魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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二つの電子音

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 旭はマイクロチップの認証で研究室に入ると、やはりまだ誰も来ていなかった。ラグラニアの横のボードに、ラグラニアに入っている、とメッセージを残し、白斑に触れて中に入る。
 半球形の皓皓としたコクピット。
 また戻ってきた。
「おかえりなさい」
 機械的だがどことなく優しいエルザの声が頭上に響く。
「ただいま、エルザ」
 旭はリストアップされてない自分の質問をエルザに問う。
「エルザ、質問があるのだが、今このラグラニアでホログラムを発信してないか?」
「はい。――と交信はしています」
「交信!!」と、叫んだ時だった、背後から「きゃっ!」と言う吃驚の声が聞こえた。
 山代教授、何て声出してんだ――。
 旭は声のする方を振り向いた。そこには、エディアが目を瞬かせながら身を竦めて立っていた。
「エ、エディア! どうやってここに入ってきたんだ!!」
 目が慣れてきた彼女は、返事もせずキョロキョロとコクピット内を見渡していた。
「あっ、アキラ! アキラが突然消えたからびっくりしたわよ! それにしても何なの? 何なのよここ!?」
「エディア、なんで入ってきてるんだよ! 帰ったんじゃなかったのか!?」
「アキラがさー、何も言わないから、こっそりついてきたのよ」
 旭は気分が高揚していて、周囲を警戒することを忘れていた。旭は眉根をつまむ。
「お前、許可もらってないだろ! 停学、下手したら退学になるぞ!」
「えっ、そうなの!? 許可がいるの!?」
「当たり前だろ! 研究所には研究員以上しか入れないんだ」
「じゃあ、何でアキラは入っているの?」
「俺は……、その……」
 旭は、もう隠すことが出来なかった。
「げ、月曜付けで研究員になったんだ」
「うそー! アカデミー生で研究員だなんて!」
「そ、それにはちゃんとした理由がある。その前にここを出るぞ! 見つかったらやばい」
 そう言って、旭はエルザを呼び出した。
「エルザ、ここにいる2人を……」
 その途中で、また1つ「うっ!」、と呻き声が聞こえた。
 今度こそ教授だ。終わった――。
 恐る恐る声の主を見ると、ジェリコだった。
「ジェリコ、お前まで!!」
 目を手で翳しながらジェリコは必死に明かりに慣れようとしている。そして「ここが、ラグラニア?」と呻いていた。
「お前も、どうやって入ってきたんだ!? 山代教授にでも見つかったらアウトだぞ!」
 と、声に出したが、疑問は一つに向かった。
「それよりなぜその名前を知っている?」
「ああ、俺か? 俺は許可をもらったんだ」
「教授に? 教授が許可したのか?」
 この研究は極秘じゃなかったのか!? 混乱して二の句が出ない旭に、ジェリコはもう一度言った。
「正式に許可を貰って入ったんだ。俺がウソをついているとでも思うのかい?」
 旭は頭を振り、「……いいや、ジェリコが言うのなら本当なんだろう」と答えた。
 怜悧な笑みを見せたジェリコは、「どんな研究をしているか見せてくれないか?」と言い、ラグラニア内を舐めまわすように見渡し始めた。
「分かったよ。分かったから、余計なところ触るなよ! 大惨事につながる可能性があるからな。それとエディアは早く外に出るぞ」
「やっぱ、研究員様は違うわねー。何で命令形なのかしら!」
 傍らで、ジェリコが肩を揺らしながら笑いを堪えている。
「アキラに連れられて来たといえば、停学ぐらいで済むわよ、多分」
「だから、俺を巻き込むな! 俺が研究員から下ろされるじゃないか! エルザ、この女の子と俺をそ……」
 その時ジェリコの手首に巻かれたLOTと旭のそれから電子音が鳴った。そしてそのLOTの機械音声がほぼ同時に流れる。
「解読が完了しました。トリオン語を登録します」
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