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世界最高の賢者の息子、両親からの仕送りに困ってます
第1話 嘘は吐かないに越したことはない
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「またかよ……」
王都で一人暮らしを初めて2ヶ月が経った頃、母から小包が届いた。中には食料と手紙の他に、賢者である父が作った魔道具が入っていた。
それから1年が経った今でも、毎月のように仕送りに紛れて魔道具が送られてくるようになっている。
-元気にしてますか? サシくんの好きなカレーの具材と、お父さんの魔道具を送りました。役に立つかは分からないけど使ってね。
「まったくもう」
過保護の親を持つ全ての子供に同情する。
魔法学校に通いながら飲食店でバイトをしている僕にとっては、使い所のない物ばかりなので、家が魔道具で溢れそうだ。
「手紙返さなきゃまた怒られるしな」
前に一度返さなかった時は、500キロ離れた村から王都まで来てしまったこともある。とりあえず母と父に手紙を出し、僕は眠りについた。
翌日、小鳥の囀りで目覚めた僕は盛大に遅刻していることに気がついた。
「なんで毎日遅刻するんですか!!」
アザバンド先生の言葉に皆が笑う。そう、これは日常の風景である。
「もう戻って。授業に入りますよ」
「はい、すみません……」
朝が弱いのは昔からなんだけどね。
ここは魔法についてのあらゆることを学ぶ、『バリトリックス魔法学園』。授業の内容も、もちろん魔法についてだ。
「遅刻なんかしていて大丈夫なのか?」と思う方もいるだろうが、自分で言うのもなんだが、僕は地頭が良い。勉強なんかしなくても点数は取れるのだ。
「サシスト・マインベルトくん。この問題を――って」
そのせいで授業中寝てしまうので、内心点は底をついている。
「起きろオオオオオオオオ!」
「は、はひいいい」
こんな状況なので友達が入学以来ひとりもできない。この学校は基本的に貴族の子が多いので、一般家庭育ちの僕が目の敵にされることもしばしば。
「おい、マインベルト」
「なんですか、ビスケット様」
このライアン・ビスケットは由緒正しい王家の血筋だ。王族の家系なだけで、王様になれるわけではないのだが、本人はかなり王様気分のようだ。
「貴様、平民の分際で毎度遅刻とは許し難いな。いっそ父上に言って退学処分にしてもらおうか」
彼の父親は若くして騎士団長にのし上がった実力者。だが、騎士団長にそんな権限は無い、ということを僕は知っている。
本来なら無視したいところだけど、後々面倒になるので上部だけ謝っておく。
「それだけはご勘弁をー」
「貴様の謝罪を受け入れよう。だが、次は無いぞ」
こんな調子で、彼は僕の弱みに漬け込むなんてことはしない。ただ単純に威張りたいだけなのだ。言ってることは間違っていないしね。
でも本当になんとかしなくちゃな。ビスケットの言う通り、内申点が足りなくて留年、あるいは退学なんてことになったら目も当てられない。
「あの、マイベルト様……」
「ソフィア。何度も言うけど僕は貴族じゃないんだから敬語は要らないよ」
「はい……じゃなくて、うん!」
この子はソフィア・ブラウン。僕の同級生であり、唯一の友人だ。彼女もまた、貴族の御令嬢らしいのだが、なぜか僕に敬語で話しかけてくる。
「次の実技訓練、よ、良かったら一緒に行きませんか?」
「良いけど、また敬語になってるよ」
「あっ!」
この通り、とても可愛らしい女の子なのだ。
実技訓練とは、騎士を志す者が多いこの学園で、この後の人生を大きく左右する重要な授業。腕に自信のある者はここぞとばかりに訓練に励み、内政などの机に向かっている方が好きな者は見学することが許されている。
僕の場合、どちらでもない。と言うのも、この学園に入ったのは両親から半ば強制的にお願いされたから来ただけ。志なんてあったもんじゃない。
「見学の者は邪魔にならないように端へ、参加する者は私の元へ集まりなさい」
僕も今日は見学しよう。眠いし。
「マインベルトくんは強制参加ですよ」
「え?!」
「当たり前でしょう。クラス対抗の武術大会が近いのですから」
そういえば僕は剣術の腕を認められ、クラスの代表として武術大会に出ることになっていた。初めはビスケットに票が多かったのだけど、模擬戦でうっかり勝ってしまったおかげで満場一致で僕が選ばれた、というわけだ。
