出水探偵事務所の受難

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第四章・失律聖剣

16話 リブラの話と明日辺の話

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「こいつが…ギレムか」
 ミースの街の一角、その中のボロ屋に、ギレムは眠らされていた。
「…見るに、コイツの魅力に耐えかねたキュバリエが独り占めしたというわけか…おい、起きろ‼︎」
 リブラがそう声を張り上げると、ギレムはパッと目を覚ました。
「な、す、すいませんでした…‼︎」
 ギレムはベッドに縛り付けられたまま、何か懇願し始めた。
「貴方の妻を決して誑かしたワケではないんです!彼女たちが勝手に僕についてくるんです‼︎」
「勘違いしているようだが、俺はお前をボコボコにしに来たわけじゃない」
「え?」
「ひとまずお前には仮面を被ってもらう…よし、縄は切ったぞ。…ホラ、これをつけてくれ」
「…わかりました」
 ギレムは、リブラから手渡されたピエロの仮面を被った。
「街で一番高い仮面だ。その分口も自由に取り外せる。さて、お前はこれから…俺達の旅について来てもらう」
「…?何故ですか?」
「…まぁ、その、アレだ。うーん…あー…まぁ、呪いに関する情報を調べる旅をしていてな。呪いにかかってるやつを色々調べてみたいんだよ」
「…そうですか…良いですよ。もう、ここに居たくはないので…」
「…そうか」

 明日辺、リブラ、ギレムの三人は、位置が教団にバレることを恐れ、速やかにミースの街を出発した。
「あの~この人は?」
「明日辺利昰。旅の友だ」
「そうですか。よろしくお願いします」
「よろしく」
「これからの旅の経路は明日辺が話す」
「…取り敢えず、私たちは今から北にいると言われている魔女に会いに行く。そいつなら、アンタの呪いも解けるんじゃない?」
「…なるほど。わかりました‼︎」
 明日辺とリブラはチラッと顔を見合わせた。ギレムの呪いを解く理由は二つある。一つ目は物語を進め、扉本を開けて現実世界に帰ること、二つ目は敵を誘き寄せることにある。
 そもそも、ルインが屋敷に出入りしていたワケは(推測であるが)、私たちを待っていたからだろう。そう考えた明日辺は、これから外の世界に出ようと、もがけばもがくほど、ルインなどの敵と出会う確率が増え、出水の手がかりも増えると考えたのだった。
 というわけで、三人は取り敢えず、リブラの知りあいという北の山脈にいる魔女に会いに行くということになった。
「リーディ‼︎セクタム‼︎アバダ‼︎来い‼︎」
 リブラがそう叫ぶと、近くの草むらから(あらかじめ本から出しておいた)3頭の馬が向くっと立ち上がり、明日辺たちに近づいてきた。
「好きな馬を選べ」
 リブラは馬の一頭を優しく撫でながらそう言った。

