魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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勇猛

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 ――あれは、対消滅反応!
 山代は破壊された扉の様子を見て愕然としていた。
 時間は少し遡り、ラグラニア内、エディアと山代の二人でアベルディの説得の様子を見ていた。
 ジェリコの顔を見た途端、エディアの相貌が強張っているのを山代は感じた。
「ロックベリー、落ち着くんだ。まずは平和的解決を」
 口には出すが、その結果は望み薄だと山代も感じていた。リータの説得は続くも会話は相手とかみ合っていない。
 そのような中、状況が動き出す。ジェリコが一歩前に進み、旭たちに向かって白い弾丸が飛び出す。そしてガラスケースに当たり対消滅を起こした。ガラスケースの神具が露になる。
 ――くそっ、だめか!
「ヤマシロ教授、私がジェリコを止めます!」
 その意見に山代は反論する。
「いや、ダメだ! コランダムには私の方が相性がいい!」
「テレス、赤外線モード!」
 リータが手を挙げた瞬間、ラグラニアのスクリーンは白煙に包まれた。
「エルザ、私を外に出して!」
 そのままエディアはスクリーンの中に姿を現して駆けた。
「あーもう! ボアズ、赤外線モード。エルザ、私を外に!」

 山代の目の前には、ログゼットが歩み寄り、アベルディが左手をしきりに前に出す二人がいた。
 紙を千切るようにお仕着せの服を脱ぎ捨て、上半身裸になったログゼットは、細剣を一回り大きくしたような剣を構え、アベルディに飛びかかった。アベルディは驚き竦み目を瞑ったが、剣はアベルディに届かず、ログゼットは飛びかかった勢いそのままに吹き飛んだ。だが転倒したログゼットはすぐに起き上がり、神妙な面持ちで再び剣を前にアベルディと対峙した。
「神具か……、面白い」
 ログゼットは目を輝かせ、再び構えた。
「はっ……、ははっ! ははは……!!」
 一頻り高笑いをしたアベルディの顔は先ほどとは違って自信に満ちたものだった。
「はは、さすがは神具と言ったところだな。あの希代の大将軍ログゼットの刃を寄せ付けないとは……」
 山代はアベルディに近づいた。
「そこの君、その腕輪を置きなさい!」
 山代はブラスターを構え、アベルディに告げる。
 ブラスターを向けられたアベルディは神祖の民が手にする武器を警戒した。
「神祖の民よ、これは私たちの世界の問題だ、手出しは無用」
 そう言いながら、ログゼットは山代の肩を引っ張った。
 その言葉を無視した山代は、アベルディに向かってトリガーを引いた瞬間、壁のようなものにぶち当たり跳ね返され、二メートル程飛ばされる。隣にいたログゼットも、その衝撃をくらい一緒に転倒する。
 すぐに体勢を整えて起き上がろうとしたとき、ベランダに通じる道からエリアナが出てきた。
「どうして出てきたんだ!? ここは危ないぞエリアナさん!」
 山代の忠告に1つ頷きで返したエリアナは、アベルディを見遣った。
「アベルディ様! やはり神具は神祖の民のもの。人の手には過ぎたものでございます。もう一度お考え直しを!!」
「くどいな。私も王族……、そしてダグラニ神書の古代文字を詳しく知るものだと言っているだろう」
「貴方もダグラニ神書の内容を少しでも知っていたらお分かりになられているはずです! 神具がどれだけ危険なものであるかということが!」
「無論、知っている。神具がどれほど人智を超えた素晴らしいものであるか。そしてその起動方法も!」
「やはりダグラニ神書の全てを解読した人がいたのですね!」
「ああ。そいつは私が古代文字所有罪で密告して、すでに廃人になっているがな。そいつの名前は何と言ったかな。……そうだ、ディニール・サンベストとかいう男だった」
「なっ!!」
 エリアナは驚愕した。その男の名前はエリアナの祖父の名前だったからだ。
「……ゅ、許さない! お祖父さんをそんな目に遭わすなんて!」
「ディニール……」
 ログゼットはカニエスの街でよく一緒に飲んでいた考古学者を思い出した。神祖の民という言葉を聞いたのも彼からだった。
 その言葉を聞いたログゼットは野生の獣のような眼つきに豹変した。隆々とした筋肉には無数の剣創や槍創が蔓延っていた。
 その姿に再びアベルディは呻きながら後ずさったが、引きつった顔でその足を止めた。
「そ、そんなもの、神具の前では単なる肉塊に過ぎない。神の力というものを存分に見せてやろう!」
 首を1回こきんと鳴らしたログゼットは勇猛な笑みを浮かべ、口上も無しに駆けて、今度は刃でアベルディに切りかかった。
 その獰猛な姿にアベルディは手で頭を庇ったが、ログゼットの打ち下ろしの剣はまたもアベルディの手前で跳ね返される。
 ぐうっ! と呻きながらも、上半身を大きく仰け反らせ衝撃に耐えた。ログゼットの分厚い筋肉が柔軟にダメージを殺したようだった。身体を元に戻す反動でログゼットはバランスを崩したままの体勢で追撃する。充分に引っ張られたゴムが元に戻るように、強靭な体が起き上がる勢いで追撃を試みるも、やはり跳ね返され、今度はリータのベッドへと吹き飛んで天蓋を壊した。ベッドの上のログゼットに天蓋が落ちて覆い被さる。
「ははは、大将軍の名が泣いてますよ! ログゼットは天蓋つきの寝具でないと寝れないのかと!」
 嘲笑するアベルディに山代は威力を抑えたブラスターを放ったが、彼の寸前で跳ね返され、壁に叩きつけられた。辛うじて後頭部を抑え、こちらもボディースーツで衝撃は跳ね返したので、そこまでのダメージは無かった。ただ、アベルディには、見えない壁が立ちふさがっている。
 ログゼットは纏わり付く天蓋を蹴り上げ、ベッドから飛び降りる。彼の口からは血が滴っていた。だが彼の口は笑みを浮かべながら猛る言葉を漏らす。
「面白い……。神祖の力と俺の力、どっちが上か、ディニールに聞いた頃から試してみたかった!」
 ベッドから大きく跳躍し再びアベルディに斬りかかるも、アベルディはそれを跳ね返す。
 ログゼットの100kgを超えるであろう巨体は、一度天井に叩きつけられ床へと落ちた。
「ぐっ……、くそっ! まだ弱いか!」
「もう止めるんだ! おそらくこれは腕力では無理だ!!」
 山代がログゼットに言う。
「口出し無用!! こいつは俺が倒す!!」
 体勢を整えたログゼットは再びアベルディへと突進していった。
 それとほぼ同時に山代はアベルディにブラスターを放つ。だがブラスターは跳ね返され山代を直撃し、その衝撃に彼は吹き飛ばされ背後の壁にしたたかに体を打った。
「は、はは……、何をしたのか分からなかったが、こちらの神具の方が上のようだな!」
 アベルディは高笑いで返す。
「どこを見ている。お前の相手は私だ!」
 ログゼットは再び剣を片手に駆けた。
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