もしも、工作が好きな普通の男の子が伝説のスキルを手に入れたら

小林一咲

文字の大きさ
8 / 31
第一章 万華鏡

第八話 命の灯火

しおりを挟む
「また失敗か……」

 魔力の要らないアーティファクトの制作は、困難を極めていた。ミュールは完全に戦意喪失状態になり、宿泊している部屋から出て来ない。

「進展はしとるかの?」

 港に来てから数日が経過していた。アズボンドのおかげで借りられた工房だが、そういつまでも居座る訳にはいかない。

「すみません。なかなか糸口が見つからなくて」
「確か、魔力が不要のアーティファクトでしたか」

 この親父さんはこの工房の主人であり、シーランス港で指折りの錬金術師でもある。
 アズボンドの一声で快く工房を貸してはくれたものの、さすがに何日も使われていては気にもするだろう。

「正に伝説級の品を作ろうとしているのですから、ワシも手を貸さないわけにはいきませんな」
「何か策があるのですか?」

 親父さんは、部屋の片隅にあった石の板を取り出してそれを僕に渡した。

「古代の文献ですじゃ」

 石板には古代文字が刻まれていた。
 かつてこの地を治めた伝説の魔法使いは、自身の知識を子孫に残そうと、このような石板に術式を書き連ねては地中深くに埋めたという。
 ここ数年の発掘調査により、世界各地でそれが発見され、研究家が翻訳を急いでいる。

「しかし、文字が読めないのではどうにも……」
「ワシは昔からこの時代の文献には興味がありましてな、翻訳用のアーティファクトを作ったのじゃ」

 ホッホッホッと笑いながら彼が見せたのは、単眼鏡に似たアーティファクトだった。

「魔力ルーペと名付けた。これは微量の魔力を検知し、その著者の心を透かすことで文字を読み取るのじゃ」

 親父さんの言う通り、僕は魔力ルーペで石板を覗いて見た。すると、読めないはずが脳内には翻訳された文字が浮かんでくる。

「何という画期的な」
「君には敵わんがの。少しは参考になったじゃろう?」
「はい、ありがとうございます」

  

『闇を照らすもの、光は根源たる魔力の象徴。その力は命の灯火を手に入れる事。その代償、或いは魔力でなくとも叶うだろう』

「ううん、サッパリだ」

 これがヒントになっているのは確かだ。しかし、その意図が読み取れなくては解決には至らない。
 こんな時は――。

「なるほど」
「どう?」
「何となくだけど、これはきっと君にしか分からないだろうね」

 アズボンドは頭が良いが、意地悪だ。僕が分かるまで言わないつもりだろう。

「ヒントを与えるなら、君が国王の御前で賢者の石を創った時、魔力意外に使ったものを思い出してくれ」
「ステータスの運」
「そう、それがこの文献で語られている『魔力でなくとも叶う』ということじゃないのかな?」

 つまり、何かを作る時や発生させる時、ステータスの一部を利用して魔力代わりにするということだ。僕は何も考えずにできたが、それを全ての人間に伝えるのは――。

「説明なんて不要だよ。魔封石に呪いをかければ良いんだ。アーティファクトの使用者が魔力以外を選択できるようにね」
「そ、それだ!!」

 僕は急いで引きこもりのミュールを引きずり出し、文献に書かれた事とその解決方法を示した。

「呪いなんて危険です。私は反対ですよ」

 喜んで喰いつくかと思ったが、彼女の反応は実に淡白なものだった。確かに呪いを創り出すという手もあるが、それは危険過ぎる。知り合いに優秀な魔法使いが居れば万事解決なのだが。

「それに、リシス様の弟子なら呪いを使おうなんて有り得ない発言よ!?」
「それは、どういう……」
「そこまでだ」

 アズボンドは制止し、ミュールを落ち着かせた。
 リシスと『呪い』には何か深い関係があるのだろうか。聞ける雰囲気でもないし、聞いてもきっとはぐらかされて終わるだろうから僕は何も言わなかった。

「危険だというのも分かるが、これしか手は無い」
「ああ、魔法使いを探そう」


「闇属性? そんなのこの町にはいねぇよ」

「呪いが得意な魔法使いかぁ……知らないねぇ」

「そんな奴探してどうするんだ。大体、禁忌に触れるような事には関わらない方が良いぞ」

 捜索は難航した。
 そして何より、禁忌がそこまで危険視されていたとは知らなかった。というか誰も教えてくれなかった。

「そんなの、魔法使いや騎士なんか禁忌持ちばかりだからさ。錬金術師には珍しいけどね」
「禁忌のレベルが8を越える人に出会ったことある?!」
「ああ、あるとも。君だ」

 無性に殴りたくなる気持ちを抑え、魔法使い探しを続行した。
 一日中歩き回り、気付くと東シーランスまで来てしまっていた。夜も更けてきたので、これから戻るわけにもいかず、2人で野宿を決行することとした。

「たまにはこんなのも良いねぇ」
「喜んでるのはアズボンドだけだよ」
「君は違うのかい?」
「寒いんだよ!」

 東シーランスは海と山に挟まれた場所にある。その景色と恩恵は素晴らしいと思う。ただ、どこにいても風が吹いてくるのを除いて。

「じゃあ、温めてあげようか……?」
「おいおい、待て待て!」

 アズボンドはゆっくりと僕に身を寄せ、その整った顔を近づけた。

「シントくんは良い匂いがするね」
「や、ヤメロォー!」


 ピヨピヨと小鳥の囀りで目が覚める。東シーランスの朝は爽やかで、とても気持ちが良い。
 顔に似合わずイビキをかくアズボンドを起こし、僕たちは一度シーランス港に戻ることにした。

「何か変だな」
「何かって?」

 シーランス港へ向かって歩いている最中、アズボンドが異変に気付いた。彼は自慢の懐中時計を振ったり叩いたりして首を傾げている。

「どうしたんだよ」
「変なんだよ」
「だから、何が?」

「まだ、夜中の1時のはずなんだ」

 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

処理中です...