「…ねぇ、その『北の魔女』ってどういう人なの?」
 馬に揺られながら、明日辺がリブラに問う。
「…なんというか、強い」
「それで?」
「…うーん…まぁ、性格が変なんだよなぁ…なんというかその…趣味…『収集癖』が酷い」
「どれくらい酷いんですか?」
「…ある時、奴は鉱石の収集癖を『発症』してな、そのほんの1ヶ月後にはあいつの家の横には光り輝く鉱山ができていた。と、こういう感じであいつが住んでいる山脈は全て、あいつが集めた収拾物によってできている。それ程だ」
「…へぇ。随分面白いお人ね」
「…変な人ですね」
「だからそう言ってるだろ…あと、戦力と言えば奴が欲しいな。…須郷智昭だったか」
「そうね。でも彼は今やどこにいるかわからないし、期待してるだけで良いわ」
「ふむ…」
 それから、明日辺達は北に向かって馬を駆って行った。
 出水は今、どういう状況なのだろう…明日辺は馬に揺られながらそう思案を続けた。連れ去られた…ということは殺されてないということだ。(殺すならそこで殺せばいいだけだろう。)ならば何故、ルインと仮面の男は出水を連れ去ったのだろうか。
 夜、焚き火を前にそんなことをとめどなく考えている明日辺にリブラは湯気が立っているコップを差し出した。
「ハーブティーだ。落ち着くぞ」
「ありがとう」
 明日辺はそれをずずっと啜るとホッと息を吐いた。
「…仲間が突然いなくなった気持ちは…まぁ、嘘をついていると思われるかもしれないが、よくわかっているつもりだ」
 リブラは明日辺の向いに座ると、その返事を待たずに話し始めた。
「俺がお前らに探すよう依頼した『黄色い表紙の本』は…この本の内容を俺が精巧にコピーした模造品だ…俺はそこからこの国の『王子』と『姫様』を、突然発現した俺の能力で出した」
 パチパチと木炭が小さく爆ぜる音が、闇夜に響く。今、ギレムは薪を探しに行っている。
「…ハァ」
 リブラはため息をつくと沈黙した。
「…そこで途切れたら生殺しなんだけど」
「…わかった。続ける。二人は人見知りだった俺と、とても仲良くしてくれた。遊ぶ時間になったら彼らを本から出し…帰る時間になったら彼らを戻し…そんなことを繰り返していた」
「で?」
「そんなある日だった。姫様が…現実の世界で…事故で死んだ。そして…王子が俺にその亡骸を渡して『蘇らせてくれ』と、嘆願して来たんだ…‼︎」
 リブラは顔を手で覆い、俯いた。
「俺に…死人を蘇らせる能力はない。だから俺は…泣きながら『できない。ごめんなさい』と断った。すると、王子は後ろを向いて、『せめて、彼女をこの本の世界に戻してやってくれ』と言って、俺が姫様の遺体に視線を移した隙に…どこかへ行ってしまった…」
「…へー」
 明日辺は飲み終わった後のコップをそばに置くとため息をついた。
「アンタの話はいちいち怪しいわ…言ってなかったけど、私は正直アンタを疑ってる…」
 そう言うと、またため息をつきながら明日辺は自分でおかしいと思った点を述べ始めた。
「まず、外界のことを知れば頭がパンクする…みたいな話があるのに、なんで普通に王子と王女が外界に出て普通にアンタと話せるのよ。第二に、絵本の重要キャラは出すのに大きく体力を削られ、命の危険がある…みたいな話があるのに、なんでアンタはさっき、さも当たり前のように毎日出し入れできたと言ったのか…」
「それは…」
「『能力に不可能、制約、限界を信じるな』…戦う能力者達の格言にそんなのがあるくらいだし、アンタの話は真実かも知れない…でも…疑いは拭えない。というか、何なのこの話?それを聞かせて私に何をさせたいワケ?」
「…それは」
「何の話をしてるんですか?」
 茂みの奥から、たくさんの薪を抱えたギレムが現れた。
「…なんでもないわよ。ほら、薪をくべて」
「はぁ」
 ギレムが持っている薪を火にくべていく。すると、おもむろにリブラが口を開く。
「…さっきの話の続きだが…理由は『ただお前を励ますだけ』じゃ納得できないか?」
「…無理ね。作り話をするつもりなら外で小説家にでもなりなさい」
「え、えーと、もっと薪拾って来ましょうか?」
 二人の間に流れる重い空気にギレムが居た堪れなくなりそう言った。
「いいわ。充分。貴方は寝てなさい」
「…はぁそうですか。おやすみなさ…ウワァァ‼︎」
 瞬間、ギレムの叫び声が盛りに響く。明日辺とリブラが同時にそこに目を向けると、ギレムが寄りかかっていた木の、後数センチズレていればギレムの頭に貫通していた位置に、矢が刺さっていた。
「ひいぃぃぃいいい‼︎」
 ギレムはそう悲鳴を上げながら明日辺とリブラの二人に驚くべきスピードで駆け寄っていった。
「あわわわわわわわ…」
「落ち着きなさいギレム!アンタそれでも男⁈」
 ギレムの横っ面を張りつつ、明日辺は木に刺さった矢をしかと見た。
「矢文…⁈」
 矢に、細長く畳まれた紙が括り付けられている。明日辺はサッとそれを取り、広げて見せた。
「…『後数十分後に敵が襲ってくる。逃げろ』⁈」
 矢文にはそう書かれていた。
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