない『ただの鉄』でできた剣である。物を極限まで熱することができる明日辺の能力を一度でもこの鉄剣に使えばたちまち溶けて無くなってしまうだろう。相手がドロドロに溶けるか、燃えて苦しむようなところを見たくない明日辺は、顔を青くしながらも剣をしっかりと握った。そして…生憎、高温になった自分特製の熱剣から自身の身を守ることはできそうにない。つまり、発動したら最後、左腕が『落ちる』。
その時、三人が元いた焚き火の所に一つの人影が現れた。そいつは、青黒い皮膚の上に黒の線の模様が走った、明らかに尋常ではない男だった。
「…形跡…ふむ、この近くに『まだ』潜伏しているか」
男はオールバックの頭をぽりぽりと掻くと、辺りを見回した。
「面倒くさいなぁ…全くォォ…」
男はそう言うと、その近くの何もない空間に不意に手を伸ばした。その瞬間、男の手にはその身長ほどの大きさの大鎌が握られていた。次に男はそれを大きく横薙ぎに振った。
「…‼︎…成る程な…完全に理解した」
男のその呟きを聞いた明日辺は嫌な予感に震えた。
「…今すぐここを離れた方がいいかも」
「だな…」
「『動くな』」
男が急に言葉を発する。
「お前たちの居場所は割れた…『リブラ、お前は今、本から馬を出そうとしている』。『明日辺、お前は今、鉄の剣を左手で握っている』」
…筒抜け⁈男の言っていることが全て当たっている。どういうことだ⁈
「おい明日辺何してる!あいつの言うことに耳なんて貸すな‼︎俺たちがすべきはここからの離脱だろうが‼︎」
「…‼︎ごめん、いますぐ…」
「一手、遅れたなぁ…」
と、男の声が聞こえた時には、リブラの本は鎌によって切り裂かれていた。その瞬間、リブラの近くに引き出された三頭の馬が煙のように消えた。男はリブラの近くにあった袋を蹴飛ばすと髪をかき上げた。
「よしよしよし…逃走手段は切り裂いたっと‼︎」
そう言うと、男は自らの大鎌を明日辺に向かって振った。瞬間、大鎌と剣がぶつかり合い、暗い森に火花が散った。
「おお…流石にやるなぁ明日辺ぇ…‼︎」
「うるさい‼︎」
明日辺が男の大鎌を弾き上げる。
…コイツの能力…‼︎ただの大鎌ってわけじゃなさそうね…私たちの居場所を言う前に鎌を振ってたけどそれが関係してるのかしら…?
「…お前の考えそうなことは全て把握しているッ‼︎」
そう嘲った男は、今度はリブラに向かって鎌を振った。予想以上に大きい鎌とそれが見えにくい暗闇が手伝って、避けられることもなく、リブラの胸から腹に掛けて傷が一瞬にして走った。
「ぐ…」
「リブラが今持っている本はゼロ…(違う本が入った袋は今蹴飛ばした)、つまりこれから明日辺は、使い物にならない情けない男ども二人を守って俺と戦わなくちゃならない…‼︎ククク…もう少しで詰み…いや、もう詰んでるかぁ⁈」
男の嘲笑と共に振り下ろされた鎌は明日辺の剣でなんとか受け止められた。
「嘗めるな‼︎」
そう言った明日辺はまたも男の鎌を弾き返した。
「ククク…お前は弱い…だから、これから嬲り殺してやるよ…‼︎そぉぉれっ!」
「嘗めるなっつってんでしょうが‼︎」
明日辺と男は同時に自らの獲物を相手に当てようとした。が、明日辺の攻撃は当たらなかった。そして、明日辺は深々と横っ腹に鎌を当てられ、抉られた。
「…チッ…」
「嘗めるな?嘗めるな…か。出水を我々に攫われ…尻尾巻いて逃げて…で、お荷物を抱えた上、俺みたいなよくもわからない三下に切り刻まれているお前如きを…?嘗めるな、か…?ククク…!ははははははは‼︎冗談はよせよ明日辺!嘗めないどころか対等だと考えることなどできないぞ!お前如きをよぉ‼︎」
明日辺は右手で腹を押さえながらも、なんとか剣を構えた。顔は真っ青に染まっている。
「…戦う意思だけは立派か。蛮勇だねぇ…」
明日辺は、そう言いながら男が繰り出してきた鎌の連撃に全くついてこれなかった。結果、明日辺の体からは夥しい量の血液が流れた。
