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第11話 訪ずれ

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『反乱軍のタッグ・ベラッシが重傷につき、至急報告を』

 今から1時間前、屋敷に凶報を乗せた一羽の鳩が舞い込んだ。
 手紙の内容を確認した僕はカリンに了解を貰い、急いで軍の元へと向かった。

「兄さん!!」
「大きな声を出すな、傷に障るだろ」

 兄の全身には包帯が巻かれ、見るに堪えない悲惨な格好であった。

「重傷ってほどじゃないぞ。まぁ、しばらく動けんだろうがな」
「それを重傷って言うんだよ!」

 とにかく話せる程度には元気だったので、少し安心した。

「エンタ様、お久しぶりです」
「ジルさん。兄がお世話になっています」
「いやはや、実の兄弟だったとは――。挨拶はこのくらいにして、実はカリン様に伝えて頂きたいことがありまして」

 町医者のジルの話では、兄の身体からは魔法の痕跡が見つかったらしく、それは『ビットウェーブ・コルタニカ』によるものだと判明した。

「ビットウェーブと言うと、ここから遠くない領地ですね」
「ええ。コルタニカ様はとても聡明で、領民からの人気も高い御方なのですが……」

 ああ、なるほど。カリンと相性が悪いのか。

「俺はカリン様の命令でビットウェーブ領の偵察をしていたんだ」

 タッグの話によると、6名で偵察中だった彼らは、領内の林道でローブを着た何者かに襲われた。その後、攻撃を受けた彼らは散り散りとなり、タッグ以外は全滅したということだ。

「顔は見えなかったが、アレは只者じゃない」
「相手は1人だったのにどうして……」
「奴は魔女だった。間違いない」

 魔女といえばコルタニカか?
 だがしかし、安直に考えすぎているような気もする。

「とにかく急いでカリン様に伝えてくれ。、と」




「おかえり。早かったわね」
「反乱軍のタッグから伝言がありまして」

 僕はタッグとジルの話を全て伝えた。
 カリンは、少し考え込んでから僕の目をじっと見つめた。

「今日で使用人はクビよ」

 突然の言葉に世界の風が止まった様な感覚に陥った。混乱や悲しみが僕の目から溢れた。

「ど、どうしてそんなこと……」
「言った通りよ。近くここは戦場となるでしょう。私は君の命が大切なの」

 
 今日は眠れる気がしない。
 兄やカリンの言葉は、僕の胸を抉るようにこだましていた。

 カリンは僕が大切だと言ってくれた。でも、それによって僕がここを離れることになるのなら――。

「まだ起きてたのね」
「カリン様……」

 射し込む月明かりに照らされ、揺れる黒髪が白く光っている。

 僕は彼女から目を逸らした。美しさに見惚れたわけでも、不貞腐れているわけでもない。ただ、泣いている顔を見られたくなかったのだ。

「泣き顔なら見たわよ。今更隠さなくても良いんじゃない?」

 変なプライドも、彼女には筒抜けだったようだ。

「強がらなくていいよ」

 背後から伸びる細く冷たい腕は、僕の身体を優しく包んだ。
 涙が頬を伝って止めどなく流れてくる。これも、彼女の魔法の力だろうか。

「ありがとう。元気でねエンタ」
「カリン様――」

 言葉は溶けるように消え、僕はそのまま気を失った。



「残るはアジクワット、テュールフ、南シューゲンの3国か」
「いずれも領主が強く、領民からの信頼も厚い国です」
「工作は慎重にいかねばならん」

 この日、テュールフから20キロほど離れた領地が何者かの手に堕ちた。


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