魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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二十二世紀の魔法

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「あそことはまた違う空間に他の科学技術か。確かにエルザも動力源が別にあると言っていたな」
 しばらく脳内で何かを整理するように頷いていた北野は、慎重に言葉を発した。
「仮にその空間があったとしても、まだ入らん方がいいな。君を行方不明にさせたら、香苗さんが何してくるのか考えただけでも怖い」
 母さん、どれだけ教授に怖れられているんだ。
「でも検証は必要だろう。一度ラグラニアのコクピットから、その空間に物質のみの出し入れが出来るかエルザに聞いて……、そうだな」と言って卓上を見渡したが物が無かった。
「仕方ない」と言い、左手に巻いた時計を外して旭に差し出した。
「これを使って検証してくれ」
「あれ? 教授は今日は来られないのですか?」
「ああ、今日はちょっと遅れる。いや、行けるかどうかすら怪しい。ラグラニアの事ばかり調査していたら、本職の方が間に合わなくなっててな。それと今日は先に山代君が来ると思うから、ガイドを頼む。それよりも貴重な時計だから、壊さないように」
 旭は北野から腕時計を受け取った。たしかに腕時計なんて、博物館行きの代物だった。
 少しの感動と緊張を持って、旭はそれを丁寧にボディースーツのポケットに入れた。

 職務室から教室に戻る廊下で旭は、あるSF作家が言っていた「クラークの3法則」の1つを思い出していた。
 ”充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない”
 まさしくトリオン人のそれは魔法でも使っているとしか思えなかった。休憩時間に教室に戻り、旭は半ば呆然と自分の席についた。ジェリコとエディアが何か言いたそうだったが、もうそれすらも気にならない。その後の授業は全く身につかずに終わってしまった。

「バイバイ! 私、1人で帰る!!」
 エディアは憤りを隠さずに教室を出て行ってしまった。
 こっちの問題は疲れる。
 大息をついてエディアの後姿を見送った後、後ろから肩を叩かれた。
「ははっ、機密事項を守るってのも大変だな」
 振り返るとジェリコが若干の哀れみを含んだ眼差しで旭を見ていた。
「まあな……」

 定時日の水曜日。教室に誰もいなくなったのを見計らって旭は教室を出る。そのまま真っ直ぐラグラニアのある研究室へと向った。まだ他の研究員も自分の仕事が終わってなくて研究室には誰もいない。だが旭は先に1人でエルザと会話を進めることにした。
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