もしも、工作が好きな普通の男の子が伝説のスキルを手に入れたら

小林一咲

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第二章 美談

第二十三話 決着

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 帝国を退けた王国参謀本部は、悲しいほどに魔王軍を軽視していた。「ただの魔物風情に負けるはずがない」と。

 宣戦布告したのは魔王軍の大尉『魔人シュルク・ターク』である。枡席とはいえ、若手衆の中では幹部たちにすら引けを取らない。暗に、彼は魔獣を私物化した聖国家アストリスをたった500の魔物で壊滅させていた。
 そんな情報が国王の耳に入るのは、まだ先の話である。

「状況は?」
「は。魔王軍とは未だ睨み合いが続いておりますが、動き出すのは時間の問題かと……」

 西門に到着したシントと50数名の兵士たちは、先着していた者たちから詳細を聞いていた。
 
「参謀本部が聞いて呆れるわよね。何も考えていないじゃないの」

 流石のマリーも不服な様子だった。それもそのはず、ここで食い止められたとしても、魔王軍は必ず復讐に戻ってくる。強靭な魔族や魔物を引き連れて。

 シントは魔王軍との和解を求め、門外へと出ようとしたが――。

「ダメだ! これは参謀本部からの命なのだぞ。勝手な行動は許さん」

 見張りの兵士長にあっさりと却下されてしまった。

 先の帝国との戦闘で兵士たちの体力は限界に近い。主力であるマリーやシントの魔力も底を尽きかけているし、こんな状況では、食い止めるどころか、勝ち目すら見えない。

「シントさんが作った通信用のアーティファクトがあったわよね?」
「それだ! 伝令兵さんにひとつお願いがあるのですが」
「は……」

 シントは無線機と名付けたアーティファクトを矢に括りつけると、魔王軍の足元に投げつけた。
 攻撃されたと勘違いした魔物数体がこちらを睨みつけるも、その異変に気づいたシュルク・タークが制止をかけた。
 彼は配下にそれを拾わせると、興味ありげに物色していた。彼はその異様な形状をした物が、非攻撃用のアーティファクトだと勘づいたのだ。

「あのお、聞こえていますか?」
「な、なんだこの声はっ?!」

 誰しも最初はこんなリアクションをする。魔人であってもそれは変わらないようだ。

「私はここです。城壁の上に居ます」

 シュルクが見上げた先には、1人の少年がこちらに手を振っている。
 仕組みは理解できなかったが、これがどういった物なのかは察したようで、彼もまた同じように手を振り返えした。

「魔族にも可愛らしいところがあるのね」

 と、呑気にあくびをするマリーはさておき、交渉の余地があると考えたシントは、の第一歩を踏み出した。

「いきなり矢など射って申し訳ありません、大尉殿」
「今は戦争中につき、それは無用な言葉だ。それより貴様は何者だ」
「僕――いえ、私はシント・レーブル。しがない錬金術師です」

 再度確認するようにアーティファクトを見るシュルク。実は彼、人族の魔法や錬金術に興味があるようで、関心したように唸った。

「その錬金術師が我に何か用か?」
「ええ、宣戦布告を撤回して欲しいのです。もちろんタダというわけではありません」
「どんなに金銭を渡されようとも、それは無理な願いだ」

 魔族にも金は必要なんだな、という言葉を飲み込み、更に交渉を続けた。
 シントが提案したのは、国王との謁見を許可するというものだ。

「いくら何でもダメです、シント殿!」

「あんな危険な男を城内に入れるなど!」

 詰め寄る兵士たちにマリーが魔杖を向けた。いつにも増して真剣な表情で。

「黙って見ていなさい」

 しかし、シュルクは嘲るように笑った。 
 そんな権限も威厳も、錬金術師と名乗る少年には微塵も感じ得なかったからだ。

「僕は国王と面識がありましてね。今ここで謁見の場をご用意できます」
「ハッ! 何を言い出すかと思えば、ただの知り合いというだけで王を動かすなど――」

「動かなくとも話はできようぞ」

 西門の城壁に映し出されたのは、正真正銘バモナウツ王その人であった。

◇◇◇◇◇

 数分前、宮殿内では。

「伝令、伝令! シント殿から陛下に文《ふみ》と投影機《アーティファクト》をお届けに参りました」

 シントが伝令兵に対してのお願いはコレだった。
 国王はそれらを受け取り、すぐに準備を始めさせた。

◇◇◇◇◇

 混乱するシュルクを見て、シントは交渉の最終段階に移る。

「大尉殿、こちらの事情もありますので、このような形で謁見とさせていただきたい」
「わかった……武装を解除し、バモナウツ王国への宣戦布告を撤回する」

 そこから魔族と人族の長による、世界初となる謁見が始まった。
 
 魔族側は、魔獣を身勝手にテイムした聖国家アストリスを壊滅させたこと、行方を眩ませた智慧のモルトケを探していることを伝えた。

 彼らの要求は、首謀者である智慧のモルトケを引き渡すことだった。

「なるほど。しかし、魔獣を率いた奴に攻め込まれたのは我が国なのだ。居場所が判明しているなら既に討っておる」
「城内に潜んでいる可能性もあり得る。取引をして匿っている可能性もな」

  魔族を城内に入れたくない人族と、人族を信じられない魔族との交渉は難航を極めた。
 人類史に深く刻まれるであろうこの謁見が、4時間を経過したころ、魔王軍が陣取る西側の森から、2人の男が誰かを担いで現れた。

「良かった。間に合ったんだ!」

 シントはそれが誰なのかすぐに分かった。白く細い腕に似合わぬ大きく、煌びやかな聖剣。彼はシントを見つけると大きく手を振ってみせた。

「アズボンド! エルも!」
「待たせたねシント」
「我はですかな……?」

 その場にいた全員が驚いた。聖剣を持つアズボンドの隣を歩いているのはエルロイド・ミルハイム。そしてエルが抱えているのは――。

「あの男は、まさか……」

「シュルク大尉。彼が君の探している『モルトケ・ハン』で相違ないか?」


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