私は…殺される…‼︎いや…リブラなら…なんとか助けてくれるかも…しれない…それに賭けるしか…だけど、この剣に私の能力を使えるのはたったの一度しかない…つまり私は『苦手な剣技で対抗』、『能力を使ってがむしゃら特攻』…これのうち、どちらかをしなきゃならない…いや、それこそ『おい明日辺何してる‼︎』だ‼︎殺すか殺されるか‼︎コイツは今‼︎ここで‼︎私が絶対に殺さなければならない‼︎殺すしかない‼︎
「オオオオ‼︎」
明日辺は左手に力を込め、その手中にある剣を、覚悟を込めて熱し始めた。そしてそのまま、男に向かって突進した。
「愚かだな明日辺利昰‼︎お前の手はもう間も無く燃えて崩れ落ちるぞ‼︎」
「あぁそうだな‼︎」
明日辺が振り下ろした熱剣はいとも容易く男の鎌を切り裂いた。それを握る手も瞬く間に燃えていく。
「ふっこんなものいくらでも再生でき…」
「遅い‼︎」
瞬間、男の顔は謎の熱さに襲われた。
「な、なんだ⁈なにが『俺の顔にかかった』⁈」
「私の沸騰した血よ。さて、剣を持っていられるのはあと2秒…‼︎」
「グオォォっ!」
「終わりよ!」
2秒後、敵の体を貫いたのは、明日辺の熱剣だった。
「はぁ、はぁ…まぁ、予想通り、私の手は…使い物にはならなくなったわね…」
明日辺の腕は左腕は今はもう『ない』。燃えて落ちた左腕はもう既に冷たい地面の上で灰になっている。
「これが覚悟…覚えておきなさい」
そう言いながら、明日辺は倒れ、気絶した。
「本当にくるのだろうか敵は…」
「知らないわ…それよりリブラ、あれ出しといて」
「わかった」
リブラは本の中から一本の鉄剣を取り出すと明日辺に渡した。
「わかってると思うが…」
「言わなくてもいいわよ」
リブラが渡したのは特殊合金でもなんでもない『ただの鉄』でできた剣である。物を極限まで熱することができる明日辺の能力を一度でもこの鉄剣に使えばたちまち溶けて無くなってしまうだろう。相手がドロドロに溶けるか、燃えて苦しむようなところを見たくない明日辺は、顔を青くしながらも剣をしっかりと握った。そして…生憎、高温になった自分特製の熱剣から自身の身を守ることはできそうにない。つまり、発動したら最後、左腕が『落ちる』。
その時、三人が元いた焚き火の所に一つの人影が現れた。そいつは、青黒い皮膚の上に黒の線の模様が走った、明らかに尋常ではない男だった。
「…形跡…ふむ、この近くに『まだ』潜伏しているか」
男はオールバックの頭をぽりぽりと掻くと、辺りを見回した。
「面倒くさいなぁ…全くォォ…」
男はそう言うと、その近くの何もない空間に不意に手を伸ばした。その瞬間、男の手にはその身長ほどの大きさの大鎌が握られていた。次に男はそれを大きく横薙ぎに振った。
「…‼︎…成る程な…完全に理解した」
男のその呟きを聞いた明日辺は嫌な予感に震えた。
「…今すぐここを離れた方がいいかも」
「だな…」
「『動くな』」
男が急に言葉を発する。
「お前たちの居場所は割れた…『リブラ、お前は今、本から馬を出そうとしている』。『明日辺、お前は今、鉄の剣を左手で握っている』」
…筒抜け⁈男の言っていることが全て当たっている。どういうことだ⁈
「おい明日辺何してる!あいつの言うことに耳なんて貸すな‼︎俺たちがすべきはここからの離脱だろうが‼︎」
「…‼︎ごめん、いますぐ…」
「一手、遅れたなぁ…」
と、男の声が聞こえた時には、リブラの本は鎌によって切り裂かれていた。その瞬間、リブラの近くに引き出された三頭の馬が煙のように消えた。男はリブラの近くにあった袋を蹴飛ばすと髪をかき上げた。
「よしよしよし…逃走手段は切り裂いたっと‼︎」
そう言うと、男は自らの大鎌を明日辺に向かって振った。瞬間、大鎌と剣がぶつかり合い、暗い森に火花が散った。
「おお…流石にやるなぁ明日辺ぇ…‼︎」
「うるさい‼︎」
明日辺が男の大鎌を弾き上げる。
…コイツの能力…‼︎ただの大鎌ってわけじゃなさそうね…私たちの居場所を言う前に鎌を振ってたけどそれが関係してるのかしら…?
