魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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異変

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 登校中や授業中、香苗の言っていた言葉を頭の中で繰り返していた。
『人に定められた寿命はね、神様から与えられたものだから、人間がいじってはいけないと言っていたの。人間が人間の寿命をコントロールするなんてだめだって』
 ――確かに間違ってはいない気がする。でも正解でもない気もする。じゃあなぜ神様は僕たちを生んだのだろう。それか神様が僕たちを生んだということ自体が間違っているのかもしれない。正解はどこにあるんだろう。
 旭は答えの無い問題を解くため頭の中の似たような所をぐるぐる回って、家に帰る頃には頭が疲れていた。
 途中気を紛らわすため、旭はポケットに入れた2枚のリータの写真を見た。背景が薄暗くて、リータだけが綺麗に浮き上がっている。
 これを見せたらリータは喜びそうだ。
 リータの笑顔を想像しながら、街路樹の桜の蕾がピンク色に染まる中を、旭はゆっくりと帰った。

 旭は暗闇の海で溺れ、慌てて半身を起こした。すっかり寝てしまっていた。
 昼間ずっと考え事をして疲れていたのか、自分のベッドの上で少し横になって、そのまま寝てしまっていた。
 慌ててユビキタスコンピューターに灯りをつけるよう指示すると、計画停電の中、室内が仄かに明るくなる。LOTを首に巻き、リータが写っている写真2枚を手に取って、時間を確認して部屋を飛び出す。23時45分。
 まだリータが現れて30分ちょっとだ。でも待っているかもしれない。
 薄暗い階段を駆け下り、踊り場に出た。するといつもの場所にリータは座っている。旭はホッとして、乱れた髪を軽く整えながらリータの視界に入った。
「ごめん! リータ」
「あっ! よかった……。こんばんは、アキラ」
「リータ、ほら写真できたよ!」
「わあ! やっ……」
 ぱあっと歓喜のオーラを発し、白い歯を見せたリータが立ち上がって旭に近寄った瞬間だった。リータの姿が急に薄くなって、そのまま薄闇に消えてしまった。
「リータ?」
 時間はまだ23時50分を回ったぐらいだった。リータが射影範囲の外に出たのかと旭は思った。少し下がって様子を見るもリータは出てこない。
「リータ……、リータ!?」
 その日はなぜか2時まで停電が続いたが、リータは現れない。写真を片手に廊下に座って、停電が明けるまで膝を抱えて待った。一瞬もう二度と会えないイメージが旭の頭をよぎったが、頭を振ってそれをはじき飛ばした。
 何か原因がある……。何かあったんだ。
 ずっと待っていた旭は結局そのまま廊下で寝てしまい、起きたらシーリングライトも消え曙光がさしていた。
 いつもなら香苗が帰ってきてる時間なのに、キッチンにもいない。憔悴した表情の香苗が戻ってきたのはお昼過ぎだった。
 その日以降、定期停電はなくなった。そして、リータが姿を現すこともなくなった。
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