それもこれも、全部父さんのせいだ。
「今日は私が手合わせしてやろう」
「え、先生が?」
「不満なのか」
「いえ別に……」
担任のアザバンド先生は、時折こうして日頃の鬱憤を晴らそうと、生徒に模擬戦を挑んではボコボコにしている。元魔導部隊に在籍していた経歴を持ち、戦場での二つ名は『首切り魔剣士』。ただの噂なので実際はどうか分からない。
「特別に真剣でやってやろう」
「死んじゃいますよ!」
「ん? 武術大会も真剣だぞ。何か起こっても特急回復薬を持ってきているから心配するな」
「ええ……」
先生の愛剣『イグザニスト』かの大賢者が作り出したと言われる魔剣だ。
ま、その大賢者っていうのは僕のお爺ちゃんだけど。
「行くぞ!」
「うわ、待っ――」
早い、重い、隙が無い。
先生を生身で倒すなんて余程の騎士でなければ無理だろう。
そう、生身ならね。
「ほらほら、どうした?」
(アクティベーション、ロック)
「うっ……!」
鞘に収めたままの剣を、彼女の首元に当てがう。
これはスキルでも固有魔法でもない。父さんから貰った魔道具の力だ。ズルをしてもバレなければ問題にはならない、はず。
「僕の勝ちですね、先生」
「何が起こったんだ」
アクティベーション・ロック。これは対象の動きを一時的に停止させることができる。停止といってもコンマ何秒くらいなので周りにバレる心配も、まして本人にバレることもない。
小さな魔道具を腕に埋め込まれた時は殺されるのかと思ったが、あれば結構便利だ。
「後で職員室に来なさい」
あれ、もしかして、バレた?
_________________________________________
読んでいただきありがとうございました。
初めましての方は、はじめまして。
ファンタジー作品を中心に書いております。
小林一咲《こばやしいっさく》申します。
連載中の人気作
【ようこそ神様 ~もしも、工作が好きな普通の男の子が伝説のスキルを手に入れたら~】
https://kakuyomu.jp/works/16817330666797580306
作者おすすめの短編文学
【ドライフラワーが枯れるまで】
https://kakuyomu.jp/works/16817330654678879653
今回の作品は、随分前に書いて放置されていた作品です。
続くかどうかは――謎です。
それでは。
王都で一人暮らしを初めて2ヶ月が経った頃、母から小包が届いた。中には食料と手紙の他に、賢者である父が作った魔道具が入っていた。
それから1年が経った今でも、毎月のように仕送りに紛れて魔道具が送られてくるようになっている。
-元気にしてますか? サシくんの好きなカレーの具材と、お父さんの魔道具を送りました。役に立つかは分からないけど使ってね。
「まったくもう」
過保護の親を持つ全ての子供に同情する。
魔法学校に通いながら飲食店でバイトをしている僕にとっては、使い所のない物ばかりなので、家が魔道具で溢れそうだ。
「手紙返さなきゃまた怒られるしな」
前に一度返さなかった時は、500キロ離れた村から王都まで来てしまったこともある。とりあえず母と父に手紙を出し、僕は眠りについた。
翌日、小鳥の囀りで目覚めた僕は盛大に遅刻していることに気がついた。
「なんで毎日遅刻するんですか!!」
アザバンド先生の言葉に皆が笑う。そう、これは日常の風景である。
「もう戻って。授業に入りますよ」
「はい、すみません……」
朝が弱いのは昔からなんだけどね。
ここは魔法についてのあらゆることを学ぶ、『バリトリックス魔法学園』。授業の内容も、もちろん魔法についてだ。
「遅刻なんかしていて大丈夫なのか?」と思う方もいるだろうが、自分で言うのもなんだが、僕は地頭が良い。勉強なんかしなくても点数は取れるのだ。
「サシスト・マインベルトくん。この問題を――って」
そのせいで授業中寝てしまうので、内心点は底をついている。
「起きろオオオオオオオオ!」
「は、はひいいい」
こんな状況なので友達が入学以来ひとりもできない。この学校は基本的に貴族の子が多いので、一般家庭育ちの僕が目の敵にされることもしばしば。
「おい、マインベルト」
「なんですか、ビスケット様」
このライアン・ビスケットは由緒正しい王家の血筋だ。王族の家系なだけで、王様になれるわけではないのだが、本人はかなり王様気分のようだ。
「貴様、平民の分際で毎度遅刻とは許し難いな。いっそ父上に言って退学処分にしてもらおうか」
