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アリスタ・ヴェルデルト
胎動 その二
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ウィド・ベルニクスは比較的裕福な貴族の一人娘として生まれた。
彼女の母親はいつも彼女に家宝である五つのウィンザースターを見せる。タイガーアイのように白く煌めく筋がいくつも入ったその宝石は、彼女にとって我が身ともいえる存在だった。滅多な事では触れはしない。ただ見つめてひたすら愛でる。
ある日、彼女の前にフラムが落ちてきた。
ウィンザースターよりも目を奪われた彼女はフラムを手に取る。すると脳に直接、言葉が流れ込んできた。力と共に願いを叶えてやろう。
フラムを手にした彼女は、ウィンザースターを周囲に纏う事になった。
王都の大通りから離れた酒場で、二人の男が密会をしていた。まだ開店前のその酒場には、店主しかいなかった。
「ランデル様、情報を買っていただけませんか?」
「有益な情報か?」
「ええ、それはもちろん。争奪戦に有利に働きますよ」
ランデルは懐から情報屋に金貨を一枚渡した。「教えてくれ」
「二日前から、メディーサ様の事を嗅ぎまわっている者がいます。こちらから嘘の情報を流せますよ」
「そうか、やってくれ」
ランデルはもう一枚金貨を渡した。情報屋は飲まずに席を立った。
ジョッキになみなみと注がれたビールをランデルは一気に煽る。
「メディーサ様に覇権をとってもらわねばな」
ランデルはこれからの策を、ほろ酔いの頭で練り始めた。
各地で宝刀を狙った動きが加速していく中、アリスタ達三人は徒歩で王都入りを無事果たした。
ヴェルデルト邸と同程度の瀟洒な建物のが立ち並び、中央には他を圧倒する白亜の塔が聳え立っている。おそらくあそこにムエイがあるのだろうとランザの推測だった。途中百メートル四方の更地を横目に進む。そのまま約束の広場へと急ぐ。
広場の王像の前でルスナが出迎える。
「アリスタ様、お待ちしておりました」
「三人とも無事か?」
「はい、無事です。重要な情報も二つほど集めました」
「ありがとう。これから作戦を練るよ。ルスナも宿屋に」
「はい」
ルスナが先導し、一行は宿屋へと向かった。
宿屋は貸切られ一階の酒場ぐらいにしか関係者以外はいない。その宿屋の三階で会議は行われた。
ファニルカは纏めた情報を記したメモを見せながら、アリスタに述べる。
「メディーサという貴族が爆発物を使うようです」
「爆発物……」
アリスタは街の途中で見かけた更地を思い出した。
爆発の能力……、ありえなくもない。
「そのメディーサはどこに潜んでいる?」
「はい、西地区マラストの地下に潜伏しているとの情報を得ました。その情報筋から建屋も特定できています」
「万が一、爆発を起こしても、耐えられるのは私しかいません」アリスタは、ランザとアバスタスに言う。「メディーサとやらは、私が叩きます。お二人は他のウィド・ベルニクスかエベンゼ・レイトナを叩いて下さい。ですが相手の素性が分からない以上、深追いは危険です」
「そうですね」ランザは口の前で手を組んで思考を巡らす。「それか、アリスタ殿が叩いた後に合流して三人で一人一人潰していくのも手です」
その言葉を受け、アリスタは全部一人で遂行しようとしていた事に気づいた。
そうか、今の私には仲間がいるんだ。
思い直したアリスタは考えを変えた。
「分かりました。では先に私はメディーサを倒しに行ってきます。不測の事態になれば後援をお願いします」
「私たちは近くで待機しています。御武運を」
ランザは理知的な笑みを見せた。
彼女の母親はいつも彼女に家宝である五つのウィンザースターを見せる。タイガーアイのように白く煌めく筋がいくつも入ったその宝石は、彼女にとって我が身ともいえる存在だった。滅多な事では触れはしない。ただ見つめてひたすら愛でる。
ある日、彼女の前にフラムが落ちてきた。
ウィンザースターよりも目を奪われた彼女はフラムを手に取る。すると脳に直接、言葉が流れ込んできた。力と共に願いを叶えてやろう。
フラムを手にした彼女は、ウィンザースターを周囲に纏う事になった。
王都の大通りから離れた酒場で、二人の男が密会をしていた。まだ開店前のその酒場には、店主しかいなかった。
「ランデル様、情報を買っていただけませんか?」
「有益な情報か?」
「ええ、それはもちろん。争奪戦に有利に働きますよ」
ランデルは懐から情報屋に金貨を一枚渡した。「教えてくれ」
「二日前から、メディーサ様の事を嗅ぎまわっている者がいます。こちらから嘘の情報を流せますよ」
「そうか、やってくれ」
ランデルはもう一枚金貨を渡した。情報屋は飲まずに席を立った。
ジョッキになみなみと注がれたビールをランデルは一気に煽る。
「メディーサ様に覇権をとってもらわねばな」
ランデルはこれからの策を、ほろ酔いの頭で練り始めた。
各地で宝刀を狙った動きが加速していく中、アリスタ達三人は徒歩で王都入りを無事果たした。
ヴェルデルト邸と同程度の瀟洒な建物のが立ち並び、中央には他を圧倒する白亜の塔が聳え立っている。おそらくあそこにムエイがあるのだろうとランザの推測だった。途中百メートル四方の更地を横目に進む。そのまま約束の広場へと急ぐ。
広場の王像の前でルスナが出迎える。
「アリスタ様、お待ちしておりました」
「三人とも無事か?」
「はい、無事です。重要な情報も二つほど集めました」
「ありがとう。これから作戦を練るよ。ルスナも宿屋に」
「はい」
ルスナが先導し、一行は宿屋へと向かった。
宿屋は貸切られ一階の酒場ぐらいにしか関係者以外はいない。その宿屋の三階で会議は行われた。
ファニルカは纏めた情報を記したメモを見せながら、アリスタに述べる。
「メディーサという貴族が爆発物を使うようです」
「爆発物……」
アリスタは街の途中で見かけた更地を思い出した。
爆発の能力……、ありえなくもない。
「そのメディーサはどこに潜んでいる?」
「はい、西地区マラストの地下に潜伏しているとの情報を得ました。その情報筋から建屋も特定できています」
「万が一、爆発を起こしても、耐えられるのは私しかいません」アリスタは、ランザとアバスタスに言う。「メディーサとやらは、私が叩きます。お二人は他のウィド・ベルニクスかエベンゼ・レイトナを叩いて下さい。ですが相手の素性が分からない以上、深追いは危険です」
「そうですね」ランザは口の前で手を組んで思考を巡らす。「それか、アリスタ殿が叩いた後に合流して三人で一人一人潰していくのも手です」
その言葉を受け、アリスタは全部一人で遂行しようとしていた事に気づいた。
そうか、今の私には仲間がいるんだ。
思い直したアリスタは考えを変えた。
「分かりました。では先に私はメディーサを倒しに行ってきます。不測の事態になれば後援をお願いします」
「私たちは近くで待機しています。御武運を」
ランザは理知的な笑みを見せた。
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