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第一章 万華鏡
第八話 命の灯火
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「また失敗か……」
魔力の要らないアーティファクトの制作は、困難を極めていた。ミュールは完全に戦意喪失状態になり、宿泊している部屋から出て来ない。
「進展はしとるかの?」
港に来てから数日が経過していた。アズボンドのおかげで借りられた工房だが、そういつまでも居座る訳にはいかない。
「すみません。なかなか糸口が見つからなくて」
「確か、魔力が不要のアーティファクトでしたか」
この親父さんはこの工房の主人であり、シーランス港で指折りの錬金術師でもある。
アズボンドの一声で快く工房を貸してはくれたものの、さすがに何日も使われていては気にもするだろう。
「正に伝説級の品を作ろうとしているのですから、ワシも手を貸さないわけにはいきませんな」
「何か策があるのですか?」
親父さんは、部屋の片隅にあった石の板を取り出してそれを僕に渡した。
「古代の文献ですじゃ」
石板には古代文字が刻まれていた。
かつてこの地を治めた伝説の魔法使いは、自身の知識を子孫に残そうと、このような石板に術式を書き連ねては地中深くに埋めたという。
ここ数年の発掘調査により、世界各地でそれが発見され、研究家が翻訳を急いでいる。
「しかし、文字が読めないのではどうにも……」
「ワシは昔からこの時代の文献には興味がありましてな、翻訳用のアーティファクトを作ったのじゃ」
ホッホッホッと笑いながら彼が見せたのは、単眼鏡に似たアーティファクトだった。
「魔力ルーペと名付けた。これは微量の魔力を検知し、その著者の心を透かすことで文字を読み取るのじゃ」
親父さんの言う通り、僕は魔力ルーペで石板を覗いて見た。すると、読めないはずが脳内には翻訳された文字が浮かんでくる。
「何という画期的な」
「君には敵わんがの。少しは参考になったじゃろう?」
「はい、ありがとうございます」
『闇を照らすもの、光は根源たる魔力の象徴。その力は命の灯火を手に入れる事。その代償、或いは魔力でなくとも叶うだろう』
「ううん、サッパリだ」
これがヒントになっているのは確かだ。しかし、その意図が読み取れなくては解決には至らない。
こんな時は――。
「なるほど」
「どう?」
「何となくだけど、これはきっと君にしか分からないだろうね」
アズボンドは頭が良いが、意地悪だ。僕が分かるまで言わないつもりだろう。
「ヒントを与えるなら、君が国王の御前で賢者の石を創った時、魔力意外に使ったものを思い出してくれ」
「ステータスの運」
「そう、それがこの文献で語られている『魔力でなくとも叶う』ということじゃないのかな?」
つまり、何かを作る時や発生させる時、ステータスの一部を利用して魔力代わりにするということだ。僕は何も考えずにできたが、それを全ての人間に伝えるのは――。
「説明なんて不要だよ。魔封石に呪いをかければ良いんだ。アーティファクトの使用者が魔力以外を選択できるようにね」
「そ、それだ!!」
僕は急いで引きこもりのミュールを引きずり出し、文献に書かれた事とその解決方法を示した。
「呪いなんて危険です。私は反対ですよ」
喜んで喰いつくかと思ったが、彼女の反応は実に淡白なものだった。確かに呪いを創り出すという手もあるが、それは危険過ぎる。知り合いに優秀な魔法使いが居れば万事解決なのだが。
「それに、リシス様の弟子なら呪いを使おうなんて有り得ない発言よ!?」
「それは、どういう……」
「そこまでだ」
アズボンドは制止し、ミュールを落ち着かせた。
リシスと『呪い』には何か深い関係があるのだろうか。聞ける雰囲気でもないし、聞いてもきっとはぐらかされて終わるだろうから僕は何も言わなかった。
「危険だというのも分かるが、これしか手は無い」
「ああ、魔法使いを探そう」
「闇属性? そんなのこの町にはいねぇよ」
「呪いが得意な魔法使いかぁ……知らないねぇ」
「そんな奴探してどうするんだ。大体、禁忌に触れるような事には関わらない方が良いぞ」
捜索は難航した。
そして何より、禁忌がそこまで危険視されていたとは知らなかった。というか誰も教えてくれなかった。
「そんなの、魔法使いや騎士なんか禁忌持ちばかりだからさ。錬金術師には珍しいけどね」
「禁忌のレベルが8を越える人に出会ったことある?!」
「ああ、あるとも。君だ」
無性に殴りたくなる気持ちを抑え、魔法使い探しを続行した。
一日中歩き回り、気付くと東シーランスまで来てしまっていた。夜も更けてきたので、これから戻るわけにもいかず、2人で野宿を決行することとした。
「たまにはこんなのも良いねぇ」
「喜んでるのはアズボンドだけだよ」
「君は違うのかい?」
「寒いんだよ!」
東シーランスは海と山に挟まれた場所にある。その景色と恩恵は素晴らしいと思う。ただ、どこにいても風が吹いてくるのを除いて。
「じゃあ、温めてあげようか……?」
「おいおい、待て待て!」
アズボンドはゆっくりと僕に身を寄せ、その整った顔を近づけた。
「シントくんは良い匂いがするね」
「や、ヤメロォー!」
ピヨピヨと小鳥の囀りで目が覚める。東シーランスの朝は爽やかで、とても気持ちが良い。
顔に似合わずイビキをかくアズボンドを起こし、僕たちは一度シーランス港に戻ることにした。
「何か変だな」
「何かって?」
シーランス港へ向かって歩いている最中、アズボンドが異変に気付いた。彼は自慢の懐中時計を振ったり叩いたりして首を傾げている。