彼の父親は若くして騎士団長にのし上がった実力者。だが、騎士団長にそんな権限は無い、ということを僕は知っている。
本来なら無視したいところだけど、後々面倒になるので上部だけ謝っておく。
「それだけはご勘弁をー」
「貴様の謝罪を受け入れよう。だが、次は無いぞ」
こんな調子で、彼は僕の弱みに漬け込むなんてことはしない。ただ単純に威張りたいだけなのだ。言ってることは間違っていないしね。
でも本当になんとかしなくちゃな。ビスケットの言う通り、内申点が足りなくて留年、あるいは退学なんてことになったら目も当てられない。
「あの、マイベルト様……」
「ソフィア。何度も言うけど僕は貴族じゃないんだから敬語は要らないよ」
「はい……じゃなくて、うん!」
この子はソフィア・ブラウン。僕の同級生であり、唯一の友人だ。彼女もまた、貴族の御令嬢らしいのだが、なぜか僕に敬語で話しかけてくる。
「次の実技訓練、よ、良かったら一緒に行きませんか?」
「良いけど、また敬語になってるよ」
「あっ!」
この通り、とても可愛らしい女の子なのだ。
実技訓練とは、騎士を志す者が多いこの学園で、この後の人生を大きく左右する重要な授業。腕に自信のある者はここぞとばかりに訓練に励み、内政などの机に向かっている方が好きな者は見学することが許されている。
僕の場合、どちらでもない。と言うのも、この学園に入ったのは両親から半ば強制的にお願いされたから来ただけ。志なんてあったもんじゃない。
「見学の者は邪魔にならないように端へ、参加する者は私の元へ集まりなさい」
僕も今日は見学しよう。眠いし。
「マインベルトくんは強制参加ですよ」
「え?!」
「当たり前でしょう。クラス対抗の武術大会が近いのですから」
そういえば僕は剣術の腕を認められ、クラスの代表として武術大会に出ることになっていた。初めはビスケットに票が多かったのだけど、模擬戦でうっかり勝ってしまったおかげで満場一致で僕が選ばれた、というわけだ。
それもこれも、全部父さんのせいだ。
「今日は私が手合わせしてやろう」
「え、先生が?」
「不満なのか」
「いえ別に……」
担任のアザバンド先生は、時折こうして日頃の鬱憤を晴らそうと、生徒に模擬戦を挑んではボコボコにしている。元魔導部隊に在籍していた経歴を持ち、戦場での二つ名は『首切り魔剣士』。ただの噂なので実際はどうか分からない。
「特別に真剣でやってやろう」
「死んじゃいますよ!」
「ん? 武術大会も真剣だぞ。何か起こっても特急回復薬を持ってきているから心配するな」
「ええ……」
先生の愛剣『イグザニスト』かの大賢者が作り出したと言われる魔剣だ。
ま、その大賢者っていうのは僕のお爺ちゃんだけど。
「行くぞ!」
「うわ、待っ――」
早い、重い、隙が無い。
先生を生身で倒すなんて余程の騎士でなければ無理だろう。
そう、生身ならね。
「ほらほら、どうした?」
(アクティベーション、ロック)
「うっ……!」
鞘に収めたままの剣を、彼女の首元に当てがう。
これはスキルでも固有魔法でもない。父さんから貰った魔道具の力だ。ズルをしてもバレなければ問題にはならない、はず。
「僕の勝ちですね、先生」
「何が起こったんだ」
アクティベーション・ロック。これは対象の動きを一時的に停止させることができる。停止といってもコンマ何秒くらいなので周りにバレる心配も、まして本人にバレることもない。
小さな魔道具を腕に埋め込まれた時は殺されるのかと思ったが、あれば結構便利だ。
「後で職員室に来なさい」
あれ、もしかして、バレた?
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読んでいただきありがとうございました。
初めましての方は、はじめまして。
ファンタジー作品を中心に書いております。
小林一咲《こばやしいっさく》申します。
連載中の人気作
【ようこそ神様 ~もしも、工作が好きな普通の男の子が伝説のスキルを手に入れたら~】
https://kakuyomu.jp/works/16817330666797580306
作者おすすめの短編文学
【ドライフラワーが枯れるまで】
https://kakuyomu.jp/works/16817330654678879653
今回の作品は、随分前に書いて放置されていた作品です。
続くかどうかは――謎です。
それでは。
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