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第9話 逆転

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 それからしばらくはカリンの看病をする毎日だった。彼女の容体も快方に向かっていたが、まだ出歩けるほどではない。しかし……。

「今日はなに?」
「あ、まだ起き上がっちゃダメですって!」
「もう大丈夫よ。寝てばっかりいたってダメでしょ」

 彼女はベッド生活に飽きたようで、キッチンまで出てきてしまった。

「それはそうかも知れませんけど、ジルさんからあと一週間は安静にしてと言われたでしょう?」
「あんなジジイの言うことなんて聞かなくてもいいわ」
「よくありません!」

 僕が一喝すると、悲しそうな表情をしてトボトボと寝室に帰って行った
 ここ最近は立場が逆転しているように思う。他の人間が見たら驚愕する風景だろうが、彼女は案外素直に受け入れている。

「はい、出来ましたよ」
「あーん、は?」
「ええ?!」

 素直なのは良い事だが、その代わり甘え方もストレートになっていた。

「なによ」
「もう歩けるくらいなんですから、そろそろ自分で食べられるんじゃ……?」
「いいえ、無理です」

 頑固さは変わらない。

「分かりましたよ。はい、あーん」
「あーん」

 牛丼をもぐもぐしながら僕を見つめた彼女はとてもご機嫌だ。
 そんな時、玄関から声がした。

「御免くださーい」
「はーい、ただいま!」

 タイミングが悪いと怒る彼女を置いて玄関に向かった。

「やあ、元気か?」
「に、兄さん?!」
「そんなに驚くかね」

 声の主は兄のタッグだった。頭をポリポリ掻きながら苦笑いを浮かべる。

「今日はなんの用です?」
「そうそう、今日はカリン殿に話があってね」
「カリン様に……?」

 あの怪我といい、このタイミングでの訪問は何故だかとても嫌な予感がする。

「最近、大きな怪我をしてしまったので面会はできないんです」
「それは知っている」

 やはり反乱軍が関わっているのだろうか。
 僕は実の兄に警戒心を持っていたし、タッグもそれに気がついていた。

「言わんとすることは分かるが、大事な用なんだ。通してくれ」
「でもっ……!」
「良いのよ」

 カリンが布団を引き摺りながら玄関まで出てきた。

「理解があるのは嬉しいな」
「それで、私に何の用です」
「今日は他でも無い、お願いがあって参上した」
「お願い……?」

 兄はなにを言おうとしているのか、カリンはそのお願いにどう答えるのか。僕は2人の様子をただただ見守っていた。

「テュールフ領に反乱軍を受け入れて欲しい!」

 地べたに額をつける程土下座をしている兄からは、その言葉が嘘だとは感じ取れない。僕は生唾を飲み込んで彼女の返答を待った。



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