「どうしたんだよ」
「変なんだよ」
「だから、何が?」
「まだ、夜中の1時のはずなんだ」
魔力の要らないアーティファクトの制作は、困難を極めていた。ミュールは完全に戦意喪失状態になり、宿泊している部屋から出て来ない。
「進展はしとるかの?」
港に来てから数日が経過していた。アズボンドのおかげで借りられた工房だが、そういつまでも居座る訳にはいかない。
「すみません。なかなか糸口が見つからなくて」
「確か、魔力が不要のアーティファクトでしたか」
この親父さんはこの工房の主人であり、シーランス港で指折りの錬金術師でもある。
アズボンドの一声で快く工房を貸してはくれたものの、さすがに何日も使われていては気にもするだろう。
「正に伝説級の品を作ろうとしているのですから、ワシも手を貸さないわけにはいきませんな」
「何か策があるのですか?」
親父さんは、部屋の片隅にあった石の板を取り出してそれを僕に渡した。
「古代の文献ですじゃ」
石板には古代文字が刻まれていた。
かつてこの地を治めた伝説の魔法使いは、自身の知識を子孫に残そうと、このような石板に術式を書き連ねては地中深くに埋めたという。
ここ数年の発掘調査により、世界各地でそれが発見され、研究家が翻訳を急いでいる。
「しかし、文字が読めないのではどうにも……」
「ワシは昔からこの時代の文献には興味がありましてな、翻訳用のアーティファクトを作ったのじゃ」
ホッホッホッと笑いながら彼が見せたのは、単眼鏡に似たアーティファクトだった。
「魔力ルーペと名付けた。これは微量の魔力を検知し、その著者の心を透かすことで文字を読み取るのじゃ」
親父さんの言う通り、僕は魔力ルーペで石板を覗いて見た。すると、読めないはずが脳内には翻訳された文字が浮かんでくる。
「何という画期的な」
「君には敵わんがの。少しは参考になったじゃろう?」
「はい、ありがとうございます」
『闇を照らすもの、光は根源たる魔力の象徴。その力は命の灯火を手に入れる事。その代償、或いは魔力でなくとも叶うだろう』
「ううん、サッパリだ」
これがヒントになっているのは確かだ。しかし、その意図が読み取れなくては解決には至らない。
こんな時は――。
「なるほど」
「どう?」
「何となくだけど、これはきっと君にしか分からないだろうね」
アズボンドは頭が良いが、意地悪だ。僕が分かるまで言わないつもりだろう。
「ヒントを与えるなら、君が国王の御前で賢者の石を創った時、魔力意外に使ったものを思い出してくれ」
「ステータスの運」
「そう、それがこの文献で語られている『魔力でなくとも叶う』ということじゃないのかな?」
つまり、何かを作る時や発生させる時、ステータスの一部を利用して魔力代わりにするということだ。僕は何も考えずにできたが、それを全ての人間に伝えるのは――。
「説明なんて不要だよ。魔封石に呪いをかければ良いんだ。アーティファクトの使用者が魔力以外を選択できるようにね」
「そ、それだ!!」
僕は急いで引きこもりのミュールを引きずり出し、文献に書かれた事とその解決方法を示した。
「呪いなんて危険です。私は反対ですよ」
喜んで喰いつくかと思ったが、彼女の反応は実に淡白なものだった。確かに呪いを創り出すという手もあるが、それは危険過ぎる。知り合いに優秀な魔法使いが居れば万事解決なのだが。
「それに、リシス様の弟子なら呪いを使おうなんて有り得ない発言よ!?」
「それは、どういう……」
「そこまでだ」
アズボンドは制止し、ミュールを落ち着かせた。
リシスと『呪い』には何か深い関係があるのだろうか。聞ける雰囲気でもないし、聞いてもきっとはぐらかされて終わるだろうから僕は何も言わなかった。
「危険だというのも分かるが、これしか手は無い」
「ああ、魔法使いを探そう」
「闇属性? そんなのこの町にはいねぇよ」
「呪いが得意な魔法使いかぁ……知らないねぇ」
「そんな奴探してどうするんだ。大体、禁忌に触れるような事には関わらない方が良いぞ」
捜索は難航した。
そして何より、禁忌がそこまで危険視されていたとは知らなかった。というか誰も教えてくれなかった。
「そんなの、魔法使いや騎士なんか禁忌持ちばかりだからさ。錬金術師には珍しいけどね」
「禁忌のレベルが8を越える人に出会ったことある?!」
「ああ、あるとも。君だ」
無性に殴りたくなる気持ちを抑え、魔法使い探しを続行した。
一日中歩き回り、気付くと東シーランスまで来てしまっていた。夜も更けてきたので、これから戻るわけにもいかず、2人で野宿を決行することとした。
「たまにはこんなのも良いねぇ」
「喜んでるのはアズボンドだけだよ」
「君は違うのかい?」
「寒いんだよ!」
東シーランスは海と山に挟まれた場所にある。その景色と恩恵は素晴らしいと思う。ただ、どこにいても風が吹いてくるのを除いて。
「じゃあ、温めてあげようか……?」
「おいおい、待て待て!」
アズボンドはゆっくりと僕に身を寄せ、その整った顔を近づけた。
「シントくんは良い匂いがするね」
「や、ヤメロォー!」
ピヨピヨと小鳥の囀りで目が覚める。東シーランスの朝は爽やかで、とても気持ちが良い。
顔に似合わずイビキをかくアズボンドを起こし、僕たちは一度シーランス港に戻ることにした。
「何か変だな」
「何かって?」
シーランス港へ向かって歩いている最中、アズボンドが異変に気付いた。彼は自慢の懐中時計を振ったり叩いたりして首を傾げている。
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