「…お前の考えそうなことは全て把握しているッ‼︎」
そう嘲った男は、今度はリブラに向かって鎌を振った。予想以上に大きい鎌とそれが見えにくい暗闇が手伝って、避けられることもなく、リブラの胸から腹に掛けて傷が一瞬にして走った。
「ぐ…」
「リブラが今持っている本はゼロ…(違う本が入った袋は今蹴飛ばした)、つまりこれから明日辺は、使い物にならない情けない男ども二人を守って俺と戦わなくちゃならない…‼︎ククク…もう少しで詰み…いや、もう詰んでるかぁ⁈」
男の嘲笑と共に振り下ろされた鎌は明日辺の剣でなんとか受け止められた。
「嘗めるな‼︎」
そう言った明日辺はまたも男の鎌を弾き返した。
「ククク…お前は弱い…だから、これから嬲り殺してやるよ…‼︎そぉぉれっ!」
「嘗めるなっつってんでしょうが‼︎」
明日辺と男は同時に自らの獲物を相手に当てようとした。が、明日辺の攻撃は当たらなかった。そして、明日辺は深々と横っ腹に鎌を当てられ、抉られた。
「…チッ…」
「嘗めるな?嘗めるな…か。出水を我々に攫われ…尻尾巻いて逃げて…で、お荷物を抱えた上、俺みたいなよくもわからない三下に切り刻まれているお前如きを…?嘗めるな、か…?ククク…!ははははははは‼︎冗談はよせよ明日辺!嘗めないどころか対等だと考えることなどできないぞ!お前如きをよぉ‼︎」
明日辺は右手で腹を押さえながらも、なんとか剣を構えた。顔は真っ青に染まっている。
「…戦う意思だけは立派か。蛮勇だねぇ…」
明日辺は、そう言いながら男が繰り出してきた鎌の連撃に全くついてこれなかった。結果、明日辺の体からは夥しい量の血液が流れた。
私は…殺される…‼︎いや…リブラなら…なんとか助けてくれるかも…しれない…それに賭けるしか…だけど、この剣に私の能力を使えるのはたったの一度しかない…つまり私は『苦手な剣技で対抗』、『能力を使ってがむしゃら特攻』…これのうち、どちらかをしなきゃならない…いや、それこそ『おい明日辺何してる‼︎』だ‼︎殺すか殺されるか‼︎コイツは今‼︎ここで‼︎私が絶対に殺さなければならない‼︎殺すしかない‼︎
「オオオオ‼︎」
明日辺は左手に力を込め、その手中にある剣を、覚悟を込めて熱し始めた。そしてそのまま、男に向かって突進した。
「愚かだな明日辺利昰‼︎お前の手はもう間も無く燃えて崩れ落ちるぞ‼︎」
「あぁそうだな‼︎」
明日辺が振り下ろした熱剣はいとも容易く男の鎌を切り裂いた。それを握る手も瞬く間に燃えていく。
「ふっこんなものいくらでも再生でき…」
「遅い‼︎」
瞬間、男の顔は謎の熱さに襲われた。
「な、なんだ⁈なにが『俺の顔にかかった』⁈」
「私の沸騰した血よ。さて、剣を持っていられるのはあと2秒…‼︎」
「グオォォっ!」
「終わりよ!」
2秒後、敵の体を貫いたのは、明日辺の熱剣だった。
「はぁ、はぁ…まぁ、予想通り、私の手は…使い物にはならなくなったわね…」
明日辺の腕は左腕は今はもう『ない』。燃えて落ちた左腕はもう既に冷たい地面の上で灰になっている。
「これが覚悟…覚えておきなさい」
そう言いながら、明日辺は倒れ、気絶した。
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